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味噌スープか味噌シチューか

用例:

「わたしが……わたしが悪いの!婚約者がいるって分かってたのに思いを止められなかったら……っ!」

「なんてけなげなんだ……!悪いのは彼女じゃなくてこの僕だ以下略」

「黙れポエマーども」


こういった表現けっこう見かけますが、気持ちとか思いって、止めるんじゃなくて抑えるものではないのか?と思うのですがどうなのでしょう。



 目をあけると困惑しきった顔のアルスがいた。


「おはよう」


「お、おう……おはよう」


 どう声をかけようかと少し考えて、結局直球でいくことにした。


「とりあえず、シチュー食べる? それとも大根のお味噌汁がいい?」


「大根――? いったい……え? あ」


 アルスの顔色がどんどん悪くなっていく。昨晩の会話を思い出したのだろうか。


「明日のお味噌汁もリクエストあったら言ってね」


 今度は赤くなった。


 毎日味噌汁を作ってくれ――誰もが知っているであろう(しかし実際に使った人がいるのかは相当疑わしいと、サキは思っている)、プロポーズの言葉である。そう、プロポーズの――


 どうやらアルスもそのことを忘れてはいなかったらしい。


「……えーと、その」


「うん」


 もそもそと起き上がったアルスは、テーブルにぶつからないようにていねいにサキを抱き起こす。そのまま、なぜかふたりとも正座で向き合った。


 ソファとテーブルの間にはさまれて、なんだかせまい。


「その、昨日俺酔ってていろいろ言ったと思うけど――」


「うん」


 うつむき加減のアルスは、何か言いかけては口ごもり、ちらりとサキを見る。まるで乙女のような恥じらい方だ。


「あー、だからなんだ、酔ってはいたけど、嘘は言ってないっていうか、別に味噌汁だけでなくてサキの作る料理なら何だって毎日食べた」


「好きよ」


「へっ――」


 何を言われたのかとっさに理解できずに、アルスは目を瞬かせた。


「わたし、アルスのことが好きよ」


 ようやく理解が追い付いたのか、耳まで真っ赤になって口をぱくぱくさせている。金魚みたいだ。


「神さまに、十歳じゃなくて十五歳くらいにしてもらっておけばよかったわ」


 失敗したとため息をつく。


「そうしたら今すぐにでもお嫁さんにしてもらえたのに」


 がたんっと、アルスがひじをテーブルにぶつける音がした。


 あのとき、もらえるのならとりあえず目一杯もらっておこうなどと考えたのを後悔している。

 こんな子供の姿では、アルスの周りに群がるきれいなお姉さん方への牽制にもならないのだ。よくて、ああ妹みたいに思っているのね、で終わりである。

 そのかわり、アルスのそばにいてもまず警戒されないというのは、まあ有利ではあるのだろう。とはいえ――


「あのな、サキ」


 アルスは、気を取り直すように頭を軽く振って大きく息を吐き出した。


「俺は、えーと、その、いわゆるロリコ……子供にしか興味がないと思われるのに抵抗があったんだ」


「気持ちは分かるわ」


 神妙にうなずく。


「でも、気がつけばそんなことどうでもいいって気持ちの方が大きくなってしまっていてな……」


 再びアルスはため息をついた。それから、真っ直ぐサキを見つめ、


「好きだ、サキ。――サキだけなんだ。家族やナタンも、俺が記憶持ちであることを理解して受け入れてくれてる。でも、“向こう”を共有できるのはサキしかいないんだ」


 こことは全く違った世界の記憶。なにがなんでも隠さないといけないわけではないが、わざわざ言うようなことではないそれを持っていることへの、たぶん本当は感じる必要のない後ろめたさのようなもの。

