そのキャンディーはきっと甘くてクリーミィ
連続投稿 2/2
先生「ドラゴンの鱗は色が濃くて透明度が高いほど価値が高い、勇者に下賜されるドラゴンの鱗製のお守りは超一級品。いいね、ここテストに出るからね」
そのまま楽しく庭をお散歩し、温室を通り抜けて近道しようとガラス張りの室内に入ると、日当たりのいいベンチに座るおじいさんがいた。
「こんにちは、かわいらしいお嬢さん」
「こんにちは」
にこやかに声をかけてくるおじいさんに、笑顔で挨拶をかえす。タニアや一緒についてきていた侍女さんたちも、膝を折り頭を下げた。
「お散歩かい? 今日は風もなくて暖かいからね」
「ええ、ほんとうに。おじいさんもお散歩?」
真っ白な髪と長いお髭の、青い服を着たそのおじいさんは、ベンチのあいている側をぽんぽんと叩き、サキは促されるままおじいさんの隣に座った。
「久しぶりに田舎から出てきたついでに、孫の顔でも見ようと思ってね」
「お孫さんはお城で働いているの?」
「うん、まあひとりはそうだね」
うなずくおじいさんに、ふうん、と首をかしげた。
「今は、休憩がてら日なたぼっこ中といったところか――お嬢さんや、少しの間この年寄りの話し相手になってはもらえないかね?」
サキも、この優しげでどこか茶目っ気も感じられるおじいさんとこのままさよならするのは惜しいような気がしていたので、喜んでお付き合いすると答えた。
「それならちょうどよかったわ。わたし、これからお茶にするところだったんです。おじいさん、ぜひごいっしょしてくださいな」
「おやおや、それはうれしいお誘いだ」
さっそく、侍女さんたちにお願いして温室までお茶とお菓子を持ってきてもらい、その間にテーブルを用意する。
このおじいさんが何者なのかはわからないし、ここでお茶にすると勝手に決めてしまったが、どうやら問題なかったらしい――なにしろ、タニアがよくできました、という顔で顔で笑っているので。
「ああそうだ、これを。たいしたものでなくて申し訳ないが」
とおじいさんが懐から飴玉の入った小さな瓶をテーブルに置いた。
「わあ、素敵なお土産をありがとうございます。お茶といっしょにいただいてもいいですか?」
ころんとした形のガラス瓶はかわいいし、その中のミルクティみたいな色の飴もおいしそうだ。
「喜んでもらえてなによりだよ。それにしても、なかなか大した主人ぶりじゃあないか」
にこにことおじいさんは目を細めている。
「ふふ、最近ね、侍女さんたちやお城に来る子たちの間で“お茶会ごっこ”が流行ってるの。きっとそのおかげね」
「ほうほう」
お城に勤める親についてくる子どもや、たまに開かれているらしい、年ごろの近い名家の子どもたちの交流会にやって来る子たちと、庭園でたまたま出会ったり紹介されて話したりするうちにサキと仲よくなり、いっしょに遊ぶようになったのだ。
「あとは、“サロンで芸術鑑賞会ごっこ”なんかも人気かしら」
たいてい、そのあとすぐに音楽練習会になるのだけど。
「森にいる魔物のなかで最も恐ろしいものといえば、なんといってもドラゴンだろうね。森の最深部はやつらの縄張りで、他の魔物たちも滅多なことでは近づこうとはしない。まあ、たまに縄張り争いにも加われず最深部から弾かれたドラゴンが“外”側の浅いところに居着くこともあるが、それすら“外”の人たちには脅威に違いない」
「この国側には負けドラゴンさんは来ないの?」
「こっち側に来たとしても、騎士団の連中にあっという間に狩られてしまうと向こうもわかっているのさ」
「ベルーカの騎士さんたち、とっても強いのね」
サキが普段お城で何をして過ごしているかに始まり、庭園の互いにお気に入りの場所を教え合い、そこから派生してその庭が作られたいわれ、タニアからも聞いたことがないようなお城や国に伝わる古いお話――おじいさんの語るお話はとても楽しかった。
今は、おじいさんが若い頃お城で騎士をしていた頃の思い出を経由して、魔の森とそこに棲む魔物についてに話題が移っていた。
「ドラゴンは好戦的で気性の荒いやつらも多いが、中には話のわかるやつもいてね、力比べをしてそのドラゴンに認められ、その証に鱗を分け与えられるのは、この国の最高の栄誉のひとつとされているのさ」
「鱗を?」
「そう、鱗だよ。ドラゴンは魔力の塊のような生き物だ。鱗や牙、爪なんかが魔石に似た性質を持つと知っているかい?」
「ええ」
サキはうなずく。工房のおじさんたちが常日ごろ口にする夢は、一生に一度でいいからドラゴンの鱗を扱ってみたい、である。
「生きた状態で剥がれた鱗は、死んで魂、魔力の抜け殻となった骸から剥いだ鱗などとは比べものにならないくらいの輝き、魔力の純度を持つのだよ。それも、無理矢理ではなく本人の意思によって剥いだものほど上質のものとなる――存在そのものが魔法のようなドラゴンだ、鱗を剥ぐときの感情までが魔法となって鱗を変えるのかもしれないねえ」
「感情が魔法……不思議な話ね」
