side千鶴――勇者様は見た再び
ちょっと前にランキングで勇者に恋人を寝取られる系主人公の話がプチブームくらい(?)になっていたみたいです。
勇者がパーティーメンバーを寝取るのとか、もう何度目のブームだよって、まあこむるもそう思いますけどね。今回こむるが注目したのは、その流れが異世界(恋愛)カテゴリーでも起こっていた、ということなのです。
以前どうだったかはよく覚えていないのですが、勇者に恋人を奪われる主人公、その彼は男なわけです。当たり前ですけど。
異世界=チートで俺TUEEE=ハーレム、の構造により、男が主人公で恋愛要素を含む異世界を舞台とする作品はハイファンタジー(ファンタジー)に吸収される傾向にあるなろう――つまり女主人公だらけの異世界(恋愛)に男主人公のものが複数作品ランキングに同時期に食い込んできたというのが、(人気が出た一作目の後追いだったとしても)ちょっとおもしろかったです。
――わたしは部屋に戻る皆と別れ、一人庭園を歩いていた。
ベルーカ側の今のところの要求は、勇者召喚を今後一切行わないことに加え、魔法陣、資料等の破棄その一点のみ。
もし森の向こうに帰還するのに、勇者召喚を取り止めるのに何か華々しい“口実”が必要だというのなら、好きに“戦果”をでっち上げればいい。
ただし長期的には、“魔王”が“魔族”や魔物を率いて人類を脅かしている、などというデマは払拭していきたいと考えている――
と、今回の話し合いを纏めるとだいたいこんな感じになる。
エドガー達は、“勇者を召喚して魔の森に挑む”という一連の流れを取り止めるのは、他国との関係もあるからと難しい顔をしていたが、それすらも数十年スパンで――つまり次の勇者召喚が行われるであろう時期までにどうにかすればいい――という考えであるらしく。
物凄く気の長い話というか、でも却って、それがベルーカ側の本気を感じさせるのだった。
――わたしは、この問題について出来る限りの協力をしたいと思っている。
エドガー達のように政治に詳しくもなければ関われるような立場でないからこそ、こうやって簡単に言えてしまうのかも知れないけど、でも……。
あんな話を聞かされてしまったら――
サキちゃんのあの涙を見てしまったら――
それから――特に語られることはなかったけれど、他ならぬアルスさんも召喚の犠牲者なんだって気付いてしまったら――
犠牲者――――
そう。あの事故で、本来犠牲者になるはずだったのはサキちゃん――あと、もしかしたらわたしもかもしれない――だけだった。
それがわたしが召喚されることにより、サキちゃんのお母さんが巻き込まれた――つまり、あのトラックの運転者は、本来よりも余計に人を死なせてしまったということにはならないだろうか……?
アルスさんがどのような形で召喚に巻き込まれたのかはわからないけど、もしわたし達と同じように交通事故だった場合もそう。
勇者が召喚されることによって事故の加害者が作られる――彼等もまた、召喚によって運命を歪められた一人なのではないか……?
そのことに気付いてしまったら――
新たな犠牲者を二度と出す訳にはいかないって、強く思うのだ。
エドガー達が懸念する通り、この問題を解決するのは大変かもしれない。
でも、“異世界から召喚された勇者”であるわたしが声を上げることで、アルスさんやエドガー達の後押しが出来るかもしれない――ううん、それはきっとわたしにしか出来ない、勇者としての、現代日本人としての責務なんだって……。
そうしたら、アルスさんにちょっとは見直して貰えるかな……? だったら嬉しいな……。
人気のない庭を幾つも通り過ぎ、気付けば随分と奥の方まで来ていた。
「――――」
「――、――――」
あれ? 生け垣の向こうから話し声が聞こえて……あっ、これサキちゃんの声だ!
そうと気付いたわたしは、居ても立ってもいられず隣の庭に続くツルバラのアーチへと足を早めていた。
サキちゃんにどうしても謝らなきゃ、って……。
アルスさんはああ言っていたけど――
だとしても、傷付けてしまったのならちゃんと謝るのが筋だと思うし、アルスさんの言う通り、今のサキちゃんにそれを受け入れる余裕がないというならそれでもいい、ただ知っていて貰いたかった。
わたしがサキちゃんに謝りたいと、申し訳なかったと、心からそう思っていることを。
それに――サキちゃんの声と一緒に聞こえて来たのはアルスさんの声だったから……。
物凄く打算的なことかもしれないけど、アルスさんのいる前で謝ることで、厳しい意見を言われてもきちんと筋を通せる人間なんだって、わたしのことを思って貰えるんじゃないかって。
少しだけ、ほんの少しだけそう考えてしまったのは確かだった。
サキちゃんとアルスさんは、区画の片隅に置かれた小さなあずま屋にいた。ベンチに座るアルスさんの膝の上にサキちゃんを乗せていて――ちょっとサキちゃんが羨まし……や、何でもないよ?
