ピクニックはお庭で
よくわかる泉鏡花の読み方。
日本における幻想文学の第一人者。はまる人ははまる。あと、読みやすいとかいうベクトルではないけど、最も日本語の美しい作家の一人であるとこむるは思う。
まずひとつ言いたいのは、名作と評価されている作品をいきなり読むのはやめましょう。
たぶん、日本語と認識できません。できても意味をつかみきれません。特に古い時代のものは、これ古文ですか?となる恐れありです。
あと、『日本橋』などの花柳界ものは、面白味があまり感じられないかもしれません。
ではどうすればいいの!?
まずは後期の作品、できれば昭和に入ってからの短編や随筆などから、評価の高いものをいくつか読んで鏡花の作風に慣れながら、少しずつ長編に挑戦していきましょう。鏡花独特の表現、文のつなぎかたなどに慣れてきたと思ったら大正、明治の作品にもトライ。
作品解説やあらすじ紹介などで内容を理解しておいてから、文章のふわふわ感を楽しむというのもありでしょう。
作品の系統(マザコンシスコンもの、妖怪もの、耽美もの、グロテスクものなど)によって肌に合わないものがある場合は、無理をせずすぱっと次にいきましょう。
――鏡花について書きはじめたらきりがないのでこの辺でやめておこう。ていうか鏡花を読みたい人とかいるの?
こむるの好きな作品ですか?たくさんありますけど『化鳥』『鶯花徑』『印度更紗』『高野聖』『山吹』『二、三羽――十二、三羽』……きりがないですね。
激しくどうでもいい話でしたね。
あ、でもこの読み方自体は漱石とか鴎外なんかの明治~大正、昭和の作家を読むのに使えなくもない……かもしれない。
表向き果樹園と魔法屋敷をつないでいる(実際その役割もはたしていないわけではないが)木戸は、その上をアーチが覆っていてラズベリーが這わせてあるわけだが、このラズベリー、いつでもおいしそうな実がなっているのだ。収穫しても、次の日には元通り、真っ赤な実が重そうに垂れ下がっている。完全に季節とかその他いろいろなものを無視している気がする。
「まあ、それを言うならこの庭に生えているもの全部に言えるんだけどね……」
料理のために切り取っても、ハーブティやリースのために刈り取っても次の日には元通り。魔法の力って、すごい。
「ラズベリーって、こんなに花と実とが毎日なり続けるもんじゃないよなあ……」
潰さないようにそっと収穫した実をかごに入れながら、アルスも首をひねっている。
普段は侍女のみなさんが毎日収穫して、日々の食卓に彩りを添えたり、ある程度量がまとまったらジャムやシロップ漬けにしたり、お城に持っていってお菓子や料理に使われたりしている。
取っても取ってもなくならないハーブ類も、便利に使われているようだ。最近ではラベンダーが植えられたのが無事定着し、毎日収穫されては翌日元気に紫色の花を咲かせている。
「ハーブも、料理用だけじゃなくてタンスの防虫用の分までまかなえて助かってるって、メイシーが言ってたわ――アルス、お願い」
低いところの実を取り終えたサキが両手を差しのべると、アーチの天辺まで手が届くように持ち上げてくれた。
「なあ、思うんだけど、魔法で飛べばいいんじゃないか?」
「あいにく、今日のわたしは飛べないの」
「飛べないのか。じゃあしょうがないな」
「そうなの、しかたないのよ」
収穫し終わったら、月桂樹の下に敷いた毛布の上にお弁当を広げる。デザートは取れたてのラズベリーである。
「さあどうぞ、召し上がれ」
今日はとりの唐揚げと玉子焼き、カボチャとジャガイモのグラタンにごま塩のおにぎり――
「あれ、このおかず……あのときの」
ふたを開けたアルスは、ぱちぱちとまばたきする。
「あ、覚えてたんだ」
ちょっとした自己満足で、はじめてアルスと会ったときと同じお弁当の中身にしてみたのだが、気付いてもらえるならやっぱりうれしい。
「これは、わたしにとって特別なお弁当だからね。それで、今日も特別な日だから、なんだか作ってみたくなったの」
にっこり笑うと、
「特別――うん、確かに特別だよな」
