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side 千鶴 ―― 相応しいって、どういうことなんだろう?

すごくどうでもいいことですが、こむるは疑問形ではないときに、語尾を上げることを表現するために“?”マークを使用するのは否定派です(特に○○してほしい、といったニュアンスの場合)。


まあ使いたいなら好きにすればいいのですが、自分が書く分にはむずむずしてしまうっていうね。

こむるは、日本語の文章はある程度声に出して読んだときを想定して書くべきだというスタンスをとっていますが、また同時に、話し言葉を完全に文章で再現するのは読みにくいので、ある程度書き言葉で整えてやるべきとも思っています。


例えば、「○○して?」ではなく「○○してちょうだい」など。



うん、だからなんだってやつだな。

 案内された部屋では、キリッとした眼鏡の、出来るお兄さんって感じの職員さん(ギルドマスターの側近の一人だそう)が、ギルドの登録やパーティ申請、森の狼討伐の依頼受付など、各種手続きをまとめて処理してくれた。


 対応したのがギルドマスターでなかったのは、お披露目が終わるまでは出来るだけ目立たないように、という城の意向を受けてのことらしい。


 本当なら、一階の窓口で普通の冒険者と同じように受け付けたいところだが、とはいえ召喚された勇者や王族、神官長の血縁者に対してぞんざいな扱いをするわけにもいかず、程々の立場の職員が個室で対応、という形になったのだとか。


 あと、もうひとつ個室に通された理由として。


「え? Cランク……って」


 渡されたギルドカードには、名前と年齢、このカードを発行したギルドの支部名などと一緒に、Cランク冒険者であると記載されていた。

 確か、冒険者になったら誰でもFランクから始まるって聞いてたのに。


「まさか勇者様方に薬草取りから始めろと言う訳にもいきませんからね、今回限りの特例という訳です」


 職員さんの説明を聞いて成る程と思う。勇者だからってのはともかく、あれだけ強いエドガーやレオン君がFランクからってのも、なんていうか勿体ないものね。


 ちなみに、魔力量とかステータス的なものを測られたりはしなかった……。




 ですよね~。




 職員さんと何やら話すことがあるらしいアルスさんを残して退室し、皆で一階に降りる。


「へーぇ、高ランクの依頼になると、こんな魔物まで出て来るんだぁ……」


 待ち時間を、壁に貼られた依頼を見て潰す。ピークの時間は過ぎたのか、ギルドに残っている冒険者は少なく移動もしやすい。

 いつの間にかわたしは三人と離れて壁の端の方まで来てしまっていた――あ、マンティコアの討伐だって。


「ねえ、貴女」


 ふいに声をかけられて顔を上げると、そこにはクレアさんが立っていた。


「あ、えっと、クレア……さん?」


「綺麗所に囲まれてお姫様気分? いい気なものね」


 薄く笑みを浮かべた顔で投げ掛けられたその言葉は、一瞬、心臓に刃を突き立てられたのかと思う位、冷たくそして鋭かった。


「冒険者ごっこは楽しい?」


「な、に言って……」


 なんで、わたしはクレアさんからこんなにも敵意を向けられているの……? “冒険者ごっこ”だなんて酷いこと……


「身の程を知るべきじゃないかしらって言ってるのよ。アルスは、貴女達のお遊びになんかに付き合わせていいような人じゃないの」


「違っ……! わたし達は真剣に「だとしても」」


 反論しようとして即座に封じられ、思わず一歩後退る。


「貴女では彼に釣り合わない」


「っ…………」


 その澄んだ空の瞳で、心の奥底で考えないようにしていた“ナニか”を見透かされたような、そんな気がした。


「本当は分かってるんでしょう? 今の貴女達は彼にとってお荷物でしかないって」


 ――この世界に来た時からは比べ物にならない位強くなったつもりでも、未だにアルスさんには遠く及ばない。エドガー達と四人がかりでも余裕であしらわれてしまう。


「アルスにはもっと相応しい活躍の場があるわ。貴女達にそれを支えることが出来る? 彼と並び立てる?」


 その問い掛けは、言外にわたし達では無理だという断定と、自分ならそれが出来るという自信に満ちていて。


「だから、ねえ――」


 いっそ優しくクレアさんが語りかける。


「早く彼を解放してあげて?」


 確かにクレアさんは美人で、見た目的にもアルスさんとお似合いで。きっと凄い冒険者で。

 もしかしたら、魔王を倒す役目はアルスさんとクレアさんにこそ相応しいのかもしれない……。


 二人寄り添い魔王や魔族に立ち向かう姿が脳裏に浮かぶ。


 だけど――


 なんか、嫌だな。


 そう思ってしまう自分がいた。


 だって、そうだとしたら、わたしが勇者として召喚された意味がなくなってしまうから。

 この数ヶ月間の頑張りが、エドガー達の努力が無駄になってしまうなんて、嫌だから。


 それに――


 ……あれ? 今、わたしは何を考えかけた?


