side千鶴――重荷は共に分け合って
本日6話更新 4/6
幼児向けの知育番組とかで、余計な手出しをして事態が悪化して、
「ただお手伝いしたかっただけなの」
「大丈夫、気にしないでいいよ」
みたいな流れになるのが許せないこむるです。
子どもが勝手に工具とか使うの危ないし、下手したらガラスとか割れたりものが落ちたりで危ないことになってるのに、そんな状況を「~~したかった“だけ”」で許してもらおうとするとか甘えるなよと思うし、周りの大人も、それで許すなよちゃんと危ないことはしないように指導しとけよと思うのでした。
わたしは、どこへ行くともなく王城を彷徨っていた。
明かりが灯されているとはいえ人気のない夜の城はどこか物悲しい雰囲気を漂わせていて。
でもそんな冷えた空気が、今のわたしには何よりぴったりのように感じられた。
侍女さんに言われたことについて考える。
――サキちゃんは、本当はわたしよりもずっと大人で。
きっと礼儀作法とか敬語使い方なんかもわたしよりもしっかり身に付けていて。
現代日本人だから、身分制度には馴染みがないからと自分に言い訳をしたりせずに、この世界の“常識”を受け入れていて――
ベルーカの王様――アルスさんの婚約者……に選ばれる程の魔力を持っていても、異世界チートだなんてひけらかすこともなく、現代知識で内政チートをしようなんてこともなく。
(……本当に、わたしなんかとは大違い……――――)
くすりと自嘲の笑いが溢れ出た。
ああ、だけど……。
あの魔法屋敷の庭で、わたし達の無責任過ぎる会話を必死で耐えて笑みさえ浮かべて見せたサキちゃん。
わたしは、そんな“大人な”彼女が感情もあらわに涙するまでに、酷い仕打ちを重ねてしまったのだと――
「あれ、チズル?」
「え? ……あ、レオン君」
角を曲がった所で、レオン君とばったり出会った。丁度歴代の王や王妃の肖像画が掛けられている区画に差し掛かった辺り。
「こんなところでどうしたんだ?」
「えと、ちょっと考えごとを兼ねてお城探検……的な? レオン君は?」
「ああ、俺は図書棟から帰るとこ。凄いな、この国。俺の知らない魔法がわんさかで、気が付いたらこんな時間になってた」
「ふふっ、レオン君ったら。明日で出発だからって、あんまり根を詰めると身体に悪いよ」
相変わらず魔法のことになると他のことが目に入らなくなるらしいレオン君に、沈んでいた気持ちが少し上向きになるのを感じた。
レオン君は決まり悪そうに笑うとそのまま進行方向を真逆に変え、わたしと一緒に歩き始める。
「へぇ……これが、相馬さんとベルーカさん――」
「伝説の賢者の姿がこんな形で見られるなんてな……ほんとにニホンジンって、チズルとおんなじ目と髪の色してんだな」
この王妃様は美人だとか、男の人が一枚の中に二人描かれているけど王様が同時に二人いたのかなとか、感想を言い合いながら順を追って、とうとう一番新しい時代に辿り着いた。
そこには、わたし達のよく知っている姿があり――
「「アルス(さん)……」」
即位した時の姿なのだろうか、重厚なマントに王冠や錫杖、画面の中からこちらをじっと見詰めているかのような眼差し。
「王様、なんだよなぁ……」
ぽつりと落とされたレオン君の呟きは、わたしの気持ちそのもので。
少しの間、二人共無言で絵を見ていたけど、
「あ、レオン君、ここにも絵があるよ」
「ほんとだ」
アルスさんの肖像画の脇に、ひっそりと何枚かの絵が掛かっているのに気付いた。
それは、油彩で詳細に描き込まれた他の肖像画達とは違って、日常の一瞬を切り取った素描……っていうのかな、そんな感じの水彩画だった。
「これ、サキちゃん…………?」
