side千鶴――月が綺麗ですね。
お裁縫してたら力尽きたでござる。
ら抜き、れ入れ、さ入れ言葉が気になる今日この頃。
「ピーマン食べれない」
「この漢字は書けれる」
「御作を読まさせていただきました」
こむるが思うに、ら抜きとれ入れ言葉は可能と受動をきっちり区別したい、つまり可能をあらわすときは「○○れる」、受動の場合は「○○られる」という具合に役割分担が決まってきているようなのである。
ではさ入れ言葉はというと、より明確に使役をあらわしたいという気持ちのあらわれではないかとこむるは考えている。
言葉の移り変わりですね。
そもそも、言文一致が唱えられてからすでに百年がたち、その当時とはだいぶ言葉も変わってきている。ということは、“当時の口語文”は今の我々にとっては文語文になっているといってもよいのではなかろうか。
つまり、昨今嘆かれる言葉の乱れには、“新しい形の口語文”が生まれてきているという一面もあるのかもしれない。
まあ、こむるはしゃべるときはともかく、文字で読むときは気持ち悪いので、ら抜き言葉をはじめとするあれやそれはきっちり気を付けていきたい派だけどね。
森での狼の一件はアルスさんからギルドに報告されたけど、結局、特にお咎めはなかった……らしい。わたし達の立場とかもあるかもだけど、他に被害を出すことなくその場で対処出来たからじゃないかって、レオン君が推測してた。
夕食の席は反省会の場となり、アルスさんの有り難くも容赦のない駄目出しを各員頂戴した。大体は自分達で気付いていたことだったけど、誰か他の人から改めて言われると、うん……、かなり凹む……。
それから、それまで出来なかったことに挑戦するのはいいことだけど、何が起きても周りがフォロー出来る状態でやるように、と言われた。あと焦って無理をしなくてもいい、とも。
いつも通りのあんまり感情が表に出ない声だったけど、何だか、「次は頑張れ」って励ましてくれたような気がした。
――だって、アルスさんは本当はとっても優しい人だってこと、もう知ってるから……。
たったこれだけのことで気分が浮上するのだから、現金なものである。
とはいえ。
今夜もぐっすり快眠。という所まではいかず、わたしはベッドを抜け出し、庭で月を眺めていた。
ここはいつかエドガーと鉢合わせたこともある、秘密の花園めいた中庭。
いつ来てもほとんど誰もいないので、考え事をしたい時やちょっと一人になりたくなった時なんかに利用させてもらっている。
時々エドガーもここに来ていることがあって、そんな時は二人で話したり、逆に何もしゃべらず、ベンチに並んで空を眺めているだけの時もある。
そんな、エドガーと過ごす時間は案外居心地が良くて、一人になりたいと言いながら、それと同じ位の気持ちでエドガーがいることを期待していたりするのだった。
今夜はエドガーは来ていない。つまり、わたしは中庭から額縁で切り取ったようにも見える見事な満月を独り占めしている、という訳だ。
(月の光が青い位明るい……)
日本で見ていたのとは大きさや色、模様が微妙に異なっているけど、この世界の月もとても綺麗だった。
中庭に静かに降り注ぐ光に、吸い込まれそう。
そうやって月を見上げていると、中庭に面した窓のひとつ、カーテン越しに明かりが灯る。あれは……二階かな?
カーテンが引かれ、窓が開いた。
「――あれ? アルスさん?」
わたしはぱちぱちと目を瞬かせた。
そう、窓が開いた時に見えたのは、アルスさんの顔だったのだ。
「――チズル殿?」
思わず上げてしまった声が耳に入ったのか、アルスさんが中庭を見下ろす。
……そっか、そういえばこの中庭、わたし達が寝泊まりしてる区画にあるんだっけ。わたしの部屋から見えるのはこことは別の庭だったから、すっかり意識から抜けてたな。
「こんな時間に何を?」
「あ、えっと。ちょっと眠れなかったから、散歩してたんです。ここ、お気に入りの場所で……」
そっか。じゃああの部屋の右か左にあるバルコニーから続く部屋がアルスさんの居間――って、そうじゃないでしょ、自分!
「アルスさんは、これからお休みされる所だったんですか?」
「ああ、寝る前に空気の入れ換えをと」
両隣の部屋に明かりが付いてた様子はなかったし、部屋に戻ってすぐに寝室に来たって感じかな? ギルドの用事とか、それか訓練とか……?
こんな、殆ど真夜中に近い時間まで大変だなぁ。
夜の空気に話し声はよく響くから、少し抑え気味に会話する。なんか、普段会わないような時間や場所でアルスさんに会えたからか、ちょっと得したような気分。
「明日も早いし、そろそろ部屋に戻ったほうがいいのでは?」
「ええ、それもそうですね。じゃあまた明日――」
頷くわたしに、素っ気ない調子でアルスさんが付け加えた。
「暗いから足元に気を付けて」
「ふふっ、今日は月が明るいから大丈夫ですって」
ほら、アルスさんってこんなにも優しい。
その優しさが、“わたし達”ではなく“わたしに”、そう、今この瞬間はわたしだけに向けられていることが何だか嬉しくて、でもほんの少しくすぐったいような気がして。
「……月が綺麗ですね」
気が付けば、わたしは熱に浮かされたようにそう囁いていた。
「――ああ、今日は満月だったな」
「……っ!」
月を見上げるアルスさんに、はっと我に帰る。
「あ、あのっ、わたし、そろそろ行きますね! お休みなさいっ」
「チズル殿?」
良かった! 周りが暗くてほんとに良かったっ!
今絶対わたし赤い顔してるよ!
怪訝そうな声のアルスさんを置き去りに、熱を持った頬を両手で押さえながら、ぱたぱたとその場を走り去る。
アルスさんはこの世界の人だから、“月が綺麗”以外の受け取り方なんてするはずもないと分かってはいるけど――
でも、何でわたしはあんなことを言ってしまったのだろうか?
結局、この日の内にこの疑問の答えが出ることはなかった。
そして――、実はあの場にはわたしとアルスさんの他にもう一人いたこと、物陰に隠れるようにしてわたし達のやり取りを聞いていたことに、わたしは全く気付いていなかったのだった……。
短いけど切りがいいのでここまで。
チンゲンサイの中華風スープ
焼き飯とか餃子に添えると、なんか栄養がとれたような気になれる。
材料(3~4人分):
・チンゲンサイ 1把
・ベーコン 50グラム程度
・塩 小さじ2分の1
・しょうゆ 小さじ2分の1
・酒 小さじ1~大さじ1
・こしょう 少々
・水 500~600㏄
・水溶きかたくり粉 適量
作り方:
・チンゲンサイを芯と葉に分け、食べやすい大きさに切る。
・ベーコンは5ミリくらいの幅に切る。厚切りベーコンがあるとなおよし。
・深めのフライパンにベーコン、チンゲンサイの芯の順に炒め、水、塩、しょうゆ、酒、こしょうを入れて少し煮る。
・チンゲンサイの葉を入れ、水溶きかたくり粉でとろみをつける。
メモ:
・とろみ加減は様子を見ながらお好みで。
・ベーコンが少なかったなどで味が微妙なときは中華スープのもとを小さじ1ほど加える。その分塩を加減する。もし塩を入れてしまっていた場合は、水を増やして調整する。