 わたしは、頭の中に浮かびかかってそのまま消えていった思考を追うのは後回しにすることにした。


「……アルスさんがそう言っていたんですか?」


「――? いきなり何なの?」


 俯き加減になっていた顔を上げ、クレアさんに正面から向き合う。


「アルスさん自身に言われたなら、残念だけどわたしでは役不足だったってことなんだと思います。でも……他の人に言われたからどうこうするなんてことは、絶対に受け入れられません……!」


「なっ――」


「クレアさんの言う通り、もしかしたらアルスさんは、依頼だからしょうがなくわたし達と一緒にいてくれるのかも知れません」


 あんまり笑顔を見せてくれることもないし、話の輪に加わることも少ない。

 打ち解けた、というには、まだうっすらとした壁の様なものがあると感じるのも確かだ。


 でも、それでも……


「それでも、わたし達にとって、もうとっくにアルスさんは掛け替えのない仲間なんです! アルスさんもわたし達のこと、そう思ってくれてるって、今はまだそこまでではなくても、いつか必ずって、信じてるから」


 クレアさんの顔に、苛立ちが浮かぶ。


「っ、だから、そういう問題じゃないって「それに」」


 今度は、わたしがクレアさんの言葉に被せるように声をあげた。


「相応しいとか相応しくないとか、周りが決めることじゃないと思います」


「彼には、Sランク冒険者としての務めが――」


「そういう見方しか出来ないって、なんだかアルスさん自身を見てないみたいで、哀しい……」


 虚を突かれたように目を見開いてクレアさんは息を呑んだ。


 そして、何か思い当たることでもあったのか、僅かにではあるが、苦し気にその整った顔を歪める。


 ――わたしは、たまたま勇者として召喚されただけのただの女子高生で。人生経験が豊富なわけでもなければ、未だこの世界のことすら十分にはわかっていない。

 そんな小娘に何がわかる、と言われてしまえばそれまでなのかもしれないけど。


 でも、わたしは勇者としてしか見てもらえないのではないかという寂しさを知っている。自分の立場だけしか見られないことで苦しんでいた人達を知っている。


 だから、哀しいと。そう、思ったのだ。


 視界の端に、階段を降りてくるアルスさんが映った。


「……わたし、もう行きますね」


「あ――」


 どこか呆然としているクレアさんの横をすり抜け、エドガー達のいるところへ向かう。


「チズル! さっきの女に絡まれてたみたいだけど大丈夫だったか!? 俺、助けに行こうかと思ったけどチズルも言い返してたみたいだし、取り敢えず様子を見ようってエドガー達が言うからさ……」


「レオン君……」


 心配していてくれたことに思わず笑顔になる。


「わたしなら大丈夫だよ。大したことは言われてないし」


 今日明日には無理でも、次にクレアさんに会った時に文句を言われない位にわたし達が強く、心から仲間だって言えるくらいの絆を築いていればいいだけだもん。


 ――うん、大したことはない。


「それに、あんまりギルドの中で騒ぎを起こすのも良くないだろうし、流石の判断だね、エドガー。キースさんも。レオン君も、見守ってくれてて有り難う」


 とはいえ、ちょっと不安な気持ちになったのは事実で。


 ……ああ、今わたし、絶対ほっとしたのが顔に出てるなあ。これ位のことで情けないなあ。


「い、いや……チズルなら大丈夫だと信じていたし、な……」


「ええ、当たり前の判断をしたまでのことです……」


「だから、その顔反則……」


 ――? なんで皆口元を手で覆ったり微妙に視線を逸らしたりしてるのかな? あとレオン君、なんて言ったかよく聞き取れなかったよ?


 こてっと首を傾げているところにアルスさんがやって来て、お前達何やってるんだ? と的確な突っ込みをもらった。








「なあなあ、チズル」


 ギルドを出て城門へ歩いている途中、レオン君がこっそり話し掛けて来た。


「俺な、ギルドで待ってる時に教えてもらったんだけどさ」


 駆け出し冒険者のこなす依頼としてお馴染みの薬草取り――うんうん、鑑定スキルを使って、いきなり凄い成果をあげたり品質を一切落とさず採取してきて驚かれるアレだよねっ――これは、まだ冒険者登録出来ないような子供達のお小遣い稼ぎの手段でもあるのだけど、道中や採取中に危ないことがないように冒険者――大抵は同じ依頼を受けている駆け出し冒険者――が付き添うことになってるんだって。


