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月に吠え――ない

娘が、友達とマインクラフトでおままごとをしている様子に、新しい時代の風を感じる。


家を建ててペットを飼って服を作ってパジャマパーティーを開いて……うーん、子供の発想力ってすごい。





昔、猫大好きパパンが勝手に作った世界猫文学ベスト3。


・『吾輩は猫である』

いわずと知れた夏目漱石のデビュー作にして傑作。こむるは寒月君がバイオリンを買う話がめらんこりっくで好きです。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。


・『雄猫ムルの人生観』

ドイツロマン派のホフマン(バレエ『くるみ割り人形』とか『コッペリア』が有名だね)作。ムルの自伝と、そこに挟み込まれたクライスラーという青年の伝記という二重構造が素晴らしい。ちなみにムル氏、『吾輩は猫である』にゲスト出演してたりする。


・『ジェニー』

アメリカの作家ポール・ギャリコの小説。切ないとはこういうことなのかと思う。ギャリコの猫ものには『トマシーナ』とか『猫語の教科書』とかあるしそれぞれ面白いけど、パパンは音楽でも小説でもめらんこりいでおセンチなのが大好きなのだ。



そういえばあの漱石の有名なあいらぶゆーの訳、実際に漱石が言ったって資料がないとか聞いたけど、どうなんでしょうね。

 書類の束を抱えてやって来たナタンの「今夜はとてもきれいな満月ですよ」という言葉で、アルスの仕事が終わった後はベルーカのお城でお月見をすることになった。


「そういえば、十五夜って、お団子だけじゃなくて栗とか里芋なんかも聞いたことがある気がするけど、やったことなかったわ」


「十五夜――? 給食の献立でそれっぽいデザートが出て、それぐらいかなぁ。家でやったことなんて、なかったような……」


 淡く光るランプが所々に吊るされた庭の一角、月がよく見えるあずま屋のベンチにふたり並んで座っていた。秋の夜は冷えるが、肩に毛織のブランケットをかけているのでそこまででもない。


 少し離れたところでは、ナタンやタニア、メイシーを始めとするお馴染みの面々が夜のお茶会を開いている。侍女のみなさんのうち、楽器の得意なものたちによる演奏が始まったようだ。ゆったりと、どこか異国情緒溢れる音がぽろぽろと流れてくる。


「それにしても」


 月を眺めていたアルスがこちらを向き直る。


「今日はほんと、ごめんな」


 そう言って、申し訳なさそうに謝るのに、サキは笑って首を横に振った。


「別にアルスのせいじゃないわ」


「でも、不測の事態にきっちり対処しきれなかったのは事実だし……」


「幸い誰も怪我はなかったし、ちゃんとアルスは助けに来てくれたもの」


 ふらりと、肩に重みがかかる。頭の上から、ため息まじりの声が降ってきた。


「サキのペンダントが発動したのに気づいて、心臓が止まるかと思った……」


「うん……たしかにびっくりしたし怖かったけど」


 でも、とサキは続ける。


「あの場にわたしが居合わせてよかった、とも思うのよ」


 もしダニー君たちだけだったら、すぐにアルスが追い付いてはいただろうが、怪我人は出ていたかもしれない。


「ああ、そうだな――そこには感謝してる」


「結局、今日はどうしてあんなことになったの? 勇者のお姉さんと王子さまたち、自分が悪いってお互い言い合ってたけど」


 声を震わせるお姉さんと、そんなお姉さんをかばうように責は自分にあると謝る王子さま方。麗しい光景ではあったし、本来人に頭を下げてはならないはずの王族――子どもたちのなかでそれを知っていたのはサキだけだったのだが――が率先して頭を下げるというのは、まあ美談ではあるのだろう。

 とはいえ、穿った見方かもしれないが、彼らは子どもたちのためというよりは勇者のお姉さんのために謝っていたようにも感じられて、こう、なんと言えばいいのか、


(なるほどあれが逆ハーレム……)


「勇者のお姉さんをかばいに行っちゃう癖、まだ直ってなかったの?」


「それなんだよなあ……訓練だとちゃんとできてたんだが」


 アルスの説明によれば、だいぶ実戦に慣れてきた勇者のお姉さんが魔法だけでなく剣でも攻撃しようとして、自らの手で生き物を傷つけたことにショックを受けて取り乱してしまい――といったことのようだった。


