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side千鶴――賢者の手記1

この一週間ほど、「なろうは読者のレベルが低いと言われるがそれはどういうことなのか」といった議論がなろうエッセイ界隈で盛んなようです。

まずは何をもってレベルと称しているかの共通認識を持つことの重要性に気付かせてくれたり、“読者レベル”というものを定義するためのさまざまなアプローチなど、非常に興味深いものばかりでした。




でもあれって正直な話「なろうはテンプレチーレム(悪役令嬢ざまぁ)ばっかりでクソだ」を言葉を変えて言ってるだけだと思うので、真面目にレベルについて考えてもしょうがないっていうか、いや、そういうわかりきったことを真面目に考えるのって楽しいですよね、わかります。


ま、つまり読者レベルが低い=テンプレ勢乙くらいの気持ちでいいんじゃないかしら。

で、それに対する返しとしては、「例えそれが駄菓子だろうと高級スイーツだろうと、好きなものは好きなんだからほっといて!」みたいな感じで。


以上、こむるの独断と偏見に満ちた読者レベル論でした。

そんな話はちゃんとエッセイでやれ? めんどいからやだ。

(あーあ、失敗しちゃったなあ……)


 白く凍てつく息を吐きながら夜空を眺める。


 いつもの庭のいつものベンチ。気がつけば視線は賓客棟の2階を彷徨い、アルスさんの部屋に灯りがあるか探してしまっている。


(――って、そう都合よく何度も顔を出してくれるわけないよね)


 そうしたら、改めてちゃんと謝れるのに……。


 溜め息をついた、その時。


「こんな寒い夜にいつまでも外にいると風邪をひくぞ?」


 そんな呆れ声と共に、肩にふわりと暖かなものが降ってくる。


「あ……エドガー」


 肩に掛けられたものはどうやらエドガーの上着だったようだ。


「わたしなら大丈夫だよ、それより、エドガーこそちゃんと着なきゃ」


 隣に腰掛けたエドガーはわたしの両手を包み込むように握ると、僅かに眉を寄せた。


「ああ、こんなに冷えて――」


 その手の暖かさにわたしは、あんまり大丈夫じゃなかったかもと思い直す。


「ごめんね、考えごとしてたらつい時間が経ってたみたい」


「考えごと?」


「あ、ううん。大したことじゃないから」


 そう苦笑して首を振るが、エドガーは握ったままのわたしの手を持ち上げるときゅ、と僅かに力を込め、


「それでも、こんなになるまで悩んでいたのだろう? 話してはくれないか? ――それに、もし解決しなくても話せば気が楽になるかもしれない」


 完璧なまでの王子様スマイルをくれたのだった。



 思わず赤くなるわたしに畳み掛けるように、更にエドガーは言い募る。


「チズルの力になりたい――いや、そうじゃないな。知りたいんだ、チズルのことなら何だって」


「……っ!」


 ちょ、ちょっと落ち着こう、落ち着こうか自分。


 大丈夫変な勘違いなんてしてない、いやかなりしそうになってるけど、エドガーは紳士でフェミニストなだけでわたしたちは仲間ってだけで、うわぁああ明るい場所でなくてよかった今絶対湯気が出そうな程真っ赤だよ! なに、何なの!? わたしのことなら何だって知りたいって、タラシなの、無自覚タラシなの!? ……ていうか手は握ったままですか、そうですか――!


「反省会! 一人反省会を開いてたのっ、だから」


「一人反省会……何か反省するようなことがあったのか?」


 おかしそうに笑みを深めながらエドガーが訊いてくる。


「えっと、その――今朝はアルスさんに悪いことしちゃったなぁ、って……」


 焦ったり照れたのを誤魔化すためにどんどん言葉を重ねていって、そのついでとばかりに言うつもりのなかったことや余計なことまでつい口にしてしまう――最近、なんかこんなことが増えたような気がする……って、まさに今がそれなんじゃなかろうか……?


 しかしエドガーは、そんなわたしの真剣な悩みを「なんだ、そんなことか」と何でもないことのように言って。


「アルスは気にしないと言っていただろう?」


「でも――!」


 アルスさんは優しいからそう言ってくれたけど、あんな酷いことを言われて傷付かないはずがないのに……。それがわかっていたはずなのにわたしは“ついうっかり”なんてどうしようもない理由で――


