お茶会再び
紙の本で読みやすい文章と、パソコンやスマートフォンなどで読みやすい文章は違う。当たり前の話ですね。
だから、改行が多い、段落ごとに行間をあける、一文が短い――全く問題ないと思います。
その辺に言及してるなろう論的なエッセイを見かけることもありますが、そういうのは、書籍化しました!買いました!読みました!になってから目くじらを立てればいいと思うのよね。
愛されヒロイン、もしくはヒーローは、口にいれたお菓子を”ゆっくりと咀嚼“する。
そんなに格調高い内容でも文でもないのに、わざわざそんなむずかしげな単語を使わなくても、とつい思う。
そもそも、”そしゃく“って、口に出したときにあまりきれいな音でないと感じるのです。”味わう“とかのほうがいいと思うんですよ。
「ほんと勘弁してほしいんだよね、やれ異世界召喚だ勇者だって。どれだけ歪みを生み出すかわかってるのかな、それをいったい誰が調整すると思ってるんだろうね。でも僕別に誰がどんな魔法を使うかとか管理してるわけじゃないからさ、ちゃんとした手順を踏んでさえいれば発動しちゃうわけ、どんなに悪趣味な魔法でもね」
心底うんざりといった顔で紅茶に砂糖を落とす少年。一杯、二杯、三杯――“絶世の”という形容でもまだ足りないほどに整った顔の彼は、だいぶお疲れのようだった。
「はあ、歪み……ですか」
「ほら、世界の境界を越えようってんだよ、そのためには相当な力が必要になるわけでしょ。でもそのエネルギーを回収していってくれるようにはなってないんだよ、あの子たちの術式ってさ。別に放っといてもいいんだけど、僕も自分が作った世界に愛着があるしね」
ふうとため息をつき、少年――神さまはカステラのザラメ部分を念入りにかじりとる。
たしか、安定していない魔力――つまりはエネルギー――は、世界を不安定にさせ、災害の原因となるのだったか、あれ、ということはつまり――サキは、神さまに付き合って砂糖をいつもより多めに入れた紅茶をごくりと飲み込んだ。甘い。
「地球では、そういう場所で魔法を使って魔力の循環を安定させるって方法は出来ないからね――まあ、あっちで起こるいろいろの何割かはそういうことさ」
そうやって循環の乱れた場の魔力を整えるための大掛かりな魔法が、いわゆる儀式魔法と呼ばれるものである。魔法のない地球で、そんな儀式は行えない、よって、災害は起こる――勇者召喚のせいで――
コメントに困って、テーブルにところせましと並べられたお菓子たちをながめる。
特に死んだ覚えもないのに、なぜまたこの場所にいるのだろう? たしか、いつものようにアルスと夕食を一緒に食べて、いつものようにお風呂に入って寝たはずなのだが――
「ああそれは、愚痴に付き合ってもらうためにちょっと来てもらったからだよ。君と話すのは楽しかったからね」
「あ、それはどうも、光栄です……」
自分を見下ろすと、いつも寝巻きにしている麻のチュニックとひざ下までのズボン、邪魔にならないようにゆるく編んだお下げ。なるほど、ベッドに入ったときの恰好だ。
ということは、前回来たときもやはりその日着ていた恰好だったということなのだろうか、あのときはそんなことまで気が回っていなかった。
「ほんとにめんどくさいんだよ、召喚の始末って。その世界で生まれて死ぬはずだった子を無理矢理引っ張ってくるってことは、その子やまわりの子たちの運命っていうの?に影響が出るってことでしょ、それの調整もしなきゃならない。分散させて分散させて、それでもどうしても残ってしまう歪みが――ああ、君に言うようなことじゃなかったね」
弾かれたように顔を上げる。何かに心臓をわしづかみにされたような気分だ。
「向こうからやってきた魔力を送り返すのにもちょうどいいんだよね」
神さまは、どこか申し訳なさそうに眉をさげた。
“何”が“どのように”ちょうどいいのか、神さまは具体的には言わなかったけれど、それがわからないようなサキではない。
「そう……そう、ですか」
深呼吸を二度、三度と繰り返し、なんとか声を絞り出す。
「どうして、わたしに?」
うっかり口を滑らせたように見せかけてまで、サキに知らせる理由などあるのだろうか。
「君たちは、知っておいたほうがいいと思ったから」
