お菓子のストックはたくさんある。
「ぼくのかんがえたさいこうにおもしろいおはなし」には、当然最高のイラストが描かれるべきであり、作者の頭の中にあるキャラクター、場面を完璧に表現できるのはやはり作者に他ならないわけで、つまり、たとえこむるが女の子しかまともに描けなくても、背景とかきっちり書き込むのがめんどくて省略してしまう系のやつだったとしても、キャラを描きたくて描きたくてたまらない週間というのが定期的に訪れるわけです(話が長い)。
何が言いたいかというと、落書きしてて更新が遅れてごめんなさい。
自信を持って挿し絵を入れられるくらいにお絵描きが上手になりたいものです。
髪紐のプレゼントと、ストックしてあったプリンとでなんとかアルスは立ち直り、ナタンと楽しくお仕事をしている。
「それでは、森の演習は急がせる必要はないということでよろしいので?」
「ああ、ヨランダを出るのにもう少しかかりそうだし、旅に出たあとも、なんだかんだで途中の国に立ち寄って城に挨拶しにいかないといけないんだと」
サキはアルスの後ろに立って、彼の金色の髪をいじって遊んでいる。
後ろの髪を手でなでつけてまとめ、出来上がったばかりの紐で金色の髪をきゅっと結ぶ。とまりきらなかった横の髪がぱらぱら落ちるが、まあいいだろう。
「それはまた……絶対に挨拶だけでは終わりませんね。有力貴族に面会して、神殿に赴いて、夜会に出席して――くらいはありますか」
「そうだな。まあ、演習の時間が稼げると思えば……やっぱり面倒くさいな。ああそうだ、演習といえばいつもより念入りに“掃除”してやってくれ。一応俺がついているとはいえ、勇者たちには無事にたどり着いてもらわないといけないからな」
「魔王討伐など無意味だと理解していただこうというのでしたね、ついでに勇者を召喚するなどという、わけのわからないことも――今日の書類は以上です。ありがとうございました、陛下」
ナタンは書類の束をとんとんと揃え、アルスはひとつ伸びをしてから、髪の出来映えに満足してうなずいているサキを抱き上げて膝の上に乗せた。
「これまで放置しておいて何を今更、と思われるかもしれんがな」
「いえ、わたし個人としては賛成ですよ。いつまでも逃げてばかりではいられないのですから。――魔の森の奥に閉じこもっている間に、我々は人ではない“何かに”されてしまいました。しかも、人に害をなす存在だと濡れ衣を着せられている。森で隔てられているからといって、このままでいいはずがなかったのです」
アルスの膝の上で魔法を使ってお湯を沸かしながら、ふたりの会話に耳を傾ける。
迫害から逃れた先で数千年単位で引き込もっているうちに、魔族のレッテルが張られて定着していました――なんとも気の長い話である。
これまでは実害がなかったから放置していたけれど、アグレッシブな王さまが自ら勇者さまと関わりに行ってしまったからには、これをきっかけに状況の改善を考えようというのだ。
よいことであると思う。
「うーん、正直なところを言うとな、“外”の偏見とか割りとどうでもよかったんだよ。勇者の一行が魔の森を抜けられるぐらいの実力があるか確認して、ないならそれでいいし、あるなら改めて対策するかくらいの気持ちで」
紅茶を蒸らしている間に、今日のおやつのアップルパイ(アイスクリーム添え)を並べていく。すかさず侍女さんがナイフとフォークを用意してくれた。今回、パイに添えるアイスはバニラではなくキャラメルアイスにしてみた。
「では、なぜ……?」
ナタンの疑問の声に、お腹に回されたアルスの腕にわずかに力が入る。サキも、ほんの少しアルスにもたれている体重を増やした。
「……これ以上、無関係な人たちが理不尽に召喚に巻き込まれるのを防ぎたい」
「確かに、召喚された勇者にとっては理不尽なことでしょうね」
「いや、違う――たしかにそれもあるけど、そうじゃないんだ」
首をかしげるナタンと、どこか苦しげな表情のアルス。
とぽとぽと、紅茶をカップに注ぐ音が響く。
「こことは異なる世界をつなぐのに使われた魔力が、うまく処理されずに歪みを引き起こして、召喚される本人以外に巻き添えが出るんだよ、あの術は」
「巻き添え、ということは……勇者以外にこの世界に連れて来られる方がいる、ということですか? ですが、そのような話は――」
何かしら心当たりがあったのか、はっとナタンはアルスを見つめた。