そして、そんな表現をするおじいさんもなかなかのロマンチストだと思った。
暖かい紅茶をおかわりし、今日のお菓子のジンジャークッキーとスモモのジャム入りパイもあらかたなくなったころ、温室にナタンがやってきた。
「あ、ナタン」
「ご機嫌麗しゅう、姫。今日はこちらにおいででしたか」
立ち上がって出迎えたサキに、ナタンはそれはそれはキレイな一礼を返し、それからおじいさんに向き直った。
「王都についたばかりなのに姿が見えなくなったと、屋敷から連絡がありましたよ」
呆れた顔でため息をつくナタンに、おじいさんはいたずらが見つかった子どものように肩をすくめて決まり悪げに笑う。
「やれやれ、見つかってしまったか」
「おおかた、新しい孫の顔を見たかったとかそんなところでしょうけど、抜けがけをしたと母に怒られても知りませんよ、おじい様」
「おお、それは恐ろしい。ナタンや、いっしょに謝っておくれ」
「いいえ。おひとりでどうぞ」
サキは、ぱちぱちとまばたきをして遠慮のない掛け合いを楽しんでいるふたりを見比べる。
髪の色……は片方がおじいさんだから保留。柔らかい物腰と落ち着いた抑揚のしゃべり方、そして優しげな目元――。
「ナタンの……おじいちゃん?」
「姫は、お会いするのははじめてでしたね。祖父は、普段は一族の主だったものと領地のほうで暮らしているのです」
こてんと首をかしげておじいさんを、次にナタンを見て、
「お城に勤めてるお孫さん?」
「そうそう。でも今日は、ナタンではなく今度新しく孫になる子に会いに来たのだよ」
そう言っておじいさんはサキをうれしそうに見つめる。
ベルーカで後見になってくれるナタンの家のおじいさん、お城にいるらしい(でも勤めているわけではない)“新しい”孫、おじいさんの視線の向かう相手――つまり、それらから導き出される答えは自ずと明らかであり――サキは首をかしげる角度をさらに深くした。
「――わたしのこと?」
おじいさんは上機嫌でうなずき、そんな祖父の様子にナタンは苦笑を浮かべる。
「ここ最近ね、ずっと息子夫婦と話していたんだよ、かわいい孫が増えるのが楽しみだ、他の家に目をつけられる前にさくっと確保――おっと、失礼――真っ先に名乗りをあげて、ナタンはよくやったってね。ああ、でもよくやったといえばあのアルスの坊やが“外”で“うちの子”を見つけてくれたのが、一番のお手柄といえばいえるのだろうか……?」
こうして、サキには茶飲み友だち兼おじいさんができ、暖かい日の午後におじいさんと杖をついていないほうの手をつなぎ、ゆっくりした歩みでお城の庭を散策する楽しみが増えたのだった。
前々回の後書きはあまりにも適当だったと反省したこむるは、真面目にお吸い物を作ることにしました。
マイタケのお吸い物
材料(3~4人分):
・マイタケ 半パック程度
・ほうれん草1~2把またはミツバ2分の1束
・薄口しょうゆまたは塩と濃い口しょうゆ 適量
・出汁 5~600cc程度
作り方:
・沸騰させた出汁に手で食べやすい大きさに裂いたマイタケを入れる。アクは丁寧にすくう。
・薄口しょうゆで味付け。または濃い口しょうゆをこれ以上色を濃くしたくないというところまで入れて、あとは塩で味を調える。
・お椀に茹でて水気を絞ったほうれん草、またはミツバ(どちらの場合も3~4センチ幅に切る)を入れ、出来上がったお吸い物を注ぐ。
メモ:
・あまりぐらぐら煮立たせないのがよい、らしい……(こむる、豆腐とか以外はあんまり気にせずやってしまうけど)。
・ほうれん草は茹でて切って冷凍させておいたものを指1~2本の太さ分くらいそのままお椀に入れるのもお手軽でよいでしょう。
・薄口しょうゆはだいたい大さじ1程度、色を淡くしたいときは薄口しょうゆの場合でも塩で調整するとよい。
・あれば柚とかかぼすの皮を浮かべたい。
・最近は、モズクを入れたりもするようになりました。
あわせ出汁の取り方:
・鍋に水500ccとカット昆布1~2枚を入れ、できれば半日ほどつけておく。
・弱火にかけて沸騰直前に昆布を取り出し、そのまま1~2分ほどアクをすくいながら煮る。
・差し水をして少しお湯の温度を下げ、かつおぶしをけっこう多めのひとつかみ入れ、沸騰直前に火を止め、アクをすくいながら少し待つ。
・かつおぶしが沈み始めたらペーパータオルをしいたざるなどで静かに濾す。お吸い物用には絞ったりしない。
・塩をひとつまみ入れて、1~2分ほどアクをすくいながら煮る。
・大真面目に出汁を取るときはだいたいこんな感じです。普段はもっと適当。
・次の日は一番出汁を取った昆布とかつおぶしに水をはっておいたのを弱火で煮て追いがつおひとつかみしてぎゅぎゅっと出汁を絞って、親子丼とか筑前煮とか鰤大根などになります。
・出がらしのかつおぶしは、細かく刻んでからからに炒って、しょうゆとみりんと砂糖で味付けして胡麻を振ってふりかけにしたりするのですが、二番出汁まで取るとさすがに味が薄くて、これに出汁を加えたくなります(本末転倒)。