つやつやのチョコレートでコーティングされたケーキ(名前はよく知らない)を切り分け、サキに渡してくれる。
「さっきも言ったと思うけど、僕、ほんとにめんどくさいんだよ。誰かなんとかしてくれないかなって思うくらい」
なんとか動揺から立ち直り、ケーキをひとくち食べたところでふと首をかしげた。
「君、“たち”?」
「うん、融君」
「とおる君……?」
「彼もね、けっこう気に入ってるんだよ、面白い子だったから。無事仲良くなれたんだね」
うれしいよ、と神さまは笑い、ぱちぱちとサキは目を瞬かせた。
件の融君がアルスのことだとして(まあそれ以外ないとは思う)、ひとつ疑問に思うことがある。この疑問自体は、前々から持っていたのだが、ここにきて強くなったのだ。
「あの、神さま。どうしてベルーカではなくてエスター王国だったんですか?」
魔力の高い人間にとっては、魔族として追われる可能性のある”外“ではなくベルーカのほうが暮らしやすかったのではないかと思うのに、実際に与えられた家はエスターの王都ヨランダだった。
「融君とすんなり会えたでしょ」
「……ああ、なるほど」
たしかに、王様のアルスではなく冒険者のアルスとして出会ったから、むずかしいことを考えずに仲良くなれた。ベルーカではそもそも知り合えなかったか、サキの魔力の高さに目をつけられ、いろいろ政治だの貴族だのの思惑が絡んだものになっていたかもしれない。
「いい場所を紹介してくださって、本当にありがとうございました」
椅子に座ったままではあるが、深々と頭を下げた。
「そういえば、もう一度神さまに会えたらお礼を言おうと思ってたんです」
ついでに料理の本と食材についてもお礼をする。
「おかげで助かってるんですが、面倒なことをお願いしたんじゃないかって気になってて」
「そんなことないよ。いい気晴らしになるんだ、あれ。召喚とかいろいろの調整ばっかりやっててうわーってなったときに、頭を空っぽにして、けっこう楽しいんだよ」
サキがどんな料理を作ったかという結果から、使ったレシピや材料が決まり、必要なものが食料棚に送られる――神さまにとっては、時間という概念はわりと融通のきくもののようだ。
こんどから、神棚みたいなものを作って、出来た料理をお供えしようかしら――
「そうそう、あの家を別の場所に動かしたいなら、いま建ってる場所の魔力の接続を切って他のところと繋げればいいからね」
「あ、わかりました」
すっかり忘れていた、これも知りたかったのだった。
食べても食べてもなくならないお茶とお菓子を楽しみ、神さまの愚痴や世間話(神さまの世間っていったいどんな世間なのだろう、よくわからない)につき合い、また気が向いたらいっしょにお茶しようねと言う神さまに手を振って――サキの意識はふわりと宙に浮いて光のような闇のようなものに包まれた。
パエリアメモ
コツさえつかめば簡単、便利。ご飯をきっちり作るのが面倒なときに、これとカップスープですませてもなんとなく様になる。
とはいえ、こむるはサフランとか面倒で使っていないし甲殻類を食べると息が苦しくなるので、もはやパエリアもどきなのですが。え、むしろピラフ……!?
・米は無洗米を使う。
・水は米と同量プラス具材と蒸発分に100~200CCくらい。
・玉ねぎは米2~3合に対して2分の1個程度、にんじんを入れるなら3分の1本くらい。
・コンソメキューブは1~2個、塩は小さじ2分の1くらいから様子を見る。
・とり肉やソーセージを使う場合、とり肉は塩こしょうで下味をつけて、最初にぱりっと焼いておく。いったんとり出し、そのフライパンで玉ねぎやにんじん、米の順にいためる。魚介類もおんなじ感じで。焼いたときに出た旨みをいかそう。
・コンソメ、水を入れて肉類を並べる。パプリカ、ミニトマトなどで色どりよくするのもよいでしょう。
・ふたをして中~弱火で水けがなくなってぱちぱちいいだしたら火を止める。すこし蒸らす。
・味を見て芯が残っていたら、水を100~200CCほど加えてもう一回火にかける。気楽にいこう。
・余ったら、次の火にホワイトソースをのせてオーブンに入れてドリアにしてもおいしい。
ピラフとパエリアの違いとは……




