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side 千鶴 ――しゃるうぃーだんす?

いっそのこと、泉鏡花ばりに服装と髪型の描写だけでその女の人が美人かそうでないか、ついでにその人柄まで表現できてしまう――あれ、道で見かけた人妻について語っていたはずがなぜか文章の終わりでは麗らかな春の陽気についてになってるぞ、おかしいな――くらいの域に到達してしまえば、なろうヒロインちゃんのことあるごとのファッションチェックも楽しめるのかもしれない。



中世ヨーロッパ風の世界観のくせに、ダンスは中世、バロックなどなどすっ飛ばして現代の社交ダンス風な不思議!

もっと、パヴァーヌとかメヌエットとか踊っていいのよ、サークルになったりラインで離れて向かい合って踊ってもいいのよ!

 少し前から、アルスさんが髪を結ぶようになった。


 黒い紐で結わえられた金色の髪は、むしろ紐の方が長いくらいで、兎の尻尾みたいな毛先がぴょこんと跳ねている。


(ちょっと可愛いかも……)


 あの毛先を垂直に手のひらでシャクシャク触ってみたいなと手をわきわきさせていたら、


「チズル? どうした?」


 エドガーが不思議そうに覗き込んできた。


「わっ、ううん、なんでもない、なんでもないの!」


 思わず仰け反りそうになりながら答える。だって、顔が近くて――!


「そうか? じゃあ、そろそろ始めよう」


 差し出された手を取り、部屋の中央に進むと、ピアノに似た楽器から軽やかな曲が奏でられ始めた。


 背中に回される手にも、殆ど密着してるんじゃないかっていうくらいの距離にも、まあ、慣れ……た、と思う。

 でも……でもっ、


「ほら、チズル、足下を見ない。却って間違えるぞ」


 こんな間近でお互い見詰め合うとか、無理だからーっ!





 魔法やこの世界についての勉強が一先ず形になってきたということで、講義の時間が減り、代わりに貴族としてのマナーとダンスの特訓が入るようになった。


 なんでも、討伐に旅立つ前に城で御披露目の夜会が開かれるらしく、そこである程度“それらしく”振る舞う必要があるから、とのこと。

 それから、魔の森に向かう迄に立ち寄る国でも、勇者一行を歓迎する催しが開かれる可能性が高いそう。


 メンバーに一国の王子様なんてのが加わってる時点で、もう確定なんじゃないかな~とは思うんだけど。


 まぁ、そんなわけでわたしはダンスの猛特訓中なのだ。


 伴奏はマリアさんが、相手役はエドガーやキースさん、レオン君が担当してくれる。




 ――アルスさんは、ダンスに興味はないと我関せずで、窓際の椅子に座って本を読んでいる――ダンスの特訓中だけでなく、その他の色々な勉強の時間でも、一人みんなの輪から外れて本を読んでいることが多い。アルスさんの意見も訊きたい時とかもあったりするからちょっと寂しい気はするけど、無理強いはよくないよね……。ちなみに、歴史とか地理、旅行の見聞録なんかを読んでるみたい。


 最初、どうしても踊らないといけない時がいつか来るかも知れないから、アルスさんも一緒に練習した方がいいとみんなで説得してみたんだけど、そうしたらアルスさんは、無言でレオン君の手を取り、マリアさんに


「――曲を」


 とだけ告げると、


 仏頂面一歩手前の無表情で完璧に、パーフェクトに、困惑しきりのレオン君をリードしてみせたのだ。


 壁際で控えていた侍女さん達の中に、何故か(うん、何故なのかわたしにはサッパリワカラナイヨ?)口元を押さえて身悶えしてる人が何人かいたけど、わたしは何も見なかった。

 クール系金髪のアルスさんと男性陣の中では小柄なアイドル系なレオン君のダンスは、わたしの中に在りもしない腐れセンサーが反応しそうになるくらい様になってたなんてことは、なかった――なかったんだよ……!


