side 千鶴――前と後に“sir”をつけ……るべき?
まさか、「」を重ねて同時にしゃべってる的な表現の書き方で二日も悩むとは思わなかった……
なろう的一人称の特徴は(最近のラノベはよくわからないのでなろうだけではないかもしれないけど)、自分はそのときこうした、こう思った、という報告、記録というよりは、読者に共感を求める語りかけといえるところにある、とこむるは考えいる(もちろん、全てがそうというわけではない)。
この手法は、異世界に転移、転生した主人公に非常にマッチしていると言えるだろう。
語りかけることによりより共感は深くなる(異世界転生ものにおける“共感”の重要性はご理解頂いている……よね?)。
ただ、その語りかけのメインが“そのときの状況の説明”ではなく“そのときの自分の感情”になりすぎると、それは“一人称の小説”ではなく“ただのゲーム(小説)実況”となってしまう恐れがある。
何事もバランスが大事、ということですね。
アルスさんの王城での評判は上々のようだ。主にミーハーな侍女達に。もちろん、わたし達の(主にわたしの、だけど)訓練の様子を見て、アルスさんの実力を知った騎士や魔法使いの人達も一目置いているみたい。
マリアさんが噂好きの侍女さんから聞いた話では、数年前アルスさんは王都にやって来て、以来王都周辺をメインに依頼をこなしているが、王都に家を持っているとか決まった宿があるとかいう話は聞かず、何処か別の街から魔法で”跳んで“来ているのではという説もあるらしい。
言葉数も少な目で表情もクールだけど、別に人付き合いが悪いというわけではない。彼のファンは多いがまだ決まった相手はおらず(←超重要ポイント!らしい……) 、最近も最有力候補が振られたとか。
……一体、どこからこんな情報仕入れてくるんだろう?
そんなアルスさんだけど、身寄りのない孤児の面倒を見たり、王都を出て少しのところにある草原で薬草をとる子供達や駆け出し冒険者に付き添って、時には剣や魔法の指導をしたりといった一面もあるそう。
まだそんな姿をわたし達には見せてはくれないけど、そのうち、本当のアルスさんに逢えるといいなあ。
――なんて、回想に浸ってる暇は、実は今のわたしにはなかったりする。
「勇者殿、魔力を練る時に脚を止めない。術式にのみ頼るのではなく、何をしたいのか、その為ためには何が必要か。確固としたイメージを持つように」
「っ、はい!」
分かってる、分かってるのよ、炎を大きくしたい時は空気中の酸素を取り込む、凍らせるには分子の振動を止める――現代日本で習う科学知識は魔法にも役立つって。でも、咄嗟には無理だから……!
「エドガー殿下は攻撃が単調にならないように」
エドガーの攻撃を軽いステップで避けながらダメ出しをするアルスさん。あれだけ動いてて息を切らした様子もないって……
わたしとレオン君が左右から魔法を放つ。レオン君は炎、わたしは風の――よし、タイミングはバッチリ! これでアルスさんが気を取られた隙にエドガーが斬りかかれば……えっ!?
アルスさんは事も無げに、わたしの放った風の刃を翳した左手を握るような動作で消し去り、魔力を纏わせた右腕でレオン君の炎をエドガーに向けて撃ち返した。
「っ……!? チズル、危ない!」
咄嗟に剣の軌道を変えて炎を斬り払ったエドガーが、焦った顔でわたしの名前を叫ぶ。
「えっ、きゃあっ!」
「「チズル(様)!」」
いつの間にかわたしに向かって、鋭く尖った氷の塊が迫っている。視界の端で、皆がわたしを助ける為に駆け出そうとしているのが見えて。
「あ……」
氷の塊はわたしに当たる直前で、まるで空気に溶けるように消えてなくなった。
「ここまで」
「ぐっ……」
剣を持った腕をねじり上げ、エドガーを地面に組伏せたアルスさんの声が響く。訓練終了の合図だ。
――あーあ、今日もアルスさんに剣を抜かせられなかったなあ。
「チズル! 大丈夫か!? 怪我してないか」
物凄い勢いで駆け寄ってきたレオン君が、肩を掴んでがっくんがっくん揺らしながら訊いてくる。ちょ、首が、頭が!
「だ、大丈夫だよ、レオン君、当たる前にアルスさんが消してくれたみたいだし……」
やっとのことで解放されたわたしの手を握り、キースさんが心配そうに覗き込んでくる。
「怖い思いをなさいましたね、チズル様。あの氷の塊が貴女に向かっていく光景に、生きた心地がしませんでした。わたくしの治癒魔法が、貴女の心まで癒す事が出来れば良かったのに……」
そっと伏せられた瞳には憂いが秘められていて――正に儚げ美人! 漂う色気にやられそうです!
「すまない、チズル。お前に放たれた魔法に咄嗟に対応することが出来なかった」
遅れてやって来たエドガーが、わたしの頬に手を遣りながら、悔しさを滲ませた声で謝ってくる。いや、そんなことされたら変な勘違いしそうになるっていうか……!
