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side千鶴――賢者の手記2

風邪ひいてました、申し訳ない。




クリスマスイラスト?季節のイベントif小話?もちろんあるはずがないですってば。


そういえば、この連載が完結したあとの企画みたいなものが(脳内で)進行中なわけですが、ジャンルで迷ってるんですよね。恋愛でも童話でもいけそうな感じで(冬の童話祭に参加しようと思ってて、うっかり手続きし忘れただなんて言えないんだぜ……)

いつか日の目を見るときがくる……といいなあ。

「どうぞ、こちらになります」


 図書棟の司書さんが案内してくれたのは、貴重な本なんかの閲覧用の個室だった。司書さんが扉を開けると、そう広くはない室内に置かれた机に一冊の本があるのが見えた。


 年代を感じさせる豪華な革の装丁。表紙には宝石があしらわれ――って、もしかしてあれ……


「魔石――?」


「ああ、流石は勇者様ですね」


 オリジナルには劣るとはいえ、写本も貴重なものであることには変わりはないので、本来の表紙の上から汚損防止の魔法が掛かったカバーをかけて保護しているそう。


「そうなんだぁ。魔法って凄いよね」


 そっと表紙を撫でながら感心の声を上げるわたしに、司書さんは微笑み、頭を下げた。


「では私はこれで。何かありましたら、遠慮なく声をお掛け下さい」


「あ、はい。態態ありがとうございました!」


 パタリと扉が閉まり、改めて『賢者の手記』と向き合う。


 一体どんなことが書いてあるんだろう? 魔法の開発記録とか冒険者ギルドの構想メモ? 案外今日の晩御飯とかそんな内容だったりして。

 そんなことを想像しながら本を捲るのは、面会の合間に出来た時間のいい息抜きになると思ったのだ――。


 『賢者の手記』は、想像していたよりは随分と薄手の本だった。表紙に使われている革ががっしりしているから、実際には見た目よりもっとページ数は少ないかもしれない。


 ちょっとドキドキしながら表紙を持ち上げる――夕べはそんな訳ないよねって誤魔化しだけど、本当は心のどこかで“わたしなら”って思っていた。


 だって、教わってもいないのにこの世界の言葉がわかったから。


 日本語を話している、聞いているつもりなのに自動で翻訳されてたから。


 誰も解読に成功していないような古い文字とか。


 賢者と呼ばれる程に天才的な人がオリジナルで編み出した暗号とか。


 わたしなら読めるんじゃないか――って。


 そんな、楽天的と言うよりはいっそ傲慢と言った方が正しいかもしれないわたしの自信は。


「え?」


『覚え書き』と。


 日本語で書かれたタイトルが目に飛び込んで来たことで、見事に肩透かしを食らうのだった。


「――え?」






「嘘、なんで……」


 呆然とその文字を眺める。


 精巧に模写されたとはいえ、この世界に漢字が存在しないからだろう、微妙に書き順やとめ、はらい等に違和感を感じるそれは、でもやっぱり何度見ても日本語で――。


(賢者ソーマ・ユートは日本人……?)


 頭の中は混乱したままだが、兎に角『賢者の手記』を読み進めてみようとページを捲る。きっとこの中に答えはあると信じて。


『これを読んでいるのは、自分と同じく“神様の手違い”で転移した奴なのかそれとも地球の記憶を持って転生した“記憶持ち”か、それともあいつらに召喚されてしまった“勇者”か――』


 そんな出だしで始まる手書きのノートに、わたしははっとする。


 転移者に転生者――。召喚者がいるのなら転移者や転生者だっているんじゃないか? 実際にそう考えたことがなかった訳じゃない。

 だからこそアルスさんやサキちゃんが日本人もしくは日本に関係してるんじゃないかと疑ったんだし。


 それに、わたしは以前思ったはずだ。この世界はあんまり現代知識チート出来なさそうだなあ、って。


 ――そう。まるで誰かが既にやり終えてしまったかのように。


 ソーマ・ユート――ううん、相馬悠斗さんは日本ではアニメやゲームが好きという……つまり、所謂少年の心を持ち続けたまま魔法使いを経て賢者に到らんとする? ごく普通の会社員だったそう。

 ――“魔法使い”とか“賢者”というのが年齢の比喩だっていうのは、何となく読み取れた。うーんと、多分だけど三十代から四十代位だったのかな、相馬さん。


 それが通勤途中の事故で死んだと思ったら、不思議な空間で神様と名乗る人物と対面していた。曰く、ちょっとした手違いで君は死んでしまった、お詫びに異世界に特典付きで生き返らせてあげる、と。






「神様なんて……わたし会ってない」


 これが召喚と転移の差……? 何なんだろう?






