すでに教育は始まっている――のかもしれない
若かりし頃に創作した文章を読み返し……そんなおそろしいことこむるにはちょっと無理ですが、あんな話を作ったなあ。へったくそだったけど勢いと情熱はあの頃の方が上だったなあ。
――などと思い起こしたついでに、青春時代を共に過ごした小説やマンガ、ゲームなどを思い出してみると、あまりにも自分の創作物がその影響を受けていることに気づくのである。
「――というわけで、陛下は数年ずつひと通りの部署を経験なさった後は、前国王陛下の補佐をお務めになっていたわけですが……」
優雅な仕草で紅茶の入ったカップを傾けるタニアの、次の言葉を待つ。
「どうやら陛下は騎士団がことさら居心地がよろしかったようで、次の部署になかなかお移りになろうとせず、説得には骨が折れたものです」
なんだかアルスらしいと、サキは小さく笑った。
ベルーカの王城と魔法屋敷がつながってからというもの、クローゼットにドレスが増え、ベルーカのお菓子やお茶がストックされ、部屋という部屋に花は飾られ、と侍女さんたちが入れ替わり立ち替わり家の面倒を見にやってくるようになってしまった。
食事の用意まで整えてくれようとするのを、サキはアルスがやってくる日は絶対に自分で料理すると主張した。
侍女のみなさんは「まあ! 愛ですわね!」と歓声をあげ、「そう、愛なの」といろいろ開き直ることにしたサキは答えた。
また、サキはなにかとお茶に誘われて城にお邪魔するようになった。
お茶に呼んでくれているタニア、お世話をするメイシーたち侍女のみなさんは当然として、ナタンや城にいる日だったアルスがやってくることもある。
天気のいい日は庭園で、雨の日には温室や応接室で。ヨランダで晴れていてもベルーカではそうとは限らないというのが、当たり前のことではあるのだがちょっと不思議な気分になる。
お茶とお菓子を楽しみながら聞くタニアの話は面白かった。
サキが知らないアルスの昔の話、ベルーカの歴史や城に伝わる逸話――
「ちょうどそのころでしたしょうか……四代前の王妃様――七家に連なる姫君でいらしたそうですが――その方は病気で若くしてお隠れになったのですが、実のところは王に横恋慕した他家の姫に毒を飲まされたのだとも言われております」
知らぬ話ではないだろうに侍女のみなさんは固唾を飲み、何となく展開が読めたような気がしたサキは、
「いつの時代にも転がってるのね、そんな話。嫉妬ってこわいわ」
と相槌を打った。果物が山盛りのタルトは食べにくいけどおいしい。
「ええ、本当に。以来、その王妃様の亡霊が夜な夜な城をさ迷い、かつて愛した王と、自らを殺めた仇を探しているという怪談が伝わっているのです……」
タニアはそこで呆れたようにため息をつく。
「当時、一体何を思われたのか、陛下は事の真偽を確かめるのだと」
「夜中に張り込みを?」
勢い込んでたずねたメイシーに首を振り、
「ご友人を引き込んで、まるまる二年かけて“死後魂が地上にとどまる現象と、それがその場の魔力を介して記憶されたいわゆる残留思念である可能性について”をテーマに研究、亡霊を結界内に捕らえ可視化する術式を開発なさり、セニエ卿がお止めになるのも無視して城中にその魔法を展開なさいました」
「うわあ……」
(魔法ライフ、満喫してるなあ)
侍女のみなさんともども想定外のスケールにおののく。
「わたくし、そのお話聞いたことがありますわ。確か、ごいっしょだったご友人というのはジェラード将軍やシドニー魔法長官方で、巻き込まれたナタニエル閣下ともどもお叱りを受けたって」
「まあ、何事にも冷静沈着な将軍閣下までそのようないたずらを?」
「シドニー様なら、確かに嬉々として参加なさいそうですけど」
「タニア様、結局王妃様の幽霊は実際にいらっしゃったのですか?」
「――真実とは、時に埋もれたままでいるほうが幸せなこともあるのです」
タニアの、そのおそろしくきれいな笑顔に、みな一斉にうなずいた。そう、伝説は伝説として、美しいままそっとしておくべきなのだ。
たとえ大規模に魔法を展開しすぎて城中の亡霊という亡霊が探知され、悲劇の(とされている)王妃様の死因がお菓子を喉につまらせてしまったことが恥ずかしくて死にきれないのだとしても、勇猛果敢で(世間的には)知られていた騎士が実は恐妻家で、贈り物のハンカチを風に飛ばされてしまったことを打ち明けられずにさ迷い続けているのであっても、そのようなことは後世の我々にとってはあずかり知らぬことなのであり――
「どうしたんだ?みんなそんな神妙な顔をして」
しばし声の途切れた温室に、アルスの声が聞こえた。
「あれ、アルス。今日はギルドに行く日だったよね?」
それにしては帰るのが早いと、駆け寄りながらたずねる。
「指名依頼が入って、今日はその説明だけで帰ってきたんだ」
最近では、アルスと会ったとき、それから別れ際に抱き上げられて頬やおでこにキスされるのが当たり前のようになってしまっていた。
だいぶ慣れたとはいえ、人前でサキもお返しをするほどにはまだ無心にはなれない。
今日も、まぶたをくすぐる金色の髪に目を細め、頬が赤くなりそうなのをじっとやり過ごす。
「お帰りなさいませ、陛下。姫様には、年寄りの昔話にお付き合いいただいておりましたの」
手早くアルスの席が整えられ、侍女さんが新しくお茶を入れる。
「昔話?」
「ええ、昔話ですわ」
澄まし顔でタニアはうなずいた。
炒飯メモ
パラパラに作りたいなら、一度に作る量はご飯は多くてもお茶碗2杯分まで、具は卵とチャーシュー、ソーセージなどの肉類、刻みネギぐらいにしておく。
いや、そんなこと言ったって、栄養とかあるでしょ。なるぼど、確かにその通りですね。
その場合、追加したい具をまず炒めて皿に移しておいてから、卵、ご飯、肉、炒めた具と味つけ、ネギとやるとよいでしょう。
香りつけの醤油のかわりに、チャーシューのたれを使うとおいしいですよね。でも、そんなもの家にない。
そんなときは、焼肉のたれを代用出来ます。ちょっと甘めの味に仕上げたいときなどによいでしょう。
卵――とネギ――だけのシンプルな炒飯を作った上に、牛または豚の薄切りにキャベツやタマネギ、チンゲン菜などお好みの野菜を炒めて味をつけたものを乗せるのもよいですね。
手軽に焼肉のたれや塩コショウ、醤油とみりん、少しの味噌を合わせるなどがおすすめ。




