魔改造のしすぎに注意
スカボロフェアはいい曲です。サイモンさんたちが歌ったのも、もうひとつのバージョンも、どっちも好きです。
ところで民族調の曲が好きなの~とか、ボカロの民族音楽リンクがとか言ってる人たちいますけど、あれって、どこの民族の伝統的な音楽を指して言ってるんでしょうね。
スペイン風の、とかケルティッシュな、とか中世イギリス風のとか言うならよくわかるし、こむるだって「うん、大好きさ!」って答えますよ。
でもどこの、と具体的に言わずにただ民族だけ言われても困りますよね。アフリカのなんとか族さんとアラスカのなんとか族さんとでは文化からなにから全く違うわけですから。
だから、こむるはこの言い方が嫌いだしナンセンスだと思っています。
そろそろおいとまするというアルスたちと一緒に玄関までついていく。
「やはり一緒に来てはいただけないのですか? 姫ほどの方なら七家をはじめ名だたる家々が、こぞって後見に名乗りをあげるでしょうに」
「気持ちはうれしいんだけど、もうしばらくはここにいるつもり。わたし引っ越したばかりだしこの家も気に入ってるから」
自分たちとベルーカに来て暮らさないかとナタンは言ってくれたが、サキは丁重に断った。
年のとり方が周りと異なるだとかサキの魔力の異常さに誰かが気づくだとかで、いずれこの地を離れなければならないときが来るだろうとは思うが、せっかく仲良くなった人たちと今すぐ別れるのはためらわれる。
それに、快適さについてもそうだが、食材確保という観点からも、引っ越すときはこの家ごとと決めているのだ。なにかよい方法を見つけておこう。
「アルスたち魔法で帰るんでしょう? うちの庭使ったら
いいよ。裏が果樹園でめったに人なんて来ないの」
「じゃあそうさせてもらおうか」
二人を庭に案内する。壁際に二人掛けのベンチを置いて、月桂樹をシンボルツリーにセージやオレガノ、バジルなどが植わっている花壇、芝生がわりにシロツメクサが花を咲かせベンチの陰から薄いピンクのミントの花が顔をのぞかせている庭は、サキのお気にいりである。
柵で仕切られている果樹園は、たまに管理人のウィルが手入れにやってくるくらいで、こんな奥まったところまでわざわざ来るような一般客はまずいない。ちょっとした隠れ家のような気分を味わえるのだ。
「今日だけじゃなくて、いつでも使ってくれていいからね。王都の西側に用事があるときなんかは、うちからのほうが近かったりするだろうし」
「それは助かるけど、いいのか? 本気で便利に使ってしまっても」
「うん、もちろん。ひとりで暮らしてるからお客さんが来るのはなんかうれしいの。あ、別に声とかかけずに素通りで全然構わないんだけど」
笑って答えると、ナタンが真剣な顔でアルスを見る。
「陛下、ぜひ姫のお申し出をお受けください! ですが素通りなんて絶対なりませんよ、姫のことをしっかり気にかけて差し上げてくださいね!」
「お、おう……」
ナタンの剣幕に押されたようにうなずき、アルスはサキに向き直った。
「えーっと、それじゃあ普段依頼を受けるときなんかでも、ここを行き帰りに使わせてもらっていいだろうか――なんかすまんな」
「ふふっ、ほんとに遠慮なんてしないでね。ああでも、たまにでも依頼の終わったあとに寄ってくれたら、お弁当にしにくいような料理もごちそうできるかも。今度、カレーを作ってみようと思ってるの」
「カレー!」
アルスの目の色が変わった。みんな大好き、カレーライス。
「もしうまくできたら一緒に食べる?」
「食べる! 絶対呼んでくれ!」
実はカレーならすでに、毎食カレーでひと月は過ごせる程度に“収納”されている。いろいろなタイプの作り方を試し、スパイスや味付け、小麦粉、バターの量を調節しいわゆる市販のルーに近づけてみた。