 剣や魔法などいくつかのスキルを貰い、あと十代半ばくらいに若返らせて貰った相馬さんは、まさに王道主人公といった感じの活躍を見せる。


 ごろつきに襲われている女の子を助けたらお忍び中の王女様で、彼女に気に入られた相馬さんは王女様付きの護衛に雇われ――この時名を訊かれてつい日本風に答えてしまったことで、ユート・ソーマではなく逆に覚えられたまま今に到る……ということらしい。


 仕事の傍ら王女様に意見を求められ、日本での福祉や衛生事情、教育制度なんかについて口にしたことから、王女様が主導するそれらの事業のアドバイザー的なポジションに据えられたり。


 そんな日々の中、街や冒険で出会ったり助けたりした人達が相馬さんや王女様の志に共感して仲間になってくれたり(妙に女の人の割合が高いのは……その、あれだ、やっぱり王道主人公だから?)。



 そして相馬さんは最愛の人、ベルーカさんと出会う。



 その頃、異世界もののラノベなんかでよくある魔道具を創れないかと魔石の研究をしていた相馬さんは、魔石集めに出掛けていた森で、闇奴隷商人に追われる女の子を助けた。それがベルーカさん。


 ベルーカさんは、彼女の持つ高い魔力に目をつけられて奴隷狩りに遭ったのだそう。行く宛もないというベルーカさんは相馬さんに保護され、やがて二人は愛し合うようになり――


『周りは可愛い女の子だらけでまるでハーレム状態! なんて浮かれてた自分が馬鹿みたいだ。地位とか名声とか、そんなものもどうでもいい、彼女さえいてくれるならそれで、本当にそれだけでよかったんだ……。』



 しかし、幸せに満ちた日々は唐突に終わりを告げる。



 魔族や、魔力の高い人達から魔石を作り出そうという狂気的な研究者集団にベルーカさんが拐われてしまったのだ。


 相馬さんは彼女を救い出し、組織を壊滅させることに成功するが、この事を切っ掛けに魔族への反発が高まり、魔女狩りならぬ魔族狩りが大陸中で行われるようになった。


 そのうち、ただ魔力が高いだけの人まで魔族として追われ始め。


 ……ベルーカさんは、相馬さんが冒険者ギルドの立ち上げのため他国に交渉に赴いている間に、魔族であることを隠していたのが露見して魔族狩りに遭うが、追っ手から逃れてそのまま行方不明になっていた。





「そんな、ベルーカさんが魔族って――でも、全然そんな風に見えなかった……」


 だって、相馬さんの文から伝わってくるベルーカさんの様子は、喜びもすれば悲しみもする、人を気遣うことだって当たり前に出来る、本当に普通の人だったのに。


 気を取り直して、ノートを読み進めていく。





 失意の相馬さんに寄り添い、立ち直らせたのは彼の雇い主でもある王女様だった。そして気付けば相馬さんは彼女の実質的な婚約者と見なされていて。


 王女様は相馬さんがベルーカさんのことを今でも想っているのは分かっている、自分との結婚は相馬さんが彼の立場をより確固としたものにするための足掛かりだと思えばいいと告げ。





(おお、これって契約結婚からの真実の愛が芽生えるやつ……?)





 そうは言っても王女様に悪いと相馬さんが躊躇っている内に、あれよあれよと話は進み、何故かなし崩し的に他の仲間の女の子達とも結婚することになっていた時には、思わず乾いた笑いが出てしまったと相馬さんは書いている。





 ――うん、わたしもその展開にはびっくりした。





 ギルドの運営も軌道に乗り始め、ベルーカさんを失った心の傷も少しずつ癒えて来た――と思っていたある日、相馬さんは彼の奥さんの一人――といっても形だけの、だけど――からある告白を受ける。


 それは、ベルーカさんが魔族であることを密告したのは王女様であるというものだった。それどころか……(この部分は黒く塗り潰されていて読めなかった)。


 そもそもベルーカさんが魔石の研究組織に拐われたのも、相馬さんの心を射止めるのに邪魔なベルーカさんを排除しようという、王女様の画策によるものだったらしい。


 また、王女様同様に相馬さんを想っていた彼の仲間達(つまり今彼の奥さんに納まっている人達)も共犯だというのだ。


 この告白をした人は、ずっと黙っていたけど罪の意識に耐え兼ねて……と彼に語った。


 相馬さんの心に、急速に王女様達、更には国への不信が芽生えていく。そんな折、大陸の東、魔の森の向こうに逃げ延びた魔族達を追撃するための勇者召喚が行われた――行われてしまった。