「せめて群れをあらかた片付けてから、新しいことにチャレンジするように言っておくんだった」


 それなら狼を取りこぼすこともなかったのに、と。


 青ざめてこちらを見ていた姿が脳裏に浮かぶ。それから、どこか迷子になった子どものような顔で差し出したクッキーを受け取る様子も。

 かわいらしいときれいのバランスがまだ定まりきっていない、あの年頃特有の魅力に、少し話しただけでも感じられた真面目で責任感の強い性格。人当たりも柔らかく、クラスや学校で人気者だったのだろうなと思う。


 勇者のお姉さんは、そんな、日本に生まれ育ったごく普通の女の子だったのだ。


 この世界に連れて来られたこと、勇者の役割りを果たすことを前向きに受け入れてはいるようだが、とはいえ争いとは無縁なごく一般的な日本のお嬢さん。


「やっぱり、無理があるんじゃないかしら。いきなりそこらの日本人に魔王を倒せとか」


 これまでも漠然と感じていたことではあるが、実際に会ってみてその思いはより強くなった。


「なんだか心配だわ。ちゃんと無事に魔の森を抜けられるのかしら」


「魔物を間引いた後も、魔の森に入るときは隠れて騎士団を待機させとくべきかなあ……」


 二人同時に、深いため息を吐く。


「――とりあえず、お茶でも飲む?」


「――そうしようか」


 サキは、脇に置いてあった布のかたまりの中から、紅茶の入ったティーポットを取り出した――外に置かずに魔法で“収納”しておけば、わざわざ保温する必要もなかったわけだが、まあそこは気分である。

 カップに注いでアルスに手渡し、続いてかごの中からひと口サイズのアップルパイを持たせる。


「ああ、すまない――あれ、この紅茶」


「うん、パイに合わせてリンゴ風味にしてみたの。お砂糖いる?」


「いや、このままでも大丈夫かな」


 いちょう切りにスライスしたリンゴと、ひとつなぎにむいたリンゴの皮を入れた紅茶は、飲むとほんのりリンゴの香りと甘みを感じた。


「アルスやお姉さんたちは明日も森に行くの?」


「そうだな。もう少し狼で慣らして、城を出るまでには森の一番奥まで行けるようになっておきたいな」


「そっか、気を付けてね――もうすぐお披露目があるんだっけ?」


「来月の頭にな。……やっぱりパレードとか夜会とかすっぽかしたら怒られるだろうか」


 その情けなさそうな表情に、思わず笑ってしまう。


「怒られるんじゃないかしら、勇者のお仲間さん」


 向こうの方では、何がどうしてそうなったのやら、いつのまにかタニアの演奏による軽快なダンス曲に変わり、ナタンとメイシーが向かい合って踊っている。


 タニアのリュートは、実に見事な腕前だった。


 楽しげな音楽に釣られたのか、どこからともなく人が集まってきて、気がつけば月明かりの下ちょっとしたダンスパーティーが始まっていた。侍女のみなさんはもちろん、侍従の人や騎士の人、それに文官さんらしき人もいる。