基本的に、料理はレシピ通りに作り、あまりアレンジなどは加えないサキだが、カレーに関しては、あれこれ試行錯誤することになった。なにせアルスをこの家に呼ぶための、言い方は悪いが餌である。彼が食べたいであろう味をできる限り再現してやりたかった。
そして、タイミングよく今度作ってみようと思っているのである。うまくできたらいいのだけど。
「んーと、じゃあカレー作るの、あさってのアルスがこっちに来るときにする? お昼に森で待ち合わせるんじゃなくて帰りがけにうちに寄って――」
「ああ、それがいいかもしれないな」
予定を決めてにっこり笑い合う。サキは、アルスを家に招待するという目標が案外早く達成できてご機嫌だった。
「陛下そろそろ……」
「そうだな、じゃあ行くか。サキ、お菓子ごちそうさま。今日は間に合ってほんとによかった」
「うん。ありがとうね、アルス。ナタンもまた遊びに来て」
「ええ、ぜひ。長々とお邪魔しました」
消える二人を手を振って見送り、家の中に帰る。今日はいろいろあって疲れた。もう何もせずに休もう。
カレーメモ
カレーを、市販のルーを使って作るときは、基本的には箱に書いてある材料、分量、作り方からあまり大きく外れないほうがよいでしょう。
ルーを二種類混ぜるとか、りんごを隠し味に、とか言う前にもっと気を使うべき場所があります。
それは、何の肉を使うのかかたまりか薄切りか、野菜はどんな切り方でどれくらい炒めるのか、といったことです。
薄切り肉と大きめに切った野菜をしんなりする程度に炒めて作れば、学校のキャンプで作ったようないわゆるおうちカレーに、カレー用の肉やかたまり肉とみじん切りの野菜(ジャガイモ以外)、特にタマネギをじっくり炒めて作れば洋食屋のカレーに近づきます。
隠し味に何か加えたいなら、一般的な市販のルーを使う場合、
りんごは4分の1個程度まで
トマトは1個まで
ホールトマト缶は多くても4分の1缶まで
ニンニク、ショウガはひとかけまで
ローリエは1~2枚程度
を目安にすると無難な仕上りになると思います。
まずは少な目から試してみて、自分の好みの量を把握していきましょう。
りんごとはちみつがポイントのバーモント州なカレー、辛いのが苦手なお子がいる家庭では重宝しますね。
ただ、辛くないのはともかくなんか気が抜けた味で物足りない、そんなあなたは、塩を小さじ半分~1程度加えてみましょう。あと、お好みでコショウ。多少味が引き締まると思います。
同じメーカーから出ているジャワなカレーって、もちろん唐辛子辛さもあるけど、コショウ辛さもけっこう強いんですよ、あとけっこう塩が強め。なので、それに近づけるイメージで。
わが家のカレーメモ
こむるの家では、カレーをはじめとしたハイカラな料理を作るのはパパンの役目でした。ママンは、自分の親から教わった料理以外を作るの苦手だったんですよね(微妙にメシマズが入っ……ゲフンゲフン)。
そして、そのパパンが作るカレーをこむるもこむるのねーちゃんも受け継ぎました。
でもね、二人が作るカレーって全く別ものなんです。
ねーちゃんは薄切り肉とひとくち大の野菜を炒めずにそのままぐつぐつやるし、こむるはカレー用の肉とみじん切りのニンニクを焼き、みじん切りのタマネギと人参を炒め、角切りのトマトを加えて炒め肉をあわせて水を入れ――と。
それまでカレーなんて作ったことがなかったパパンが、娘のために試行錯誤して自分なりのカレーを完成させていった様子が目に浮かぶようです。
因みに、ママンが作るカレーは、キャベツとキノコで水っぽいカレーとか(せめて炒めろ)バーモントに唐辛子をぶちまけて無理やり辛くしてみたカレーとか(普通にもっと辛いルーを使え)とか、パイナップルがとっても爽やかなカレーとか(その10分の1でいい)、とても個性的なものばかりでした。
二種類のルーと、牛、豚、とり三種類の肉を混ぜたのが味の決め手だそうです。
魔改造いくない。