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まずは軽くジャブから

~~なのは秘密だ、とか、あのあと(ヒーローが)~~していたなんて知らなかった、とか語らせておけばヒロイン力がアップすると思う。



女主人公のお相手としてのヒーローって言い方に未だ慣れることができない。

どうしても戦隊ものとかアメコミなヒーローってイメージが付いて回ります。あれ、これ前にも言いましたっけ?

「そんなわけでね、ほんとに来ちゃったのよ、お城のスカウトの人」


 手の平の上に浮かべたピザを焼きながら今日あったことをアルスに報告する。トッピングはオーソドックスにマルゲリータだ。


「ああ、ギルドにも来たなあ。興味ないって言ったのにしつこくて大変だった」


 テーブルの向かいに座り、頬杖をついて作業を眺めていたアルスは、そのときのことを思い出したのかげんなりした様子で応じた。


「そうなの、災難だったわね。わたしの方は子供だってことでわりとすんなり帰ってくれたかな」


 焼き上がったピザを皿に乗せ、さくっと六等分に切り分ける。少し歪んでしまったがまあいいだろう。


「どうぞ召し上がれ」


「おう、いただきます――すごいな、ピザなんてたまに宅配で頼むか、おしゃれげな店でパスタとかサラダと一緒に出てくるものとしか思ってなかった」


 持ち上げた三角形からとけたチーズが糸を引くのに、アルスは目を輝かせている。焼き加減をうまく調節できるように練習したかいがあったと、サキは頬をゆるめた。


「向こうにいたときはわたしだってそんなものだったわ」


 アルスが草原に行くサキに付き合うようになってからしばらくするうちに、アルスがサキの護衛(という名のお遊びと子どもたちへの剣術指導……とお弁当)やギルドの依頼で王都にやって来る日は、夕食をサキの家で食べて帰るという習慣が出来上がっていた。

 あるときは肉じゃが、またあるときは餃子と、少しずつ間隔を詰めて誘いをかけていき、夕食を一緒に食べるのが当たり前の状態に慣らしていった結果である――もちろんナタンの後押しがあったことは言うまでもない。


「でも今はこうやって自分で作れるんだから、やっぱりサキはすごいよ」


「そう? それなら、きっとアルスのおかげね」


「俺の? どうして?」


「うん。だって、アルスに会ってなかったらここまでがんばろうとは思ってなかっただろうし」


「は――」


「こっちに来てから、いろいろ自分で作るようになったし、それがすごく楽しくて半分趣味みたいになったんだけどね、とりあえず目についた本の作り方の通りに作るだけだったの」


「……あー、えーと、それで十分じゃないのか?」


「でも、アルスと一緒にお弁当を食べるようになったら、おんなじから揚げを作るにしても、もっとおいしく作りたい、食べてくれる人の好みの味にしたいって思うようになってね」


 アルスは一瞬目を見開いて、それから、真面目な顔を作ろうとして失敗したような、なんともいえない表情になった。


「でね、そうやってがんばった結果どうなったと思う?」


 ないしょ話をするように口もとに手をあて、声をひそめる。


「わたしの“収納”の中、いろんな料理の試作品だらけなのよ。それを少しずつ片付けていくのがわたしの朝ごはんなの」


 それから、深刻な調子で、でも増えていく試作品に消費が追いつかないの、と告げると、アルスは小さく吹き出す。


「ははっ、朝からよりどりみどりなんだな。うらやましい」


 サキも笑って、


「次は何を焼く? 照焼きとかエビとかなんでも言って」


 “収納”していた生地をとりだしながらたずねる。


「うーん、そうだなあ……魚介類の盛り合わせにしようか。ホワイトソースでできるか?」


「うん、できるよ」


 一緒に暮らしているわけではないが、ただいまとおかえりを言い合える相手がいるのはうれしいし、誰かと一緒に食べる食事は、ひとりで食べるより何倍もおいしい。


「あ、そうだサキ」


 二枚目のピザが焼けたところで、何か思い出したのかアルスが顔を上げる。


「明日は予定通り城の仕事だけど、あさってに用事ができたんだよ、それで――」


「じゃああさっては草原に行くのはなしね、わかった」


「ああ、すまない。冒険者になりたてのころによく組んでたやつから手伝ってほしいって頼まれたんだよ」


「魔物の討伐?アルスのお手伝いがいるほど強い魔物なの?」


 サキの質問に、アルスは自分にとってはそこまででもないけどと首をかしげる。


「まあ強いったら強いのか? そいつはギルドの昇格試験でワイバーンの単独討伐に行くんだが、俺は基本的には手を出さずに、万一のための付き添いって感じだな」


「ふうん。アルスなら大丈夫だと思うけど、それでも一応気をつけてね」


 持ち上げると重たそうに頭を垂れるシーフードピザの角を手で支えながら、アルスをのぞき込むように見上げると、苦笑してうなずく。


「ああ、それはもちろん」


「お友だちの試験がうまくいくといいわね――そうか、じゃああさっては買い物にでも行こうかな」


「なんかいるものでもあるのか?」


「うん、服を買い足そうかなって。今は半袖だしまだそこまできつくなってないんだけど、秋になったらちょっと袖が短くなってそうなのよね」


 そう言うと、アルスはにやりと笑ってサキの頭をぽふぽふと叩いた。


「成長期だもんな、サキは」


「もう、アルスたら!」


 アルスの手をつかんで軽くにらみ、サキはため息をついた。


「服がきつくなる感覚なんてもうさっぱり忘れてたわ」


「大人になってからでも服はきつくなるぞ?」


 無言で、つかんだままのアルスの手をつねった。サキには、未来永劫太る予定などないのだ――そのはずである。



ゆずメモ


金柑やゆず味噌の隠し味に、しょうゆを入れよう。




・玉かぶ1個

・とり肉 手羽元なら4~6本、モモなら1枚くらい

・昆布1切れ

・ゆず1個

・薄口醤油


皮をむいて食べやすい大きさに切ったかぶ(こむるは6等分にすることが多い)を昆布を入れたひたひたの水で煮る。

かぶに火が通ったらとり肉、薄口醤油を入れ、やわらかくなるまで煮る。あまり煮すぎるとかぶが溶けるので気にする人は気を付けよう。

味加減は、ちょうどいいかなというところよりやや濃いめ。具に味がしみて汁が最初に味をつけたときより薄くなるので、火を止める直前に確認して調えるとよいでしょう。

千切りにしたゆずの皮を散らしてすぐ火を止め、蓋をして蒸らす。

出来上り。



かぶの皮はしっかりむきましょう。

汁気たっぷりスープ感覚で食べたい場合は水を多めに、おかずとして食べたい場合は少なめに。

ゆずの皮の量は、けっこう強気にいっても大丈夫。好みで加減する。もちろんなくても大丈夫。

土鍋で作って食卓で蓋をとると、ゆずの香りがぶわっと広がって演出効果もばっちり。






里芋や大根、かぶなんかととり肉を一緒に炊くとき、一切余計なものを入れたくないこむるです。

味つけは基本薄口醤油オンリー、入れても昆布まで。

豚や牛だと濃口醤油に酒にみりんにってなるのに不思議ですね。


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