 一曲踊り切ったアルスさんは、改めて自分には練習は必要ないと主張した。


「……それに、俺が参加しない方があの三人には都合がいいだろうしな」


 小声で呟かれた後半部分はよく聞き取れなかったけど、まぁとにかく、アルスさんは部屋にはいるけど練習には不参加ということになり、今日もこの世界についての思索を深めているのだ(今日城の図書棟からアルスさんが選んだ一冊は、『賢者の血統と現代における各王室の血縁関係について』だそう)。




「チズル? また下を向いてるぞ?」


「あっ、ご、ごめんね?」


 慌てて顔を上げ――蕩けそうに甘い微笑みを浮かべたエドガーとばっちり目が合ってしまい、また下を向きたくなってしまった。

 ……そういう顔は、わたしなんかじゃなくてどこぞの綺麗な御令嬢に取っておいた方がいいと思うんだけどな。


 どうにか一曲踊り切って――左右交互に足を出すのさえ忘れなければ、あとは男性側のリードにまかせておけば以外と何とかなるらしい――ホールドを解く。


「――うん、まぁまぁ形になってきたか――よく頑張ったな、チズル」


「わ、ほんと!?」


 嬉しくて子供みたいに跳び跳ねると、アップにした髪の横から緩く巻いた後れ毛が、くるんと揺れた。


「あとは、もっと自信を持って踊れたら言うことはないんだが……」


 キースさんやレオン君も、良くなってきてるとは言ってくれるのだけど、わたしはステップを間違えないか不安になってどうしても下を向いてしまう癖が取れないのだ。


「うん、前を向かなきゃ、とは思ってるんだけど……」


 しゅんとするわたしに、エドガーはしょうがないなと苦笑する。


「大丈夫ですよ、チズル様。チズル様はとってもお綺麗なんですから、多少ステップを間違えたくらいじゃ気付かれませんよ、もっと堂々としてればいいんですって」


 マリアさんが励ましてくれる――って、ほんとにそれでいいの!? ていうか、それわたしのダンスの腕前はあんまり関係ないんじゃ……。


 それにそもそも、わたしが綺麗って、それはドレスが綺麗なのとメイクさんの腕がいいからだからね!


 ただの練習なんだから、戦闘の訓練の時と同じ服でいいっていう主張は、さくっと無視されて、ダンスの特訓の度にわたしはひらひらでふわふわのドレスに着替えさせられてしまうのだ。


 今日はペールオレンジのAラインドレス。ウェストのレースの切り替えから、同色のシフォンでたっぷり覆われたスカート部分をパニエとペチコートで膨らませ、胸元からなだらかに続くオフショルダーの袖は、ゆったり広がるベルスリーブの上から二の腕に銀細工のバングルを嵌めてある。

 ドレスと共布で作られた靴、オレンジの花をモチーフにした髪飾り、チークやルージュも服に合わせてアプリコットオレンジをベースに――って、ここまで気合いを入れることないんじゃない?


 まあ確かに、いつもの簡易騎士服でダンスの練習なんかしたら、密着するお互いの脚がダイレクトに見えてしまってなんだか居たたまれない気分になりそうな予感もしなくはないから、これはこれでいい、のだろうか……?


 なんて、下らないことを考えていたわたしのところに、今度はレオン君がやって来た。


「さ、交代。踊ろうぜ、チズル」


「あ、うん!」


 ニパっと無邪気な笑みを浮かべるレオン君に頷き手を差し出そうとすると、


「あっ……と、忘れてた」


 と、そう言いながら、レオン君はポケットをごそごそ探って何か細い鎖のようなものを取り出した。

 それは華奢な銀の鎖でできたブレスレットで、間隔を置いて、丸いムーンストーンのような乳白色の石が繋がれている、シンプルな造りのものだった。


「これ、チズルにやるよ」


そのままわたしの左手に嵌めてくれる。


「わあ、可愛いブレスレット、ありがとうっ! ……あれ、でもこれって……」


 歓声をあげたそのすぐ後に訝しげな声になったからか、エドガーやキースさん、マリアさんまでやって来てしげしげとブレスレットを覗き込む。


「これ、魔道具? だよね……」


 最近、魔力操作に慣れてきたわたしは、魔道具とそうでないものの見分けが大分つくようになってきたのだ。


 とはいっても、その魔道具にどんな魔法が込められているかまでは、まだ難しくて出来ないんだけど……。


「これは最近売り出されたばかりの魔道具で、ダンスの余興や子供の練習用のものなんだ」


 余興と子供の練習との間に共通点を見出だせず、皆も首を傾げている。


「これを起動させると――ほら」


「えっ、きゃっ……」


 急に身体が浮き上がり、バランスを崩しそうになったわたしは慌ててレオン君の腕にしがみつく。


「ちょっ、チズル!? 腕に当たっ……まぁいいか……チズル、この場で二、三歩ステップを踏んでみてくれよ」


 はじめの方、ちょっと赤くなった顔でもごもご言っていて聞こえなかったけど、何をしてほしいかは分かったので、その通りに軽く足を前後させてみる――シャラン、と鈴の鳴るような、透明感のある音がして、足下からふわりと雪の結晶が立ち上ぼり、キラキラと消えていった。