画面に生き生きと描かれた、窓辺でギター?を弾いている、ほの灯りに浮かぶ温室でソファに腰掛けて笑っている、庭園のあずま屋でアルスさんと何事か笑い合っている、黒い髪の女の子……。
「……――――」
「……なあ、チズル――あんま一人で全部背負い込むなよな」
「え――」
絵からわたしへと向き直ったレオン君の目は思わずはっとする程真剣なもので――。
「チビ――サキちゃんを巻き込んじまったのはチズルじゃなくて勇者の召喚を決めた王宮の奴ら。それから召喚を実行した俺達魔法使いの連中であって、むしろチズルだって巻き込まれた側なんだ」
「でも……」
「それに、チズルはサキちゃんに酷いことを言ったって気にしてるかもしれないけどさ。チズルはただあいつを心配してただけだ。やり方は間違えちまったかもしれないけど、その気持ち自体は本物だろ?」
そう言ってレオンは笑う。
「レオン君……」
「だからさ、チズルは責任とか後悔みたいなもんはみんな俺達に押し付けてればいいんだよ」
「押し付けるなんて、そんなこと……」
「出来ないってか? まぁそこがチズルらしいって言えばそうなんたけどな。でも俺、好きな子には笑ってて欲しいからさ」
「……――――――え?」
い、今……な、なん、何て……す、すきって、……すっ、好き!?
「れ、れれレオン君……!?」
「――ははっ、やっぱり気付いてなかったな? 言っとくけど、“仲間として”とか“友達として”とかじゃなくて、ちゃんと女の子として好きなんだからな」
あっ、先回りされた……じゃなくてっ、
「で、でもそんな、わたしなんかを「チズル?」」
わたしの腰の後ろで手を組むようにして引き寄せられ、そのままこつんと額と額が合わさる。
「チズル――なあチズル、その“自分なんか”って言う癖、止めないか? 俺、好きな奴のことを、例えその本人だとしても悪く言われたくないかな」
「あ――――」
大きく目を見開くわたしに、レオン君は微苦笑し――そのいつもとは全然違う大人びた表情に、わたしの心臓がどきりと跳ねた。
「チズルが自分に自信がないとか、俺がチズルのこと好きなの信じられないとか、そんなの吹き飛んじまうくらいチズルのこと大切にするし、何回だって好きだって言うよ。だからさ、笑ってくれよチズル――」
と、レオン君は懇願するように言い募る。
「魔の森に入る少し前くらいだったかな……チズル、ちゃんと笑わなくなった」
「っ……――!」
「最近は特にそうだ、笑うのは笑ってるけどどっか無理してる」
「そんなこと、ないよ……――」
力なく首を振るわたしに、“そんなことあるだろ?”とレオン君はぐりぐりと額を擦り付け、
「辛いことも悲しいことも、全部俺が一緒に背負ってやる。だからチズルは笑ってろよ、な?」
にぱっと、太陽のように笑い――でもそのすぐ後、へにょんと眉を下げた。
「……まあ、俺じゃあエドガーやキースみたいに頼りにならないかもだけどさ」
その様子が余りにも情けなさそうで、さっきまでの真剣さとのギャップが余りにも酷くて。
「ふふ……っ、もうレオン君、“自分なんか”は駄目なんじゃなかったの?」
「――あ、わり……ははっ、」
気が付けば、さっきまで胸の奥に蟠っていた重苦しい色々の感情は綺麗に消え去っていて、わたしはレオン君と笑い合っていたのだった。
――それに。頼りないなんてこと、ないよ。
だって、わたしが落ち込んだりした時、すぐにそれに気付いて明るく励ましてくれたのは、わたしに元気をくれていたのは。
いつだって、レオン君だったから――――
「こいつらよその城で場所も考えずにいちゃつきやがって」と、多分姿は見えなくてもどこかに隠れていると思われる警護兼監視の騎士さんとかが思ってるんじゃないかなって、各ルートを書きながら思った。