うつ向き加減にお弁当を見ながらアルスはうなずいた。髪の間からのぞく耳がちょっと赤い。
なんとなくサキも赤くなって、どちらともなくそろっていただきますと手を合わせた。
小春日和とはいえ、この季節食後はやはり暖かいほうじ茶がいい。
「パレードと夜会が来週なのよね、で、出発が――」
「その一週間後に決まった」
「そっか……」
では、夜この家でアルスが仕事できるのも、あと二週間ほどでおしまいになるというわけだ。
「ただ、森に着くまでは、宿を取ったりどこぞの領主だの王宮だのに歓待されたりで、何だかんだでこれまで通りここに来れそうだ」
「そっか」
ほうじ茶をひと口。
「あんまり野宿しないでいいなら、疲れも取れやすいだろうし、よかったわね」
「ああ、まあそうなんだけどなあ……」
「アルス?」
何だかやるせなさそうな様子のアルスに、サキは首をかしげる。
「たぶん、移動で疲れるってことはほとんどなさそうな気がする」
「そうなの?」
うなずいてアルスはどこから説明したものかと少し考え、
「えっとな、この大陸の主要な国同士は、何かあったときや外交のために転移魔法陣を城に敷いて、お互い行き来できるようにしてあるそうなんだ」
「まあ、魔法って便利ね……」
なんとなく話が見えてきた気がした。
「で、今回は王族も参加しているし勇者に関わることだからってんで、特別に――ははっ、これ絶対に最初から織り込み済みだろ――特別に、魔法陣を使わせてもらえることになったから移動の大半はそれですんでしまうんだそうな」
ラズベリーを口に放り込みながら、アルスは空を仰いだ。
他国への転移ができない場合もその国の領主の館には通じているので、そこから、国境をまたいだ領地の館にたどり着きさえすればお城まで一瞬なのだとか。
なんとも情緒のない勇者の旅である。まあ、疲れないのはいいことではあるのだが。
「……ええっと、確か、この季節に出発して魔の森に到着するのは、春になってちょうど雪が消えるころを予定している……んだったかしら?」
歩くなり馬車なりで移動して、たまに、通過する国のお城に挨拶ついでに夜会にも出席させられて、というイメージでいたけど、もしかして……
「その道中のほとんどが謁見だの夜会だのになるだろうな」
それでいいのだろうか、魔王討伐。
「ご丁寧なことに“勇者を支援した”って名目を立てるために、本当なら寄らなくてもいいような国まで満遍なく訪問するっていう気の遣いようだぜ」
「えー……」
ほんとうにそれでいいのだろうか、魔王討伐。
「“外”のやつら、まじめにやる気があるんだろうか……」
おそらく、この機会とばかりに王子さまによる各国間の協定の調整や、各地神殿への未来の大神官さまの顔見せも行われる予定になっているのではなかろうか。
「……まじめに“外交は”してるんじゃないかしら、うん」
薄々――けっこうそんな気はしていたが、勇者による魔王討伐ってただのパフォーマンス……いや、これ以上は考えるまい。
二人無言でお茶を飲み、とぽとぽとおかわりを注ぐ音が空に溶けていく。
「――そうだ、プリン食べる? 今回は栗を入れてみたの」
おやつの時間にはまだ早いが、こういうときは甘いものでも食べて気分を変えるのが一番だ。
「そうだな、食べようか――栗はこの前拾ったやつか? 楽しみだな」
シロップ漬けの栗をペーストにして入れたプリンはほんのり栗風味だし、上に絞ったクリームには、荒く刻んだ栗が混ぜ込んである。
「待ってて。今紅茶いれるから」
ほうじ茶の水筒とカップを片付けようとするサキを片手でアルスは制し、
「いや、栗とほうじ茶ってのもなかなか悪くなさそうだからこのままで……ああでも紅茶は紅茶で捨てがたいような」
と真剣に悩み始めるものだから、思わずくすりと笑って提案する。
「じゃあ今はほうじ茶で食べて、おやつの時間になったら紅茶をいれましょ。大丈夫、たくさん作ってあるから」
サキの提案は、満場一致で採択となった。
「ふうん、ペーストをクリームに練り込んだのも嫌いじゃないけど、こっちはこっちでいいな」
ふたりで栗のプリンをつつきながら品評会が行われる。
