side千鶴――召喚と巻き添えと過ちと
本日四話投稿 3/4
なんかね、最近、お前なんかに何がわかる! とかって拗ねた主人公なんかに、「昔あるところに、○○な男がいた」って物語風に自分語りを始める系のやつ、なんかね、こむるさんむずがゆいんですよ。
男は――ってそれ明らかに自分のことですよね? わりと主人公の怒りポイントとずれてる内容じゃないですか、それ? ていうか、そんな風に自分のことしゃべるの恥ずかしくないですか? かっこいいんですか?
などと、つい突っ込んでしまうこむるさんは、きっと年を食ってひねくれてしまったんだと思います。
こう、全方位に申し訳ないと謝罪をですね……
「サキ――サキ、もういい」
これまで、じっとわたしとサキちゃんのやり取りを見守っていたアルスさんが、立ち上がってサキちゃんの頭を抱えるように抱き締めた。
「もういいから。あとは俺たちでやる、だから――」
「でも、アルス……」
と弱々しく反論するサキちゃんの声は涙混じりで。
そんなサキちゃんを見るアルスさんもとても哀しそうで。
「これ以上サキに辛い思いをしてほしくないんだ。だから、俺が説明することを許してくれないか?」
アルスさんはその黒い髪に唇を落とし、サキちゃんは僅かに頭を動かした。
「ナタン、サキを頼む」
「かしこまりました。さ、姫――参りましょう」
頷いてサキちゃんを抱き上げ、退室して行くセニエさんの目にはサキちゃんへの慈しみに溢れていて、とてもカティーナさんから聞いたような酷い人には思えなかった……。
半分混乱しかかった頭でサキちゃん達を見送っていると、アルスさんがさっと手を振って部屋を埋め尽くす魔石の結晶を消し去った――収納魔法を使った、のだと思う。うん、多分……?
レオン君が、こっそり「あれ、全部超高純度の魔石だぜ? あんだけあったら、総額幾ら……ぐらいになるんだろうな……?」と耳打ちする。どこか遠い目をしていたのは気のせいだと思いたいなぁ……。
「――昨日城に侵入者があった。わざわざ客人たちを不安にさせることはないと知らせなかったのだがな」
少しの間目を瞑って息を吐き出し、アルスさんが言った。
一瞬、どきりとする。
“侵入者”ってわたし達のこと……ではなくて、多分、“あの女性”……
「その者は、自分が王妃に選ばれなかったことに強い不満を抱いており、城内で暴力沙汰を起こし王城への出入りが禁止されていたのだが……」
と、一旦アルスさんは言葉を切ってわたしにちらりと目をやり。
「彼女の目的は、どうやらその原因となったセニエ家とその養女――つまりサキへの復讐であったらしい」
「そんな、嘘……――」
わたしがサキちゃんを助けると約束した時の、あのカティーナさんの笑顔は、真摯さは偽物だった、というの……?
「勇者殿には、情報の提供を感謝する」
「あ――」
努めて感情を表に出さないようにしているかのような硬い声と表情。
カティーナさんに騙されたことを、“情報提供”という形で有耶無耶にしてくれたのだとは理解出来たけど――。
でも、わたしがセニエさんに濡れ衣を着せ、サキちゃんを傷付けてしまったことは無かったことにはならない。
「わたし……何てことを――」
「チズル……! チズルは悪くない、悪いのはその女だ」
青ざめ、口を手で覆うわたしの肩に、そっとレオン君の手が乗せられる。キースさんもわたしを励ますように微笑んで、
「ええ、チズル様が心からサキさんを助けたいと思われたのは確かなのです、そのチズル様の優しさを責めることなど、誰にも出来ません」
と言ってくれる。
「レオン君……キースさん……」
侍女さんにサキちゃんのお世話を任せて来たのだろう、セニエさんが単身戻って来て元の位置についた。
「さて――そろそろ本題に移らせてもらってもいいだろうか」
「あ――分かりました…………」
さっきサキちゃんが「お母さんを助けてくれなかった」と言っていたのはどういうことなのか、とか。
アルスさんはサキちゃんが婚約者……で本当に納得しているのか――あの指輪の女性のことはどうするのか――とか……。
訊きたいことはあったのだけど、そんなことを気軽に言い出せるような雰囲気ではなかったっていうのもあり。
諸々の疑問を飲み込んで、わたしはアルスさんの話を拝聴するのだった。
「この度、貴殿らにわざわざご足労願ったのは、エスター王国が主体となって定期的に行われている勇者召喚、その魔法にある重大な欠陥があることが判明したからである」
「なっ――」
ガタン、とエドガーの椅子が鳴る。
「有り得ない……賢者ソーマ・ユートの編み出した魔法に欠陥だと……!?」
「エドガーの言う通りだ、現に召喚は成功している……」
レオン君も納得しかねる、という風に眉を寄せていて。
「これが失敗と言うのなら、チズル様のことはどう説明なさるのです?」
キースさんの疑問に、わたしも曖昧に頷く。実は召喚の魔法陣に問題があってわたしの身体とか精神とかに何か悪い影響が……なんて怖すぎるんですけど……!?
