side 千鶴――名前を呼んで
後書お料理メモをまとめました。御入り用の方は「異世界でないお料理」までどうぞ。
いわゆる“なろう的な”ヒロイン一人称の恋愛小説を書きたいなら、“なんかよくわからないけどほんのり悲愴感のある文章”を時々登場させてあげるとよりそれらしくなるでしょう。
中身はそこまで大したことがなかったりするとgoodです。
この世界に召喚されて暫くたった頃、わたしは軽いホームシックにかかっていた。
お城の人達はわたしのことを勇者として歓迎し、丁重にもてなしてくれる。そう、“勇者として”。でも、それはあくまでも勇者としてであって、わたし自身をではない。たまたま召喚されたのがわたしだったというだけで、だから、誰もわたしの名前を呼んでくれない。
わたしは“千鶴”ではなくて“勇者”でしかないのだ――
みんなの期待に応えようと思う一方で、そんな重い気持ちが心の隅に居座って、少しずつ大きくなってきて。
勇者様、と純粋に慕ってくれるマリアさんの笑顔が真っ直ぐ見られなくて、少し散歩をしたいと人気のない中庭に逃げ出したのだ。
だけど一人になれる筈だったそこには先客がいて……
「あ……」
「ああ、勇者殿か」
東屋のベンチに座り、力なくこちらを見上げるエドガーは、きっと、わたしと同じ目をしていた。
「――兄上は、私と違ってとても優秀なお方なのだ」
そう言ってエドガーは自嘲するように笑った。
「私は幼い頃から、そんな兄上を隣でお支えすることを夢見てきたし、その為の努力を続けてきた――騎士団に所属しているのも臣従の意思を表明しての、つもりだった」
エドガーのお兄さん、この国の皇太子様には何回か会ったことがあるけど、穏やかそうな印象の人で、兄弟仲も良好な感じだった。
「それなのに、自らを肥え太らせることしか頭にない奴等は言うのだ――『大丈夫です、軍部の掌握は我等にお任せを。我々は誰よりも殿下のお心を存じ上げておりますぞ』」
「そんな……」
わたしは思わず息を呑んだ。
「奴等は私を敬う素振りを見せて、その陰で兄に劣る私なら思うように操るなど容易いと嘲笑っているのさ」
お兄さんと勝手に比較されて失望され。
常に完璧な王族で在ることを求められ。
その一方で無能で在ることを期待され嘲笑われ――
「……ふっ、すまない。こんなことは勇者殿に聞かせるような話ではなかったな、忘れてくれ」
……今まで何を見ていたのだろう。この世界に召喚されてからというもの、わたしは、ここを何処かゲームか小説の世界みたいに感じていたのだと思う。
でも、この時になって漸く、エドガーだって普通に悩みもすれば怒りもする一人の人間なのだと……。
気が付けば、わたしは自分の悩みも忘れてエドガーの手を両手で握りしめていた。
「そんな人達の言うことなんて、気にする価値もないよ!」
「勇者、殿……?」
「だって、エドガー王子は、王子を利用したい人達の為に努力してきた訳じゃないでしょう? エドガー王子は、自分がなりたいエドガー王子になっていいんだよ」
目を見開いているエドガーを下から覗き込むようにして、わたしは続けた。
「お兄さんは、エドガー王子が完璧じゃないとエドガー王子のことを嫌いになるの? エドガー王子は、お兄さんが完璧だから好きなの? 違うでしょう?」
「あ、ああ……そう、そうだな――」
エドガーの顔に笑顔が戻ってきた。それが嬉しくてわたしも笑っのだけど――
「……っ」
急にエドガーはわたしの手から自分の手を引き抜き、口許を押さえて顔を背ける。……どうしたんだろう? そんな変な顔でもしてたのかな、わたし?
「……勇者殿と話していたら気が楽になった。礼を言わねばならないな」
「そんな、わたしは何もしてませんよ、今まで頑張ってきたのはエドガー王子なんだから……あ、なんですから……」
うわ、今気付いたけど王子様相手に普通に喋っちゃってた!?
「えっと、でも、少しでもわたしが力になれたなら嬉しい、です」
「なんだ、もう敬語抜きに話してはくれないのか?」
あわあわしてるわたしに、いつもの調子を取り戻したエドガーがきらっきらした笑顔を向けてくる。ひいっ、だから眩しいって!