 いつだったか王女様に日本のことを訊かれて、異世界から召喚された勇者が魔王と戦うゲームや小説等について紹介したことがあった。これから着想を得たのだろう。


 それから、いつか自力で地球に帰る為にと開発していた、異世界間の転移魔法――ベルーカさんと生きると決めた時に、資料や開発途中の魔法陣は破棄した筈だった――この魔法が利用されていたのは明らかだった。


 何故なら、色々と書き換えられてはいたが所々術式に見覚えがあり――特に、座標を指定する部分には手が加えられておらず、果たして勇者は自分しか知り得ない筈の地、日本から召喚されたのだから。


 この事が決定打となり、相馬さんは国を出ること、そして、ベルーカさんを見付け出す旅に出ることを決意する。


 自分は勇者の一行に選ばれているからまずはそれに従って、適当なタイミングでパーティーを抜け、魔の森の向こうに隠れ住む魔族達に接触してベルーカさんの手掛かりを探すつもりだ、とノートには記されていた。もし可能なら勇者達の説得もしたい、とも。


『もし、君が召喚された勇者で、魔族討伐に力を貸してほしいとでも言われたのだとしたら、言われるがままに魔族は悪だと信じているのなら――

 どうか今一度考えてみてほしい。何故魔族を倒さなければならないのか、本当にそれは絶対に必要なことなのか、“魔族”と呼ばれている人達は本当は何者なのか――?

 少なくとも俺は、あの“魔石事件”が起こるまで“魔族”という存在を知――(塗り潰されていて読めない)。

 どうか、どうか今一度よく考えて、願わくは真実に辿り着かんことを。』


『――本当は召喚魔法の存在を抹消してから旅立ちたかった。しかし、魔法陣の置かれている部屋は厳重に隠されていて辿り着けそうにない。

 こんなつもりであの魔法を作ったんじゃないんだ、あいつらは俺が反対すると分かっていて、ギリギリまで勇者召喚のことを隠して……知っていたなら何としても阻止したのに。

 俺は君に謝ることしかできない、巻き込んでしまって本当に申し訳なかった。すまない、本当にすまなかった。』





 そう書き記す相馬さんの筆跡は所々震えていて、彼の悔しさ、後悔、そんな感情が伝わってくる。


 わたしは、思わずノートに向かって「そんなに謝らなくていいよ!」と叫びたくなった。


 だって、他の勇者達がどう思おうと、わたしはこの魔法に確かに助けられたのだから……。








 『賢者の手記』を読み終わったわたしは、相馬さんからのメッセージをどう受け取るべきなのか、眉を寄せて考え込んでしまっていた。


「……これはどういうこと、なんだろう……?」



 魔族って、世界征服を企む人類の敵で。


 魔物を操って危害を加えているから倒さなきゃいけなくて。


 きっと、ゲームとかに出てくるような悪者の筈で……。



「でも、相馬さんとベルーカさんは心から想い合っていた……」



 本当に魔族は悪い人達ばかりなのだろうか――?


 魔族なら絶対に、全員倒さなきゃいけないのだろうか……?


 もし、ベルーカさんみたいな魔族が他にもいるのなら……。


 魔族の全員が魔王に賛同しているのでないのだとしたら――。



「わたし、考えなきゃ――」


 この世界を“本当に”救う為には何が必要なのか。


 そう。わたしは考えないといけない。




 ――真実に辿り着く為に。


シチューを作っていて塩を入れようとしたら、瓶の中蓋が外れてひと瓶まるごと鍋にinしてしまったでござる。


すくえるだけはすくったけど、出来上がったのは泣けるほど塩辛いシチュー。


そんなとき、どうやってリカバリーすればよいだろうか。――普通やらねーよ、そんなドジするのはお前だけだよ!ですか、ごもっとも。



1.具とスープ?部分を分ける。


2.具の方に水や牛乳、分けておいたスープ部分で味を調整し、なんか出汁の薄いシチューもしくはミルクスープとして食べる。


3.塩加減を見てコンソメを加えたり、バターと小麦粉1対1でを練ったやつ――つまりブールマニエね――を足したり。


4.次の日、玉ねぎのみじん切りと挽き肉を炒めてバターと小麦粉を加えたものに残りのスープと牛乳で味やとろみを調整してクリームスパゲティーにする。挽き肉を香ばし目に焼くと美味しいでしょう。


5.まだ残っていたら、鶏肉もしくは豚肉をソテーして、スープにトマト缶と生クリームまたはコーヒーフレッシュ少々をぶちこんでソテーにかけて食べましょう。





書いててこう、なんだ、切ない。

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