不穏な気配
ここ最近流行ってるんでしょうか、姉妹間で差をつけられて冷遇されてきたヒロインが幸せをつかむ系の話。
……と思ったけど、そんな話昔から流行りまくってたわ。シンデレラとかロシア民話のイワンさんとか。
あれですね、苦労が報われる話はこむるも好きなんですが、この主人公は“it”と呼ばれていたのだろうかというくらいにひどい扱いをされているのにはドン引きしてしまいます。なにあれ、気持ち悪――おっと失礼。
「そういえばね、お城で魔法使いをたくさん募集してるんだって」
タンドリーチキンサンドをもぐもぐごっくんとやってから、サキは今日工房で聞いた話を披露する。
「ギルドとか学園にもスカウトが行ってるそうよ」
定位置の倒木に座る二人の間には、サンドイッチが山盛りになったかごが置かれている。小ぶりのロールパンに、ハンバーグ、タンドリーチキン、ソーセージ、白身魚のフライなどを野菜と一緒に挟んだもので、アルスはすでに全種類食べ終わり二周目に突入していた。
「それは増員で? 欠員の補充ではなく」
「うん。増員らしいわ。魔石も大量に買い漁ってるみたいで、いったい何事だろうって職人さんたちが噂してた」
それを聞いたアルスは眉をひそめて、
「何か大量に魔力を使うことをやろうとしてるってことなんだろうが……」
「大量にって、なんかの儀式とか?」
複数の魔法使いが協力して―――もちろん魔石の補助にも頼る―――大がかりな魔法を使うことがある。天候を操ったり町を覆うような結界を作成したりするそれは、儀式魔法と呼ばれることが多いのだ。
「そうだな、それか戦争の準備か」
サキはうなずいて草原に目をやる。子どもたちが仲の良いもの同士でかたまり、昼食をとっていた。パンひとかたまりだけの子もいれば、肉やチーズをはさんだパンの子、果物付きの子もいる。のどかな光景だ。
「どちらにせよ、“この国が”しようとしてるってところが問題なんだよなあ」
げんなりした様子でアルスはため息をついた。
「この国に何かあるの?」
「―――だいたい何十年か百年に一度くらいの割合で、“外”のやつらは魔族の……魔王の討伐を思い立つんだ。そのとき旗頭になるのは決まってこのエスター王国なんだよ」
はるか昔の、賢者とも英雄ともいわれた魔法使い――魔法だけでなく剣もよく使ったらしい――の直系の子孫が建てたのがこの国である。そのため周りの国から敬われており、また、この国の王族もそのことを誇りとし、魔族から平和を人の手に取り戻すことに積極的なのだとか。
「まあ、選りすぐりの勇者を送り込もうが軍隊をよこそうが、たいていは魔の森に阻まれて終わるわけだが」
「前に討伐隊がきたのは何年前?」
「80年前だな」
まさにドンピシャのタイミング。
二人無言でサンドイッチをかじる。
もしこの魔法使いの大増員が本当に魔王討伐のためで、軍の編成ではなく何かしらの儀式を目的としているとするのなら、いったいどんな儀式を行うのだろうか。
考えられるのは討伐隊に加護をあたえるとか強力な武器防具を作る、それとも魔王を倒し得る勇者か聖女の召喚――
「異世界から勇者を召喚するなんてのじゃないといいわね」
「ないわけじゃないのが困ったところだな」
「えっ、ほんとにあるの?冗談のつもりだったんだけど……」
アルスは次のサンドイッチに手を伸ばし――魚フライだった――なにはともあれ、と続ける。
「サキは目をつけられないように気をつけろよ。勇者だのなんだのに巻き込まれたら大変だ」
「大丈夫よ、わたしまだ子供だし」
それでも万が一ということもあるから、と念を押すアルスに、職人さんたちといいアルスといい心配しすぎではないかと思う。
「それよりもわたしはアルスの方こそ心配だわ。絶対にスカウトが来るでしょ、魔力はごまかしてあるとはいえ、何があってばれるかわからないし」
普通の人との魔力量の差について思い出させてくれたナタンに感謝しなくてはならない。今度会ったらお礼を言おう。なにかお菓子でもプレゼントしようかしら。
「うーん、俺は内容次第では話を受けてもいいとは思ってるよ。さすがに勇者の召喚なんてのに手を貸すつもりはないけど」