「もし普通のプリンだったらそっちのクリームにしたんだけどね」
「なるほど」
プリン本体に栗を入れてある上にクリームもとなると、少ししつこくなるような気がしたのだ。
「あとね、いろいろ試してみて、シフォンケーキとかロールケーキには栗の形が残ってる方が好みだったかも」
「シフォンケーキ……」
栗を使ったお菓子の試作をしてみての感想を述べると、アルスの顔にケーキも食べたいとわかりやすく書かれていた。
「じゃあ今晩のお茶の時間は、栗のシフォンケーキにする?」
「する」
そう答えながら最後のひと口を大事そうに口に運ぶアルスに苦笑して、空になった容器を片付ける。
プリンを食べ終わったアルスはサキをひょいと持ち上げ、自分の膝に横向きに座らせた。
「そういえば今日は城のやつらは?」
「お城で年に一度の書類を虫干しする日だから忙しいんですって」
少し前に、本や書類はたくさんあるから一度にではなく毎月少しずつ点検をしているのだと教わったばかりである。それも、図書棟の文官さんたちの仕事だったはずだ。
「適当すぎないか、その言い訳」
「ね。もう少しもっともらしいのがなかったのかしら」
アルスは呆れた顔で笑っている。
まあ、きっと“適当であること”に意味があったのだろう。おふたりでどうぞごゆっくり――というやつだ。
「まったく、あいつらは――」
青い空、柵の向こうには紅葉した木々。庭に植えられたハーブたちが、風にゆれるたび甘いような鋭いような香りを届けてくる。
「ベルーカのお城が晴れてるかはわからないけど、たしかに今日みたいな日なら虫干しにぴったりかもね」
「こうやってのんびり過ごすのにもな」
「ほんとうにね――」
間近に近づくアルスの顔を、サキは笑いながら受け入れる。
ふたりの影がぴったり重なると同時にくすくす笑いも途絶え――
「あっ、柵が見えてきた! あそこかな、魔法屋敷って!」
ぱっとサキとアルスは離れ、互いに顔を見合わせた。
賑やかにこちらにやって来る一人の女の人の声と、複数の男の人の声――彼らの声には聞き覚えがあった。具体的にいうと、つい10日ほど前に。
どこかげんなりしたようなアルスの表情。たぶん、サキも同じような顔をしていた。
豚カツとカツ丼のお話
こむるね、カツ丼嫌いだったんですよ。あの卵で甘くしてとじるやつ。ほんと、うちで作るカツ丼おいしくなかったんです。
よそで食べたときはおいしいのに、不思議でした。
大きくなってから、はたと気付いたんです。
にんにくと塩こしょうたっぷりの豚カツを、和風の甘辛出汁で煮たら、そりゃおいしくないわな、と。
味噌カツ丼とかソースカツ丼ならきっとおいしかった。
豚カツの作り方
材料:
・豚カツ用の肉(ロース厚切りなど)
・にんにくのすりおろし 少々
・塩、こしょう
・小麦粉、卵、パン粉、油
作り方:
・スジを切った豚肉に、にんにくのすりおろし、塩、こしょうをよくもみこむ。
・衣をつけて揚げる。
メモ:
・味加減は少し濃いめにつけるとおいしい(唐揚げの半分くらいのイメージ)。
・スジの切り方が不十分で揚げてる最中に反ってしまったら、そのへこみの部分から衣が浮いてはがれたりするので気をつけよう。
・油の温度が下がるので、ひと口カツなどでないなら1枚ずつ揚げるのが望ましい。(これも衣がはがれるもと)
・フライパンに少量の油を入れて、肉を並べて揚げると油や時間の節約になる。焦げないように火加減に気をつける。
・油を切るときは、網の上に立て掛けるように置くと油切れがよい。
・バラのスライスや細切れなどに味をつけて軽くかたくり粉をふって(なくてもよい)すきな厚さになるまで重ね、衣をつけると最近はやりのミルフィーユカツになる。細切れは主婦の味方。
・トンカツソース、しょうゆとこしょう、トンカツソースとマヨネーズなど食べ方は色々あると思われるが、こむるはケチャップ一択である。フライにケチャップはジャスティス。
・エビフライ、アジフライ、イカフライなど魚介系のフライにもにんにくと塩こしょうの味付けがおすすめ。ただし弁当箱がにんにくになる。