「問題はそこではない」
と、アルスさん。
「この世界と勇者が召喚される日本のある世界とに道を繋ぐ――世界間の境界を越えるために無理やり魔力でこじ開けた穴から“向こう”に魔力が流れ込んだままになってしまっていることが問題なのだ」
「それによってニホンの魔力循環が乱れるということか? それ位ならば、儀式魔法で整えればよいこと――」
言いかけて、はっとエドガーはわたしを見る。
「そう、か……チズルの生まれた世界では魔法は……」
「え? どういうことなの、エドガー」
「その地の魔力のバランスが崩れると何が起きるか、チズルは知っているか?」
えっと、確かこの世界は魔力の影響を受けやすいっていうか魔力で出来ている説まであるから、嵐とか火山の噴火なんていう自然災害は魔力の乱れが原因と考えられている――んだっけ?
「うん、レオン君から魔法について習ってた時に教えて貰ったけど……。この世界では災害を防ぐ為の儀式魔法?ってのがあるんだよね?」
「ああ、その通りだ。だが、チキュウでは魔法――魔力を扱う技は発達していない……」
そこで、何かに気付いたようにレオンが愕然とした表情になる。
「つまり、俺達が勇者を召喚すると、チズルの生まれ故郷で災害が起きる――?」
「そういうことになる」
当たって欲しくなかった予想をアルスさんに肯定され、わたしは思わず息を飲んだ。
それは――それはつまり、わたしがこの世界に召喚された所為で災害に見舞われた人達がいたってこと……?
「だが! 一体どうやってそのことが分かったというのだ!? それが事実であるという証明は? 単なる推測ではないと何故言い切れるのだ」
エドガーが声をあげる横でレオン君も頷き、キースさんはショックを受けるわたしを気遣うように手を握ってくれた。
「……“向こう”からこの世界にやって来る者たちは、三種類――厳密に言えば二種類に分けることができる」
「それが今の話と何の関係があるんだよ」
話が見えない、と眉を寄せるレオン君をアルスさんは冷めた目で一瞥し、何事もなかったかのように続ける。
「まずは魔法による召喚で連れてこられた者。勇者殿がそれにあたるな」
ひとつ、とアルスさんは人差し指を立てた。
――“勇者殿”と呼ばれることに、……名前で呼ばれないことに小さく胸が痛む。
「次に、何らかの理由で命を落とし、この世界を管理する神に手違いの詫びとして“こちら”で生き返ることを提案された場合。それまで暮らしてきた経験――具体的に言うなら年齢を対価として、魔法や身体能力の強化といった能力を得ることができる」
ふたつ、と指をもう一本。そして三本目。
「しかし、その結果自力で生活をしていくのが困難なほどに若返ってしまった時、この世界の住人として生まれ直すことになる――“記憶持ち”と呼ばれる者たちだ」
“召喚者”、“転移者”、“記憶持ち”。それに“神様の手違い”、“若返る”――
相馬さんの手記にも書いてあったキーワードだ……。
「では……では貴方は……いえ、貴方だけでなくサキさんも、至高の御方に――創生神にお会いになったと、そういうことなのですか……?」
キースさんの声は心なしか震えていた。
当然だよね。直接神様と会って会話したなんて、敬虔な神官さんにとってはそれこそ聖人か聖女かって位の奇跡だもの。
だけど、アルスさんにはそんなことは別にどうでもいいらしくて。
「わたしにはそのときの記憶はないのだがな」
と、酷くあっさりとしていた。
こうやってネタが尽きかけたお料理ネタを、連続投稿の最後に載せることで少しでもごまかしていこうというスタイル。
嘘です。明日の運動会で力尽きる前に一気に放出しようという――やっぱり半分くらいはほんとです。(´・ω・`)