「綺麗……」


「なかなか幻想的な光景だな」


「ええ、光に包まれたチズル様は、まるで雪の精霊が顕れたのかと――」


いやいや、キースさん、それはちょっと大袈裟だから。


「機能としてはこれだけなんだけどな、雪だけじゃなくて花や鳥の羽なんかを降らせることも出来るし、膝の高さ位まで高さを調節出来るから、体格の合わない相手とも踊りやすくなるって人気なんだぜ」


 自分が作った訳でもないだろうに、何故かレオン君が得意気に胸を張る。でも、そっか、それで子供の練習用なんだね。


「ちょっとしたアイデアですわね。それにこのデザイン、控え目ですが却って他のアクセサリの邪魔になりませんし」


 マリアさんが女性ならではの目線で意見を述べる。


 確かに、このデザインならバングルとか大振りのブレスレットと一緒に着けてもそんなに違和感なさそうだし、鎖を調節すればアンクレットにも使えそう。


「ふうん、転ばないように姿勢を補助する機能もついてるのか」


「あ……アルスさん」


 いつの間にか、アルスさんが窓際からここまで移動して、ブレスレットをじっと見詰めていた。


「魔石の内ひとつは魔力の補充と循環に割り当てて……いい出来だな」


「っ……!」


 今、アルスさん、微笑った?

 ほんの僅かに口角を持ち上げただけ、だけど――


「アルスもそう思うだろ? ここの工房、前から腕は確かだったんだけどさ、半年くらい前からいい職人が入ったみたいでさ!」


「ああ、たいしたものだ」


 あ、今度はもっとはっきりと、目元を和ませて……


 うん、わかってる、これは“わたしに”じゃなくて“わたしが着けているブレスレット”に向けられたものだって、ちゃんとわかってる。


 でも、滅多に見せないアルスさんの笑い顔は、なんていうかとても衝撃的で。

 ともすれば、わたし自身に笑いかけてくれたんじゃないかって錯覚してしまいそうで。


 一通りレオン君と話して満足したらしいアルスさんが定位置に帰って行くのを、わたしは、目で追わずにはいられなかったのだった。




無駄に長くなる。





大根を炒めよう。さあ炒めよう、今すぐ炒めよう。



大根を焼いたり炒めたりが一般的かどうかはよくわからないのですが、我が家で昔からよく作られている大根料理に、短冊切りにした大根を肉やニンジンなどと炒める、というものがあります。



・大根とニンジンの豆腐炒め(名前は適当)


材料:

・大根、ニンジン それぞれ50グラム

・豆腐半丁(100グラムもあれば十分?)

・薄口しょうゆ 大さじ1くらいから様子を見る

・サラダ油(もしくはゴマ油)

・ゴマ油(お好みで)


作り方:

・短冊切りにした大根、ニンジンを油をひいたフライパンで炒める。


・火が通ってしんなり大根が透明になってきたら薄口しょうゆ、豆腐を入れ、豆腐を崩しながらさらに炒める。


・香りつけにゴマ油を少量たらし、火を止める。



メモ:

・豆腐に埋もれない程度の量があれば、大根とニンジンの分量なんて適当にすればいい。


・大根やニンジンが固いのがいや、しっかり味がついている方がいい、ということなら、炒める前に軽くレンジにかけておくとか、豆腐を入れる前にしっかり味を染み込ませておくとよいでしょう。


・味はあっさり控え目に、がおいしいと思う。濃い口ではなくて薄口がおすすめです。


・うっかり一丁300グラム分とか作るとけっこうな量になってしまうので注意!




・大根と牛肉炒め(名前はry)


材料:

・大根 100グラム

・薄切りの牛肉 100グラム

・糸こんにゃく 50グラム

・砂糖

・しょうゆ

・サラダ油


作り方:

・大根を短冊切りに、糸こんにゃくは下茹で、塩揉みなど適当に下処理して食べやすい長さに切る。


・油をひいたフライパンで大根を炒め、火が通ってきたら砂糖、しょうゆ、牛肉、糸こんにゃくを入れ蓋をしてしっかり味がつくまで煮る。


・途中、味をみて足りなかったら調節する。



メモ:

・甘さのバランスは肉じゃがやすき焼きくらい、味の濃さは肉じゃがくらい。お好みで。


・糸こんにゃくは入れなくてもまあ大丈夫。


・あらかじめ大根をレンジにかけておくとかしてもよい。

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