「いえ! その! さっきのはつい、うっかりっていうか……!」
「どうか、先程のように話してくれないか? 元々、勇者殿は此方が無理を頼んでいる側なのだ、畏まる必要などない」
「いやいや、そうは言ってもですね」
「勇者殿?」
あまりの目映さに顔を覆ってしまったわたしの手をそっと外し、エドガーはどこか愉しそうに、ん?と首を傾げた。
「う……わ、わかりました、じゃない。わかったよ、エドガー王子――」
「エドガー、と」
「……っ、エドガー……」
俯いて目をそらしながらそう呼ぶと、よろしい、と満足気に頷かれて、何か負けたような気分になる。
「あ、でもそれなら! エドガーもわたしのことをちゃんと名前でほしいな? 勇者とかそういうの関係なくみんなと仲良くなりたいし」
こうして、わたしとエドガーは名前で呼び合うようになったのだ。
レオンさんやキース君、マリアさん達とも、お互い交流を深め心の内にある想いを知っていく中で名前で呼んで貰えるようになっていった。
だから、焦ることはない、ちゃんと信頼し合えるようになれば、仲間として認めて貰えれば、そう、わかっていた……筈なのに。
「…………で、下さい……」
「勇者殿?」
アルスさんが僅かに眉をひそめる。
「……っ、ちゃんとわたしのこと、名前で呼んで下さい!」
訓練場に、わたしの声が響いた。
「確かにわたしは勇者かもしれないけどっ、勇者として召喚されたかも知れないけど……! わたしには名前があるんです、高垣千鶴っていう一人の人間なんです!」
ぎゅっと両手を握りしめ、アルスさんを見上げると、アルスさんは困ったような顔をしていた。
「チズル……」
あの時のことを思い出したのだろうか、エドガーが気遣わし気に声をかけてくる。レオンさんとキース君も、心配そうにしていた。
「……あー、では、そういうことなら」
そう言ってアルスさんはため息をひとつ吐くと、
「千鶴殿」
と、わたしを呼んだのだった。
「――え?」
一瞬、心臓を鷲づかみにされたような衝撃が走った。
……今、アルスさんは何て言った?
『え、どうして……? アルスさん、なんで日本語……』
わたしのこと、“チズル”じゃなくて“千鶴”って呼んだ――?
「チズル様、今何とおっしゃったのですか?」
思わず口を突いて出た日本語に、皆首を傾げている。
「え、ああ、ごめんなさい――つい向こうの言葉で喋っちゃった……」
そう謝りながらも、わたしの意識はアルスさんに向いていて……。
今まで、わたしのことをちゃんと“千鶴” と呼べた人はいなかった。日本語の名前は、やっぱり異世界でも発音しにくいらしい。
なのに、アルスさんはわたしの名前を日本語の発音で呼んだ。
これって、どういうことなの?
呆然とアルスさんを見つめるわたしに、彼は怪訝そうに眉を寄せて、
「千鶴殿、どうしたんだ?」
「っ……!」
落ち着いたトーンのテノールに、また心臓が跳び跳ねる。
「あ、あの、その……名前の発音――」
しどろもどろになりながら答えるわたしにアルスさんは首を傾げ、ああ、と呟く。
「アクセントかなにか変だったろうか? すまない、元生まれた国の癖が出てしまったようだ」
「いえ、別に、大丈夫……なんですけど、むしろ、そのアクセントで正しいっていうか……」
なんだ、日本語を知ってるって訳じゃなかったんだ……。まあ、ちょっと考えれば分かることだよね――
この時のわたしは、自分の心にも周りの感情にもひたすら鈍感で。
何故アルスさんが名前を正しく呼んでくれたのが、ただの偶然だったことにこんなにも落胆しているのか……ううん、落胆してることにさえ気付いてもいなかったし、そんなわたしの様子をエドガー達三人がどんな想いで見ていたのかなんて、知らなかった――。
ひどい ぶんしょう だ。
最近、サラダチキンなるものが巷で人気だそうですね。
こむるは流行に疎いのでよくわからないのですが、お姑さんが食べさせてくれたサラダチキンが美味しかったので自分でも作ろうといろいろ試したわけですよ。
つまりあれって、お手軽鶏ハムみたいなものだと思えばいいのですね。味を濃くしてしっかり漬け込めば鶏ハムに、あっさりその日の内に茹でればサラダチキンになると(暴論なのだろうか?)
サラダチキンの作り方:
なんか適当に、自分の感性に合うレシピを探してください。
・こむるは、味付けは砂糖、塩、コショウ、ジップロックに真空パックして熱湯に放置方式を採用しています。
・塩はむね肉1枚に小さじ1くらい。ちょっと濃いめの味に仕上がります。適宜調節しよう。
・しっとりさせたい人は片栗粉を加える。
メモ:
・レタス、キュウリ、トマトなどお好みのサラダと一緒に盛り付ける。
・茹でてスライスしたジャガイモやカボチャなど温野菜のサラダにも。
・はいだ皮は、塩コショウを振ってカリカリに焼き、刻んでサラダにトッピングするとおいしい。
クレイジーソルト、乾燥ハーブなどで風味をつけるのもおすすめ。
・味付けがシンプルな理由は、とり焼き飯、オムライス、棒々鶏的なものなど、使い回しがしやすいように。まあ単純に、塩コショウ味のとりは至高ってこともある。
(とり焼き飯は37話ヒロイン力が足りないを参照)




