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衛兵さんは見た

「転生者」という単語が、至極一般的なものであるかのように扱われるなろうの昨今に違和感を覚えずにはいられない。

月刊ムーか?魔界転生か?



なんかね、こうね、書いててギップリャ(古い)!って叫びたくなるの。なんでこんなギップリャな話を書こうと思った自分!

 先週、ジョンの誕生日に出た夕食は、彼の好物のウサギのパイだった。


 なんだかいつもと違って形はいびつだし少し焼きすぎでもあった。おいしいかと妻にきかれ、いつも通り最高だと答えると、この頃ろくに目も合わせてくれなくなった娘が、何故か顔を赤くして勢いよく立ち上がり、ばたばたと自分の部屋に戻っていったのだ。妻はあんなにがんばってたのに恥ずかしがりやさんねと笑い、ジョンはその晩、嬉し泣きに泣いた。


 それ以来ふと思い出して顔がにやけてしまい、同僚たちから気味悪がられているジョンだが、この日も同僚に呆れた目を向けられながら城門に立っていると、近頃珍しい組合わせのふたり組が目に止まった。


「ねえアルス、あの子と一緒に暮らしてたり、するの……?」


「いや、そういうわけじゃない」


「でも、一緒に晩ご飯を食べるとかいう話をしてたじゃない」


 アルスとクレアだ。クレアはアルスの腕にそっと手をかけ、どこか不安そうに見上げる。


 おや、とジョンは思った。


「知り合いに頼まれてるのもあって、たまに様子を見に行ってるんだよ。そのついでで一緒に食べることもある」


「だけどアルス……」


 アルスが誰かと組んで依頼を受けるとき、クレアがその相手であることが比較的多かった。そのため、アルスをいずれ射止めるのはクレアであるとの見方が優勢で、彼女自身も恋人に最も近い場所にいるのだという自信に満ちていた。

 だというのに、今日のクレアはなぜかいつもの余裕が見られない。


「最近はあんまり依頼を受けてないって聞いたわ。頼まれたからって、なにもあなたがそこまでしなくても」


 気遣わしげな上目遣いは角度から何から完璧で、彼女を信奉する街の若い男たちが(もしかしたら娘さんたちも)もしこの場にいたなら、膝をついて愛を誓い、なんでもするから悲しまないでほしいと懇願していたのではないかと思うほどだった。


 しかしアルスはわずかに眉根を寄せ、自分のやりたいようにやっているだけだと答えたのみで、たいして上目遣いの効果もなかったらしい。


 ふたりは、ジョンたちとあいさつや軽い雑談を交わしたのち、城門で待っていたギルドの馬車で王都を出発した。今日はクレアの昇格試験なのだという。クレアは優秀な冒険者だ、きっと危なげなく試験もこなして帰ってくるはずだ。


 ふたりにいったい何があったのだろうと興味はひかれたが、すぐに頭の中を切り替え、ジョンは仕事に戻った。










 アルスが最近ギルドの依頼を休みがちなのは、サキの草原行きに付き合ったりしているからだ。

 子どもたちだけでなく駆け出しの薬草取りにも剣や魔法を教えることもあるとかで、運よく教えてもらえた若い魔法使いが自慢していた。


 アルスは草原行きを楽しんでいるようだったし、何より彼が、サキを“気にかけている”ではすまないほど大事にしているのは見ていればわかる。

 高価な魔道具を惜しげもなく与え、並んで歩くときには手をつなぎ、道が混んでいたり水溜まりがあったなら抱き上げ――それに実はジョンは、アルスがサキの家を訪れるのはクレアに答えたような“たまに”という頻度ではないことを知っていた。


 マーサに会ったときに彼女が言っていたのだ――「あのアルスって冒険者の兄さんが、サキちゃんの様子を気にかけてしょっちゅうやって来てくれてね。ほら、あの子ひとり暮しだろう? あたしも気にはしてるんだが、あたしやうちの人じゃどうにもならないことはあるだろうからね、ほんとにありがたいのさ」


 だから、今朝のクレアみたいな、サキを気にかけるのを否定しているとも受け取れるような言いかたは、アルスを口説きたいなら得策ではないとジョンは思っている。


 現に今だって、


「アルス、馬車ごと跳ぶなんて無茶よ!やっぱり無理せずに一晩休んでからの方がよかったんじゃない?」


「俺は今日は何もしてないから、これくらいどうってことはないさ」


「心配なのよ……たしかに戦ってはいないけど、私の怪我とか治してくれたでしょ。魔力切れで倒れたりしたらって」


 日も暮れかかった頃、城門を少し離れたあたりからアルスとクレアが帰ってきた。会話を漏れ聞くに、早く帰りたかったアルスが馬車ごと魔法で跳んできたようだ。

 クレアの性格なら、こんな大荷物付きで跳ぶなんてすごい! とかなんとか、はしゃいだついでにアルスの腕に飛び付いてみせるくらいのことをしそうなものなのに。


(いつものクレアらしくないよなあ)


(だなあ)


 ジョンと同僚は目配せしあい、そ知らぬ顔を維持したまま聞き耳を立てる。


「こんな無茶をしてまであの子のところに行かないとだめなの? その知り合いって人の言いなりになる必要なんてないのよ、あなたはうちのギルドが誇る最高ランクの冒険者なんだから……」


 だから、と憂い顔の中にも強い意志とアルスへの思いやりをにじませた瞳で(つまり、とてもけなげな様子で)クレアは続ける。


「こんな、使い走りみたいなことアルスには相応しくないわ」


(あ、やっちまった)


 ジョンは内心天を仰いだ。


「アルスから言いにくいのなら、わたしがその人に言ってあげる。大丈夫、すぐにまた依頼に専念できるようになるわ」


「――別に、俺は誰かに強制されてサキの面倒を見てるつもりはないし、理想の冒険者像みたいなものを押し付けられたくもない」


 それとなく腕にかけられた手をはずしながら、感情のこもらない声でアルスは言った。


「あ……ごめんなさい、そういうつもりじゃなかったの……ただアルスが心配で」


 アプローチの方法を間違えたと悟ったのか、クレアは顔色を悪くしてうつむく。

 アルスの最も近くにいると安心していたところ、予想以上のサキへの可愛がりようを知って焦ってしまったといったところだろうか。


(対抗心を燃やす相手が、自分の歳の半分にもならない女の子ってところがまた……)


 アルスは軽く息を吐いて笑い顔を作ると、クレアを促した。


「ほら、早くギルドに戻ろうぜ。昇格祝いはクレアのおごりなんだろう? みんな期待して待ってるはずだぞ。俺も一杯くらいは付き合うし」


「えっ、ちょっとアルス!? わたしそんなこと言った覚えない!」


 城門に向かって歩きだしたアルスをあわててクレアは追いかける。

 クレアの恋も前途多難だなあと思いながら、ジョンはふたりに向き直った。






近頃すっかり定着した感のある塩麹。魚や肉はもちろん野菜に使ってもおいしいですね。

面倒なら市販のを買えばいいけど、簡単なので自分で作ってもいいと思います。

毎日混ぜることだけ気を付ければ、温度管理も気を使わないし。



こむるのうちでは、鮭の切り身の塩麹漬けが人気あります。多めに焼いて、次の日残りをほぐして鮭おにぎりにすると喜ばれますね。


塩麹に漬けたとりのもも肉をひとくち大に切り、油をひいたフライパンで焼いて4センチくらいに切った青ネギを加えてさっと火を通し皿に盛る。

ネギは山盛りがおすすめ。

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