洗濯とお菓子と打算
女子力の高いヒロインはモコモコパーカーとショートパンツを部屋着にしなければならない法則。
それを見てヒーローはかわいすぎるだろうと悶えるらしいのだが、ほんとにそこまでかわいいのだろうか。
こむるの女子力は底辺なのでよくわからない。
ていうか主人公に対してのヒロイン、女主人公に対してのヒーローってのは理解できるけど、ヒーローって言われるとまず浮かぶのは戦隊ものとかアメコミなヒーローなんですもの。違和感はんぱない。
異世界もののあらすじ、タグに現地主人公ですって書いてあったりするのを見ると、つまり、異世界を舞台としたファンタジー作品の主人公は転生なり転移なりした日本人であるという前提がみんなの頭の中にあるのねと愕然とする。
その日、とてもいい天気だったのでサキは庭で洗濯をすることにした。
宙に浮かべたシーツを水球の中でぐるぐるまわしながら、たらいでハンカチなどの小物を洗う。
きゅっと絞って、軒から月桂樹に渡したロープにハンカチや靴下を吊るし、水球を消して脱水状態にしたシーツを風の魔法で操って広げて干す。
わざわざこんな面倒なことをしなくても、浄化の魔法を使えばあっという間にきれいになるのだが、それではあまり洗濯した気にならないので、できる限り自分で洗うようにしているのだ(魔法含む)。
次の洗濯物に取りかかっていると、後ろから声がかかった。
「姫、お洗濯ですか?」
「あ、ナタン。いらっしゃい」
振り返り、色とりどりの焼き菓子を山盛りにしたかごを持ったナタンに笑いかける。
お邪魔しますとていねいに挨拶を返してナタンはサキの横に並び、感心の声をあげた。
「それにしても、実に見事な制御ですねえ。わが国の魔法使いにも、ここまで繊細に魔法を扱えるものはそうはいませんよ」
「うーん、アルスにも言われるけどわたし自身にはいまいち実感が持てないのよねえ」
首をかしげながら、サキは一気に水を消すとシーツに浄化をかけ、ロープに干した洗濯物を乾かして風の魔法でかごに取り込み、エプロンを外して洗濯物の上に乗せた。
「さ、洗濯も終わったことだしお茶でもいかが?今日はいい天気だからお庭でどうかしら」
月桂樹の下に広げた敷布の真ん中にお茶セットを乗せたお盆とナタンが持ってきてくれたお菓子のかごを広げる。
「このケーキドライフルーツ入り? おいしそう。いつもありがとう」
ナタンはうれしそうに笑い、
「我が家の料理長が、姫のためにと腕によりをかけたのですよ。お口に合えばいいのですが」
などと言うものだから、伸ばしかけていた手を止め、まじまじとナタンを見つめてしまう。
「ナタンのお家の人が?」
「ええ。特にそのジャム入りのクッキーは自信作だそうですよ」
「へ、へえ……ジャムが宝石みたいでとってもきれいね……」
庭の向こうに見えるリンゴの木をながめながら料理長自慢のクッキーを食べる。とてもおいしい。
「ねえナタン」
「はい」
「いくら精霊の子だといったって、わたしは貴族でも何でもない一般庶民なわけだけど――なんでここまでしてくれるの? どっちかというとナタンって、得体の知れない誰かがアルスと仲良くしたりするのを警戒しないといけない立場だと思うんだけど」
それなのに、そんな気配を見せるどころかむしろ積極的にアルスをサキに関わらせようとしている気がする。
「――姫は魔法の造詣も深く、ベルーカやこの国とはまた違う場所のもののようですが、高度な教育を受けておられることは物腰や会話の端々から察せらせます。それこそ、そこらの“一般”庶民とは思えないほどに」
まあ確かに、魔法については神さまによる詰め込み式だし、教育は一応大学を出ているし、お行儀がよいと各国で定評のある日本人相応のマナーは持ち合わせているはず。
「それに身分など、どうにでもやりようはありますし」
我が家では家族から使用人に至るまで、姫をお迎えできる日を心待ちにしているのですよ、と笑顔で言い切られた。
つまり、それが理由で見ず知らずの料理長がサキのために腕を奮ったと。なんだかえらく気が早いというより、ナタンの家の中でそれが決定事項になっているらしいことに戸惑う。
「え、ナタンのお家がベルーカに行ったときの後見に決定なの? まあ、よく知らない人になってもらうよりもうれしいし安心なのは確かだけど。でもアルスのお家とかじゃだめなの?」
「最終的にはそのような形になればとは思っておりますが、まあとりあえずは我が家に来ていただきたく」
サキは真顔でナタンをしばし見つめその言葉の意味を消化し――二人はにっこり笑い合った。
「意外ね、まだ結婚してないのは知ってたけど、今からでも割り込む余地があるの? 婚約者ぐらいはいると思ってたけど」
「未だ候補止まりですね。陛下に釣り合うような魔力の持ち主がおらず、選定に難儀しているのですよ」
「ふうん」
なるほど、この世界では魔力は寿命とも関わりがあるのだから、結婚相手の魔力に差がありすぎるとどちらかが相手を置いていってしまうということもあるだろう。それはきっと悲しくて寂しいことだ。
「でもナタンは宰相をやってるのよね。権力が集中しすぎってやっかまれたりしない? 大丈夫?」
我が身の権勢を満月に例えた平安の貴族や、琵琶法師が物語る盛者必衰のお話が何となく頭に浮かぶ。
「もともと権力の集中している家ですからね。少々増えたところでたいして変わりませんよ」
言われてみればその通りである。
煮汁メモ
クッキングパパで、おでんの出汁を次の日ポトフにする回があったのを覚えている。
昔テレビで、ラーメンの残ったスープを冷凍しておいて、麺や具を新しく用意して繰り返し使っている節約上手な主婦を見たけど、まあこれは極端な例として、豚の角煮やおでん、筑前煮などなどの余った煮汁がもったいないと思ったことはないでしょうか。
え、いつもちゃんと工夫して使いきってるよ!とか、煮汁が余るような作り方しないし、水の入れすぎなんじゃね?なんて人には今さらな話ですが、まあもしこむるみたいな人がいたなら役に立つことがあるかもしれないじゃないですか。
一番簡単な方法としては、余ったみそ汁、鍋、おでんの汁などに冷や飯をぶちこんでぐつぐつ煮て雑炊にしてしまうことですね。
その際、適宜水や味、具を足しましょう。卵とか白菜、ぶたやとりの細切れなんかがお手軽ですね。
コンソメスープで作るのも好きです。
やってる人も多いだろうと思うのは、豚の角煮の煮汁で里芋や味つき卵を煮る。卵はゆで卵を角煮の鍋に入れておくだけ。里芋は、下茹でした芋を入れて味を含ませる。
大根を煮てもいいですね。
豚の角煮を作るときに、肉を下茹でした茹で汁は捨てずに、スープにする、シチューやカレーの出汁にするなどしましょう。
茹で汁は脂が沢山浮いてるから捨てて――とか書いてあるレシピもありますが、ほんとに流しに捨ててはもったいないですからね。冷蔵庫に一晩も入れておけば脂は固まってますから。取り除いた脂をラードとして次の日の炒め物に使ったりもありですね。
筑前煮の煮汁に、薄切りにしたたまねぎ、鶏肉あるいは豚肉や牛肉を入れて煮て、しょうゆと砂糖で味を調えて丼にしよう。筑前煮風味だけど。