アーチをくぐろうした、その時。
「――――だめね、あのお姉さんは全然悪くないってわかってるし、お兄さんたちだって知りようもなかったのだから、どうしようもないことだったってわかってるの」
悲しげな声にぴたりと足が止まる。
「でも、どうしても考えてしまうのよ……なぜ、あの日あのときのお姉さんを召喚したの、どうして巻き込まれたのが母さんだったの、って」
わたしは、もう家族に会うことは出来ない。
そのこと自体はとっくに覚悟していたし、例え相馬さんの編み出した帰還魔法が使えるからと言われたとしても、世界の境界を越えることによって災害が引き起こされると知っては……わたし一人の我が儘で何百、何千人もの命を危険に曝す訳にはいかないから……。
でも、それは家族に何かあったという訳ではなくて。
世界を隔てたこちら側から、皆元気でいてくれていると信じることが出来る。
「わかってるの。――母さんはわたしが助かってほしかったんだって。でも……わたしだって、母さんに生きててほしかったわ」
「ああ、そうだな――」
涙を流すサキちゃんを、アルスさんは優しく抱き締めた――
サキちゃんは、もうお母さんに会うことは出来ない。
わたしが――わたし達が、居もしない魔族と魔王に怯えたこの世界の人達が、サキちゃん達を召喚に巻き込んでしまった、から……。
同じ「会えない」なのに、わたしとサキちゃんとではこんなにも意味合いが違う――
わたしは、半分生け垣とアーチで身を隠したような状態から、一歩を踏み出すことが出来なかった。
何だか、酷く自分が身勝手なことをしようとしているように思えたのだ。
サキちゃんは、あんな目に遭ったのに、あんなに悲しんでいるというのに、わたしやエドガー達を許そうとしてくれている。
許す為に、一生懸命自分の気持ちと向き合っている。
それを、今わたしがのこのこと出て行って「謝りたい」なんて言っても、邪魔にしかならないのではないだろうか。
“筋を通したい”も“謝罪の気持ちを知っていて欲しい”も、サキちゃんに向けているようでいて、実は自分の為の行動でしかないんじゃないか、って。
自分が満足したいだけの謝罪に意味はないってアルスさんが言っていたの、こういう意味だったのかな……。
だから、わたしには離れたところから二人を見ているしかなくて――
少しして、泣き止んだサキちゃんにアルスさんはお菓子の入っているらしい籠を手渡した。
「りんごのうさぎ……」
中を覗いてサキちゃんがそう言うと、アルスさんは照れ隠しのようにそっぽを向いて、
「こういう気分のときもあるんだよ」
と言いながら籠に手をやる。
「サキもいるか? 耳なしがよければそっちも用意できるぞ」
出て来たのは――りんごで作ったうさぎ? 小学校の遠足とかでお弁当によく入ってる?
「ううん、これがいい――」
何か、サキちゃんにはりんごのうさぎに思い出でもあるのかな? ちょっとだけ哀しそうな、でも嬉しそうな顔でサキちゃんははにかんで首を左右に振った。
そのままサキちゃんはアルスさんにりんごを食べさせて貰ってる――いいなあ……小さいって得だよね。
わたしは何となくだけど、サキちゃんに対して、“同じアルスさんが好きな者同士”という仲間意識みたいなものを持つようになっていた。
……とは言っても、わたし達二人共失恋確定なんだろうけどね……はぁ。
アルスさんの妹的なポジションを獲得して可愛がられていること、アルスさんの婚約者……に選ばれていることを正直羨ましく思う。
でも、その一方で、あのカファロ王国でアルスさんの帰りを待っている指輪の女性の存在をサキちゃんは知っているのだろうか、とか年齢差があり過ぎて、結局妹以上には見て貰えないんじゃないだろうか、みたいな歪んだ優越感を抱いていたりもして。
恋って、綺麗なだけの感情じゃないんだなあ……って……――?
――あれ?
そういえば。
サキちゃんって、あの時横断歩道を歩いていたお姉さん……なんだよ、ね?
え?
あれ?
って、ことは――サキちゃんは今でこそ異世界転移の影響で子供に戻ってしまっているけど、某国民的名探偵よろしく“見た目は子供、頭脳は大人”状態な訳で。
またりんごのうさぎをアルスさんに作って貰う約束を交わしているサキちゃん――え、この場合サキさんって呼ぶべき?――を呆然と見詰める。
……これって、わたしだけじゃなくて、指輪の女性にとっても強力なライバルの出現って、ことになるの……?
恋愛脳ですから……。
少々報告をですね。最近、肉がやけくそな値段で売ってる店を見つけたのですよ。近所だけどあまり普段行ってなかったスーパーなんですけどね。
おかげさまで、比較的気軽にトンカツとかしょうが焼きとか、肉じゃが(牛肉バージョン)とか作れるよになりました。
といっても、こむるは鶏→豚→牛の順に好きなんですけど。
で、カツ丼食べたいって家族に言われて作るじゃないですか。
ほんとはね、こむるさん嫌いだったんですよ、カツ丼。昔ママンが作ってたのはおいしくなかったし、お子がお腹にいてつわりであんまり動けなかった頃、ママンがお昼御飯の差し入れよって毎日――ええ、ほんとに毎日のようにそこまでおいしいわけでもないスーパーの惣菜のカツ丼を買って来てくれましてね。
でもしょうがないから作るんですよ、カツ丼。
少しでも自分で食べておいしくしようとちょっと考えたりもしてね。
で、結論。
塩麹を使ってトンカツを作るとおいしい。
作り方:
・塩麹 トンカツ用の肉4枚に対して小さじ1~2
・こしょうを振るなら控えめに。
で下味をつけたらあとは衣をつけて揚げる。
油に入れるときは1枚ずつ、色づいて浮いてくるまであまりつつかない。
油を切るときは網に立てかけて。
わりしたで玉ねぎを煮て、こむるはさくさくの食感が欲しいので卵を入れて一回くるりと混ぜてすぐにトンカツを並べて卵とじにしてるけど、本式のはどうなんでしょうね。本を見て作ったことがないのでわかりません。