「……塔の、建ち並ぶ街と、馬なしで走る馬車の絵――」
「よく覚えてるな、そんな昔のこと」
ぽつりと落とされたつぶやきに、アルスは呆れたように笑った。
結局、「あれは、印象的な絵でしたからね」と答えたのみで、それ以上アルスの“何か”にナタンが触れることはなく、アップルパイをサクサク切る音と共に会話は再開された。
「つまり、何らかの形で召喚に巻き込まれた方たちが、“記憶持ち”として生まれると――?」
「全部が全部そうとは限らないだろうし、生きたまま“こっち”にやって来ることもあるんだろうがな」
なるほど、とナタンはうなずく。
「記憶持ちに高い魔力を持つ方が多いのは、勇者が呼ばれるほどに魔法の盛んな世界だからだったのですね」
「はは……魔力のあるなしと、魔法が発展してるかどうかは必ずしも関係ないかもな――」
むしろ、魔法なんて存在しない世界だからこそ、魔力を処理仕切れずに、“記憶持ち”を使って送り返すような形になってるわけなのだが……。
「あの、質問してもよろしいでしょうか」
侍女さんが控えめに手を挙げた。
「そもそも、なぜよその世界の人間に解決させようなどという発想になるのでしょう? それにわたくし、“この世界”とか“別の世界”と言われましても、いまいちピンとこないといいますか……」
「ああ、確かに。今までそういうものだと疑問に思わずにいましたが、言われてみれば不思議ですよねぇ、勇者という存在も、異世界という概念も。いったい、どうやって昔の“外”の方がたはそれを知ったのでしょう」
ナタンと侍女さんが首をかしげ合っている向かいで、アルスとサキも思わず顔を見合わせる。
「そう、そうなのよね。“魔王には勇者を”とか、“異世界から勇者を召喚しよう”とか、なんていうか、その――」
「ああ、そうだよな――」
今までは、“こちら”の人間が勇者を召喚しようとしたのだと考えていたけど――もしかしたら、順番が逆なのかもしれない。
「なんていうか、すごく、“向こう”のテレビゲームとか、若者向け小説やマンガ的なのよね」
何らかの原因で“こちら”にやって来た元日本人が、魔族と魔王に対抗するために異世界から勇者を召喚しようとした可能性は、ないだろうか。
というより、その原因というのもきっと勇者召喚の影響で――なにしろ神さまレベルの世界では、時間というのは我々が思うよりももっと融通のきくものであるらしいので――その勇者が召喚されるよりも過去の時間軸に生まれるなり転移するなりした人間が、召喚魔法を生み出し、その魔法で呼び出された勇者に巻き込まれて……
「……なんだか、卵が先かニワトリが先かって気分になってきたわ」
もうこれ以上難しく考えるのはやめよう、とサキはパイの最後の切れ端を食べようとして、
「アルス、これ食べる?」
パイの欠片ひとつ、アイスクリームの一筋すら残さずきれいになったお皿を、アルスが悲しげに見つめているのに気付いて、そっとフォークを差し出した。
「はい、あーん」
素直に口をあけるアルスににっこりしながら、サキは頭の中の“アルスのお気に入りリスト”に、アップルパイを書き加えるのだった。
フレンチトーストメモ
甘いのしか作ったことがない。しかも超適当。
作り方:
卵1個、砂糖大さじ1~2、牛乳100~130㏄、バニラエッセンス少々を混ぜて、食パン1~2枚くらいを浸してバターもしくはマーガリンで両面焼く。
きっとお気づきの方もおられるでしょう、これただのプリン液じゃん!(2話参照)
しかもこむるは、めんどくさくて網で濾さないときすらあるよ!
・丁寧に濾して、少なめのパンでじっくり時間をかけて液を吸わせるとリッチな気分が味わえます。一晩寝かせる場合は冷蔵庫で。
・ボウルより平たいバットで浸すのがよい。めんどうなときは、テフロン製フライパンに液を入れてパンを並べて、しっかり吸収したところに火を入れて横からバターを溶かして――とかやる。あまりおすすめはしない。
・お子のおやつなどに作るときは、あらかじめ食べやすい大きさに切って浸けて、フライパンに重ならないように並べるとよいでしょう。
・食パンだけでなく、中途半端に残ったフランスパン的なのとかコッペパン的なのとかもスライスして浸けて焼こう。
・レーズンパンで作るときは、バニラエッセンスのかわりにシナモン少々でもおいしい。