「ううん、大丈夫。――皆、わたしのことを守ろうとしてくれてありがとう」
皆の気遣いが嬉しくてふにゃっと笑うと、何故か皆それぞれ横を向いたり口もとを片手で覆って「それは反則だろう……」と呟いたり――そんな変な顔で笑っちゃってたの、わたし?
首を傾げてる所に、アルスさんがやって来た。
思わず直立不動の体制をとるわたし達。
「レオン」
「はいっ」
レオン君がビクッと身体を揺らした。
うんうん、怖いよね。いくら同じ魔法使いの先輩として慕ってる人だって言っても、この瞬間ばっかりはね。
「いつも言ってるように、自分の得意な属性に頼りすぎだ。今は王城の訓練場だから問題ないが、森であんな炎を使って火事にでもなったらどうするつもりだ?」
「う、つい……次は気を付けるよ」
「エドガー殿下は、炎を斬り払った動きはよかった」
そう言われてエドガーはほっとした様子だ。そうだよね、アルスさんあんまり誉めてくれないもんね。
「ただそのあと、勇者殿に気を取られ過ぎだ。敵に背中は見せるべきではないし、もっと相手の魔力の動きに意識を向けなければならない」
そうすれば、炎を弾いた魔力をそのまま氷魔法に変換させたことに気づけて、炎をよけて氷を斬る選択肢を選べただろう、と。
「ああ……その通りだ、な」
僅かに顔を歪めて自らの選択を悔いているエドガー。
さすが王族というだけあって、エドガーも魔法を使うことができるのだが、やはり本職の魔法使いには敵わない。そのため実戦では、自然と剣主体の闘い方になってしまうのだ。
「勇者殿……それにレオンとキース殿も。お互いをフォローし合えるような立ち位置を常に意識すること」
「はい……」
それぞれに頷く。確かに、敵の攻撃が前衛を抜けてきた時のことも考えなきゃいけなかった。前衛向きじゃないキースさんとレオン君を守るのはわたしなのに――
「レオン、なぜ勇者殿を庇おうとした? お前ならその一歩を踏み出す間に魔法で相殺できたはずだ」
「うん、そうなんだけどさ」
決まり悪げにレオン君は項垂れる。
「回復と防御の要であるキース殿が、攻撃に当たりに行ってどうする? あれは防御結界を張るなりすればよかった」
「申し訳ありません……」
アルスさんの指摘は正しい。キースさん達にはそれだけの力がある。でも……
「ごめんね、ほんとならわたしがあれ位自分で何とかしなきゃいけないのに」
しゅんとするわたしに、エドガー達は口々にそんなことはない、と言ってくれるけど、ほんとは分かってるんだ。
闘うことにまだ慣れていないわたしがどうしても足を引っ張ってしまう。心配を、迷惑をかけてしまう。
ただでさえ、わたしが前衛に入れなくてエドガーに負担をかけているというのに。
アルスさんは、わたし達の実力を確認した後、わたしがそれまで争いとは無縁の生活をしていたと聞いて、わたしを前衛ではなく、後衛に近い遊撃のポジションに置くことを提案してきた――少なくとも今のところは。
訓練では大丈夫でも、実戦で直接敵を手に掛けるのは精神的な負担が大きいだろうから、最初はサポートから徐々に慣れていき、剣を持って前に出るかは様子を見て決めたい、とのこと。
現代日本で育ったわたしが、直接生き物を殺せるのかと言われると、自信がない……し、正直言って怖い。
そんなわたしのことを理解し気遣ってくれるアルスさんには感謝してるし、わたし達四人をまとめて相手取るくらいに強いのはとっても頼もしいと思う。
思う……んだけど、どーしても受け入れられないことがひとつだけある。
――なんで……
なんで、わたしだけ、名前で呼んでくれないのーっ!?
ミネストローネメモ
実はこむるはミネストローネの定義を知らない。
十何年か前、ハンバーガー屋さんのミネストローネが好きだったのですが、微妙な感じにマイナーチェンジしてしょぼぼ~んってなって、もう自分で作るしか!とそれっぽいものを再現してみただけなので。
材料:
・とり肉
・タマネギ
・ニンジン
・ジャガイモ
・カボチャ
・サヤインゲン
・トマト(もしくはカットトマト缶)
・押し麦
・塩、コショウ
量は、みんなおんなじくらいになるように食べたいだけ。1センチ角に切っておく。
押し麦は、小分けタイプのものを使うと便利。
作り方:
・材料をたっぷりの水で煮る。インゲン、ジャガイモ、カボチャは遅めに入れる。
・塩、コショウで味を調える。
メモ:
・トマトとタマネギとニンジンと肉が入っていれば、好きな材料を使えばいいと思う。セロリとかキャベツとかベーコンとか(それをミネストローネと呼ぶのかはよくわからない)。
・押し麦はふくれて大きくなるので、入れすぎに注意。
・トマトのスープにクリームとかホワイトソースを入れるとおいしいよね。