 こういう、地域で子供を見守りましょうってのは良いことだよね。


「この決まりが出来たのは割りと最近で、しかもアルスが関わってるって話なんだよ」


「あ、そういえば、そんなことを侍女さん達の噂話で聞いたことあるよ!」


 レオン君が更に詳しく教えてくれたところによると、少し前に、普段なら森の奥深くにしかいないはずの危険な魔物が草原にまで出てきてしまったことがあって、薬草取りの子供が襲われてしまったそう。


「ええっ、その子どうなったの?」


「それがさ、偶然居合わせたアルスが、間一髪で間に合って無事だったそうなんだけど、凄いんだぜ、森の深層の魔物を魔法の一発で仕留めちまったんだって」


 そっか、大丈夫だったんだ……わたしはほっとしながらレオン君の話に耳を傾ける。


「で、ここからがアルスの本当に凄いところでさ。アルスは、子供達が安心して草原や森に行けるように狼なんかの駆除も率先してやったし、子供達の付き添いだって、誰に言われたでもなくアルスが始めて、それが少しずつ周りに広まっていったらしいんだ」


「それは……凄いね」


「だろ? 栄えあるSランク冒険者が、たかがって言っちゃなんだけど子供の小遣い稼ぎの為にそこまで出来るなんてさ。それも一切報酬とか貰わずにだぜ?」


 感心するわたしに、レオン君も頷く。


「この話を聞いた時に、俺思ったんだよ。ドラゴンだとかそんなすげえ魔物を相手にするのだってそりゃもちろん凄いことだけど、こういう、高ランクの奴等からしたら取るに足らないようなことでも大事に出来る?っていうのかな? そんな奴が俺の仲間だってのがなんか、嬉しいって」


 ほっこりした気持ちで、レオン君と二人、エドガーやキースさんと一緒に前を歩くアルスさんを見る。


 薬草取りの子供達に付き添うなんて、クレアさんが言うような“アルスさんに相応しい活躍”じゃないかもしれない。でも、わたしもレオン君と同じく、アルスさんがそういう人であることを嬉しく思った。それに――


「わたし、そうやって思えるレオン君も仲間で良かったって思うよ」


「なっ……偶々、そう偶々だって!」


 笑いかけたわたしにそう答えて、ツンとそっぽを向くレオン君の耳は、ほんのりと赤く染まっている。


 大好きなお兄さんの為に周囲の圧力や思惑を跳ね返し、ひたすら努力してきたエドガー。


 孤児院やスラム街の人達を助ける為に出来ることはないか常に考えているキースさん。


 幼い頃に辛い目にあったにも拘わらず、ううん、だからこそ人を思いやる気持ちを忘れないレオン君。


 そして、Sランク冒険者であることに驕らず、小さな存在にも手を差し伸べるアルスさん――。




 この、優しくて頼もしい人達と一緒なら、きっと何だって出来る、今日の初依頼だって、魔王の討伐だってきっと上手くいく――そう確信にも似た気持ちを抱いたのだった。

よく知られてることだけど、”役不足“って、”自分の実力が役に対して足りない“のではなく、”その人の実力に対して役の格が低すぎる“って意味だよ!気をつけてね!

無理にカッコいい言葉を使おうとせずに力不足とか実力不足とか言ってればいいのにね、不思議だね。




唐突なあらすじ


 神さまの手違いで、魔法チート付きで異世界に転生することになった主人公(十三歳)は、身寄りをなくしたあと、偶然冒険者ギルドの前で怪我人の治療をしたことから、その魔法の腕を買われてギルドの医務室の助手に雇われることになる。


 ギルド職員に可愛がられながら過ごしていたある日、ネズミの魔物の麻痺毒に腕が動かなくなった青年を治療した際、青年が魔物をピ○チュウと呼んだことからお互い同じ境遇であることがわかり、週に一度の日本食を懐かしむ会を開催するなど、二人は親交を深めていった。


 いわゆるハーレムパーティである青年のパーティメンバーにこのことが知られ、食事会に招待するはめになったり、紳士(ロリコ……おっと失礼)に主人公が気に入られてお持ち帰りされそうになったのを、すんでのところでハーレム青年に助けられたのをきっかけに二人は思いを通わせたり、パーティメンバーの一人がダークサイドに堕ちて大変なことになったりするが、概ね日々は平和に過ぎていくのであった。




え、これは何って?なにかこむるもテンプレ的な話を書いてみたいなあと構想を練っていた、まあつまりこの作品の前身にあたるものです。

変わり様の凄まじさに、自分でもびっくりです。

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