 サキはアルスと知り合うことで、それ込みの自分でいてもいいのだと許されたような気がした。アルスも、似たような気持ちを抱いていたのだろうか。


「これから過ごすことになる長い時間、どうかずっといっしょにいてほしい」


「――うん、約束したもんね。素面のときに言ってくれたらって」


 笑ってうなずくと、緊張していたのだろう、息をつめて返事を待っていたアルスから力が抜けた。


「そうか――そういう約束だったもんな。……なんか、こんなところにはさまって正座でするような会話じゃないよな」


 顔を見合わせて、ふたりで笑う。


「大丈夫よ。わたし、夜景の見えるレストランで給料三ヶ月分の指輪をはめてほしいタイプじゃないもの。さ、お腹すいたでしょう。ちょっと早いけど朝ごはんにしましょ」









 ベルーカの人たちは“外”の人たちよりも寿命が長いため、夫婦で数十年、数百年単位で差があるのはわりとあることなのだそうだ。

 魔力に差がある者同士(つまり寿命に差があるということ)で結婚し、残された方が後に再婚することも多い。そのとき、まだ若い相手と結婚すると前述のような状況になりやすい。

 貴族の場合、家柄や魔力のつり合いを考慮して結婚相手が選ばれることが一般的――


 夕べ食べ損ねたシチューとパン、蒸し野菜のサラダをアルスと囲みながら、ベルーカの結婚事情について教えてもらう。


「成人はここと同じ十五歳からで、結婚も成人してからになるから、それ以前は婚約という形をとるし、五歳十歳でってのも珍しくはないが……」


 言葉を探すようにアルスの視線がさまよう。フォークに刺さったじゃがいもに添えられているのは、みんな大好きマヨネーズだ。


「大人が、年端もいかないような子供に手を出すのは、やっぱり、その」


「ロリコン扱いされて白い目で見られる?」


 こっくりアルスはうなずいた。サキの中身は立派な大人であるとアルスは知っているが、まわりはそうではない。


 社会的良識の観点から、本当はあと何年か待ちたかったのだとか。


「――そういえばね、この前別の人からわたし結婚を申し込まれたの」


 とたんに、激しく咳き込むアルス、落下するスプーン、はねるシチュー――大惨事だなあと眺める。


「え、ちょっと、それ本当に?」


「本当よ。ほら、肉屋のダニー君知ってるでしょ?」


「ダニーっておい、まだ七歳の子供じゃないか……」


 数日前、薬草を採っているときに言われたのだ。大きくなったらサキちゃんをお嫁さんにしてあげるねと。


「でも、ダニー君のお隣のミナちゃんから、ダニー君が好きだから協力してねって言われてるのよね」


 困ったとため息をつくサキを、呆れ顔でアルスは見る。


「で、ダニー君のお兄ちゃんのポール君はミナちゃんのことが好きなんだけど、ミナちゃんの気持ちを知ってて言い出せないでいるの」


「なんつーか、どろどろの三角関係に発展しないといいな……いや、この場合四角なのか?」


 上から順にポール君十歳、ミナちゃん八歳、ダニー君七歳である。


「大人になるまで待つなんて、かしこそうなこと言ってる間にアルスをほかの誰かに取られるなんて、わたし絶対にいやよ。待ちたくないし待たされたくない。わたしは“今”アルスを好きなんだもの」


 じっと見つめながら言うと、パンがのどにつまったような顔をして、それから真っ赤に染まり、


「返す言葉もありません……」


 アルスはしょんぼり答えたのだった。





こむるは、具だくさん味噌汁が嫌い。天敵(豚汁は除く)。


我が家では、パパンとこむるの好みを受けて味噌シチューではなくて味噌スープが主流でした。

基本的に具は一種類、あっても薬味まで、変に甘くなる具は嫌い、最後にだしの素を振りかけるのは絶対NG。


好きな組み合わせは、上から順に

・じゃがいもと春菊

・なめことユズもしくはカボスの皮

・じゃがいもと青ネギ

・里いもと大根の葉


嫌いな具は

ニンジン、タマネギ、かぼちゃ、キャベツ、サツマイモ、油あげ、シイタケなど


そうですね、こんなこと書いたら戦争になるとわかってます。

一品で栄養と品目をとってもらいたい主婦のみなさんにけんかを売ってますよね。

でも、シンプルな具とだしがしっかり馴染んですっきりした味わいが好きなんです。スープとして飲みたいのです。


春菊と大根の葉は、火を止める直前に放してしんなりさせるくらいがおいしい。

切り落とした大根の首を水を入れた皿に浸けて窓辺に置き、1~2週間したくらいのほわほわの葉をむしって使うと手軽。カブでもよい。

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