「チズルは仲間想いなのだな。それにとても優しい」


 エドガーの両目がふわりと細められた。


「貴族社会で生きていればあの程度はよくあることだ、と言ってしまえばそれまでなのだがな……しかし、だからと言って見て見ぬふりをしていればいい訳ではないのは確かだ」


「エドガー……」


「そんな、いつの間にか忘れていた人間(ひと)として当たり前のことに気付かせてくれるチズルのことを、私は何よりも尊く思うよ」


 まるで愛おしいものでも見ているかのようなエドガーの視線に、なんだか居たたまれなくなって顔を俯ける。


「わ、わたしはそんな大層なものじゃなくて――ただ、大事な仲間……仲間を馬鹿にされたくないってだけで――それにほら、あれだよ。わたしがいた日本は身分制とかなかったから、ああいう感覚がわからないっていうか」


「そういえば、ニホンには身分の差はなく国民はみな平等なのだったか」


 向かいから、ふっと笑う気配……だからわたしなんかにイケメンの無駄遣いなんてしなくていいのに――そういえば、いつまで手はこのままでいればいいんでしょうか。


 そっと手を引き抜き、膝に置く。


「――例えどんな身分に生まれようと、人であることに変わりはない。本来、人は生まれながらに平等であるはずなのだ」


「……? それは何の言葉?」


 その、エドガーがぽつりと呟いた言葉は不思議とわたしの感覚に馴染むもので。


「ああ、これか? これは古の賢者が残した言葉だな。確か、奴隷問題について言及したものだったか」


「奴隷……」


「遥か昔の話だ。今でも犯罪奴隷等は存在する国もあるが、商売としての奴隷は許されていない」


 そういうことを聞くと、そっか、異世界なんだな~と改めて感じたりする。


 でも、それよりも今は賢者という存在が気になった。賢者、賢者……聞いた覚えはあるんだけどどこで聞いたんだっけ? エドガーから聞いた歴史の授業だっけ、レオン君の魔法講座……? それともキースさんの……。


「えーっと、賢者……」


 きゅっと眉を寄せて唸るわたしに、エドガーは苦笑気味に答えを教えてくれた。


「チズルの反応も当然なのかもしれないな。彼の功績は多岐に渡り、しかも各分野に跨がっているのだから」


 今から遡ること数千年前。賢者と呼ばれた剣士にして魔法使いソーマ・ユートは世を騒がせた凶悪事件を解決、魔石の仕組の解明に魔道具の開発、今なお隆盛を誇る冒険者ギルドの基となる組織を作り、教育や公衆衛生の普及や奴隷製の廃止に力を注ぎ、勇者召喚の大魔法を作り上げた――


「うわぁ……凄いね、その人」


 天才っているんだなあって感じ。賢者って呼ばれるのも納得だよ、このどれかひとつだけでも凄いってのに。リアルチートだよ。


「ふふ、我が王家は賢者ソーマ・ユートの直系の子孫にあたるのだ」


 と誇らしげなエドガー。


「えっ、そうなんだ、凄い! 何か賢者所縁の物とか残ってたりするの?」


「それならチズルが召喚された部屋にある魔法陣もそうだと言えるが――ああそうだ、王城の宝物庫に賢者直筆の書物があるな。もっとも、賢者は独自の文字を使用していたらしく、未だ解読はされていない」


「へえ……ちょっと興味あるかも」


 ほら、召喚チートでどんな文字でも読めちゃうスキルとかが――なんてね。


「複製でよければ見られるぞ?」


 何でも、実物は劣化防止の魔法その他諸々保存のための処置を施された上で宝物庫に納められており、代わりに、閲覧希望者には精巧に作られた写しが貸し出されるのだとか。


「明日、図書棟の者に言っておこう」


「ほんと? ありがとう、エドガー!」


 例え読めなかったとしても、眺めるだけでも楽しそうだよね! 笑顔でお礼を言うと、何故か微妙に目を逸らされた。むむ、解せぬ。


「さあ、そろそろ戻ろう、明日も面会の希望者が殺到だ」


 そう言ってエドガーは立ち上り、手を差し出す。


 ……うん、そうなんだよね。まだこの世界に来たばかりで慣れてないからとお断りしていた(わたしが、ではなくて城の上層部でシャットアウトしてくれてたそう)貴族とか神殿関係の面会が、御披露目が済んだことで解禁となってしまったのだ。


 面会といっても、難しい話はエドガー達が引き受けてくれるから、わたしはドレスを着て――いつも思うけど、勇者なのになんで鎧とか騎士服とかじゃないんだろう? ――その場に座っているだけなんだけど。