 勇者さまのお披露目パーティーは、きっともっと豪華で優雅に行われるのだろう。見てみたい気もするけど――


「アルスも夜会で勇者のお姉さんと踊るの?」


 だとしたら、見たくないかもしれない。


「……できれば、逃げ切りたいと思ってる」


 最初だけ会場にいて、ダンスが始まるまでにこっそり庭にでも出て隠れていようかと、アルスは続ける。


「だってさ、サキは、俺以外とは踊ったらだめだろう?」


「なあに、突然。――ナタンとぐらいは許してもらいたいけどね」


 くすりと笑ってうなずく。


「だから、俺もサキ以外とは踊りたくないんだよ」


 サキを膝に乗せながら、アルスも笑う。


「光栄だわ。そうね、じゃあどうにも逃げ場がなくなったら、うちに避難しに来ていいからね」


「そうさせてもらうよ」


 なんとなく会話が途切れて、明るい笑い声が響く躍りの輪を眺める。


 リュートの他に次々とリコーダーとハープ、バイオリンが参加し、今また透き通るようなソプラノが加わった。みなさん実に多芸である。

 地上にはゆらゆらと揺れるランプ、空からは夜に慣れた目にはまぶしいくらいの月の光。二つの明かりに挟まれて淡く光る秋咲きのバラと翻るドレスの裾。


「こういうのも、悪くないな」


「そうね、幻想的っていうのかしら」


 アルスが月を仰ぎ見る気配。


「こんな月のきれいな夜にぴったりだ」


 がばっとサキはアルスに向き直り、肩にかけていたブランケットをばさっと広げて、自分ごとアルスを月から隠した。


「わっ――いきなりなにするんだよサキ」


「だめよ、アルス」


 ちょっと怒ったような顔で、サキはひとさし指をアルスの口に当てる。眩しくない程度の明かりを魔法で灯しながら、アルスは目をぱちくりさせた。


「だめよ。月がきれいだなんて、たとえそれが当のお月さまだとしても、わたし以外を見ながら言っちゃ、だめ」


 少し間を置いて、唐突に明かりが消えた。すぐにもと通り明るくなったときには、目の前には赤くなったアルスの顔がある。


「あ、あー……なんか、そういうのを学校で教師が言ってたような気がする……なんだっけ、国語?」


「それか英語の授業ね。それで、こんなにも日本語は多様性に富んでいる、素晴らしいって続くの。わたしは、日本語がどうこうより、そうやって訳した人がロマンチストなだけだったんじゃないかって思うんだけど」


 アルスに伸びたひとさし指を中途半端に遊ばせたまま首をかしげていると、手首ごとその手を引かれ、ぽすっと倒れ込む。見上げれば、今は深い緑に見える瞳があった。


「月がきれいだな、サキ」


「ええ、そうね――とってもき」


 続きを言わせてもらうことはできなかった。






10月11日付けの活動報告に、もしここが乙女ゲームだったらを掲載しています。興味がある方はどうぞ。




親子丼メモ:


・まずは、好みの甘さ、濃さのレシピを入手しましょう。こむるは出汁200ccに対してしょうゆ大さじ2、しょうゆ:みりん:酒:砂糖=2:2:1:1のレシピを採用しています。これ以上は著作権とかいろいろなので書けない。


・出汁は、手軽に出汁のもとを使ってもいいけど、親子丼のときくらいきっちり自分でとるのもいいじゃない。

沸騰させずに一番出汁がどうとか堅苦しいことは言わずに、昆布を水につけて、沸騰したらかつお節を入れて弱火にして、臭み消しに塩をひとつまみ入れてぐらぐらいわせない程度に煮ればいいじゃない。

出汁が余ったら煮物や味噌汁に使って、昆布とかつお節は一晩水につけて、二番だしをとろう。


・玉ねぎではなく長ネギを使うと、ちょっとすき焼きっぽい風味になってそれもまたおいしい。


・食べやすい大きさに切ったしいたけやまいたけを加えるとおいしい。よく味のしみたしいたけは、しいたけが苦手なお子にまずお試しするのに最適。

まずはしいたけ部分を避けておいて、これには実はしいたけ味が入っているんだよ、とやるところから徐々に慣らしていくといいかもしれません。またはは食べやすく斜めにスライスしたしいたけの軸だけを入れるとか。←案外気付かれない


・レシピを見ながら親子丼を作っていて、嘘っ、このレシピ卵多すぎ……!?となることがあるかもしれません。カロリーやコレステロールが気になるという場合や、こむるみたいに材料代をけちりたい場合もあるかもしれません。

しかし、だからといって安直に卵のみを減らすのは大変危険。なぜなら、“そのレシピの割り下は、使う卵に対する割合”だからです(全てのレシピを試した訳じゃないから絶対とは言えないけど)。なので、大変辛い味付けの親子丼に仕上がったりする恐れがあるのです。

例えば6個卵を使うところを5個にするくらいなら、そこまでではないかもしれませんが、4個とか半分の3個にするとなると、そのぶん割り下を減らす必要があります。

ただ、それで玉ねぎやとり肉を煮るのに水分が少なくなってしまうようなら、きっちり減らすのは調味料のみにし、出汁はある程度加減するとよいでしょう。


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