「そうなの?」
目をぱちくりさせるサキに、アルスはいたずらっぽく笑った。
「向こうの出方がわかっている方が対処しやすいだろう?」
「……潜入捜査って、魔王さまが自らやるものじゃないと思うわ」
呆れてため息をつく。
昼食を食べ終わり、遊び始めた子どもの声が響く。男の子たちは、木の枝を剣に見立ててチャンバラをしているようだ。
「それにしても、アルスってば剣も強かったのね。薬草取りのお兄さんたちがびっくりしてたよ」
作業の合間に、男の子たちに剣の握りかた、振り方といった基礎を教え、自らも手本を見せたアルスの佇まいは、全くの素人のサキにも確かな力量を感じさせるものだった。
「ベルーカは魔法大国とはいえ騎士団くらいはあるし、一応俺もいいとこの生まれだからな。人並みには使えるさ」
それもそうかとサキは納得する。
「サキちゃーん、鬼ごっこしよう!」
声を張り上げて手を振る友達に手を振り返し、サキは急いでコップのお茶を飲み干す。
「今行くね! あ、アルス、お茶置いとくから。好きなだけ食べてね」
自分のコップを“収納”し、あわただしく駆けていくサキを、呆れたような、微笑ましげな顔でアルスは見送った。
サンドイッチメモ
食パンサンドよりロールパンサンドの方がおいしいとこむるは思う。
基本的には、軽くトーストして切り込みを入れたロールパンに、マヨネーズかマーガリンを塗って適当な大きさに切って水気をふいたレタス、トマトなどお好みの野菜と肉をはさむ。これだけ。
・簡単買って焼くだけサンド
スーパーのお肉コーナーにある味つきで後はフライパンで焼くだけのやつあるじゃないですか、レモンソルト味とかガーリックと黒コショウがとか。ああいうやつを使うと横着できます。
コショウとかハーブ、スパイスを使ったものにはトマトは外せないと思っています。
ものによっては マヨネーズやマスタードをのせるとおいしかったりしますね。
・タンドリーチキン
タンドリーチキンの作り方には、ケチャップとか各種スパイスを調合してとかいろいろありますが、こむるはカレー粉で簡略化しております。
パッド先生あたりでお好みのレシピをさがしてみてください。
こむるの場合、もも一枚に対して、
塩小さじ2分の1
にんにく、しょうがのすりおろしそれぞれ1片
を下味に、よくもみこんで冷蔵庫で20分ほど寝かせている間に
プレーンヨーグルト約半カップ
カレー粉大さじ1
コショウ少々
レモン汁大さじ1
を混ぜておく――という感じで行っております。
最低一晩はつけダレに漬けて冷蔵庫で寝かせておきたい。
生レモンではなく市販のレモン果汁を使う場合、小さじ1にする。
漬け込む時間があまりないときは、つけダレに塩小さじ2分の1ほど加える。この場合、一晩置くと塩辛くなる恐れがあるので注意。
焼き方は、フライパン、オーブンなど自分のやりやすいやり方で。
パンにはさむときは、何があってもトマトを忘れてはならない。Never!Ever!!
・ハンバーグのちょっとしたコツ
みんな大好きハンバーグ。おいしいハンバーグの作り方なんてその辺にはいて捨てるほど転がっています。
ジューシーに仕上げるポイントはひき肉と塩を最初によくこねることと、まるめるときにちゃんと空気を抜くことですね。まあこんなことはよく知られていると思うので。
各ご家庭のハンバーグで違いがよく見られるのは、たまねぎを炒めるか否かということではないかと思います。シャキッとした感じがいいから生でとか、生の感じが許せないから炒めてとか。
こむるは、みじん切りにしたたまねぎを耐熱皿に入れ、バターひとかけ(切れてるバターひとつからふたつ分くらい)をのせてラップをかけ、レンジで40秒くらい過熱しています。
バターのコクが出るし、炒めるより手間がかからなくて楽です。
過熱後、全体を軽く混ぜ、あら熱をとってからひき肉と混ぜます。
あと、パン粉と牛乳。こむるの家では、パン粉ではなく牛乳に浸した食パンをちぎっていました。ちょっと大きなかたまりや耳の部分が自分のハンバーグから出てくると嬉しかったですね。
興味のあるかたはお試しください。