 ちなみに、アルスさんは旅の準備やギルドとの打ち合わせで忙しそうにしていて、面会の場には居ない……わたしもそっち担当の方がよかったなあ。


「うぅ、あれ疲れるんだよね。一杯動いて疲れたのとはまた違う疲労感――あ、月だ」


 溜め息をついて空を見上げると、木々の切れ目から覗く月と目が合った。


 ――あの時アルスさんと見た月とは形も違うけど。


「月か――そういえば、チズルのいた世界ではなにか月に関する言い伝えがあったりするのか?」


 隣を歩くエドガーの声に、訳もなくぎくりとする。


「えっ、うん、国によっても違うけど色々あるよ。こっちにはどんな話があるの?」


「そうだな……満月の夜に精霊が月の宮殿で宴を開くという古い言い伝えがある。だから月の一際明るく輝く夜は、宴が盛況だなどと人々は噂したのだそうだ」


「へえ……」


 じゃあ、“あの日”も精霊が月の宮殿で踊ったりしてたのかな……?


 ――っと、いけない。ちゃんと会話に集中しなきゃ。


「わたしの国ではね、月に住んでいるのは精霊じゃなくて兎だったよ」


「兎が?」


「そう。昔の人が、月の表面に見える模様から連想したんだと思う。兎はね、月でお餅――あ、ええと日本で主食になってる穀物から作るパンみたいなもの、って言えばいいのかな。それを作ってるの」


「わざわざ月で作るのか?」


 エドガーが楽しそうな声をあげた。


「昔からそういうことになってるんだもの。月の模様を何に見立てるかは国によって色々でね、女の人とか……確か蟹とかライオンも? あ、それから月の光を浴びると狼に変身する人の話とかあるよ」


「それは興味深い」


 月についての話題は、建物に入って月が見えなくなっても続いた。


「わたしが好きなのは、外国の言葉で“貴方が好きです”を“月が綺麗ですね”って翻訳した小説家の逸話かな。なんか凄く奥ゆかしいっていうか、日本語ってこんなに繊細な表現が出来るんだなあ、て初めて聞いた時に感動したっていうか」


「そう――そうだな、とても詩的な表現だと思う……」


 はっ、話しついでにまた“あの日”の赤面ものの出来事を思い出してしまった! 消え去れわたしの記憶!


 脳裏に浮かぶ満月とアルスさんを忘却の彼方に押しやるのに気を取られていたわたしは、この時のエドガーの返答がほんの僅かぎこちなかったことに全く気付くことなく。


 わたしは部屋の前まで完璧にエスコートされ(毎回大丈夫だと言っても、紳士の役目だからと聞き入れてもらえないのだ)、お休みの挨拶を交わしてエドガーと別れたのだった。






『賢者の手記』。そう呼ばれる本との出逢いが、魔族は悪、だから討伐しなければならないと言われるがままに信じていたわたしの意識を変える切っ掛けとなることを、この時のわたしは、まだ知らなかった。



ブリのアラは安くて素晴らしい。


ブリ大根をおいしく作るには、やっぱりしっかり下処理をすることが大事なのでしょう。あと、甘みを強めにしっかり味をつけることかな。さっぱりお上品な味付けにするには、別に料理が得意というほどでもない主婦のこむるには荷が重いのです。プロのレシピを参考にしましょう。


材料:

・ブリのアラ 1パック(だいたい300~400グラムくらい?)

・大根3~2分の1本

・酒、砂糖、みりん、しょうゆ


作り方:

・大根は皮をしっかりむいて2センチぐらいの半月切り、もしくはそこからさらに半分に切る。

・ブリは塩を振ってしばらく置き、沸騰させたお湯に酒少々を加え、ブリの表面が白くなるくらいにさっと通して氷水にとる。あとはザルに引き上げておく。

・大きめの鍋に大根をかぶるくらいの水で竹串がスッと通るくらいにゆでたらブリ、酒4分の1カップ、砂糖大さじ4を加えて落し蓋をして中火で5分、しょうゆ大さじ3を加えて同様に5分ほど煮る。

・しょうゆ大さじ1、みりん大さじ1を加えて鍋を傾けてすくった煮汁を回しかけながら煮詰める。



メモ:

・水でなく出汁で煮てももちろんよい。アラではなく切り身を使うときはその方がその方がよいかも……?


・塩を振ったブリはザルに乗せ熱湯を回しかける、表面を香ばしく焼く、小麦粉を振って焼くなど、お好みの方法で処理しよう。


・大根の茹で汁はなんとなく生臭い感じがして苦手とかいう場合は、下ゆでした大根、下処理したブリを水または酒、調味料と煮る。大根もブリと同様焼いてしまうのも有り。


・お好みで砂糖を増やしたりしょうゆを減らしたり。小さじ1~大さじ1くらいから様子を見て決める。


・千切りにしたショウガやユズの皮を添えるのもgood。



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