side千鶴――証拠を数えてみよう
友人とお茶を飲みながら、婚約破棄されて田舎でスローライフを始める令嬢たちについて語り合っていたんですよ。
魔法チートで作業短縮とか、その結果領主とか商人に目をつけられて大量に生産して卸すはめになるとか、手が足りなくなって最終的には奴隷制プランテーションの幕開け――とか、彼女たちのやってることって全然スローじゃないよね。って。
いや、でもちょっと待って欲しい、マリー・アントワネット王妃は宮殿の片隅に畑を作って「これが農民の暮らしですのね、オホホホ」ってやってたわけでしょ、つまり、彼女たちは正しくスローライフ(貴族令嬢)をやってたんだよ!
ナ、ナンダッテー!
結論としては、さすがおフランス、われわれの二百年先を行っていたというのか……ということで合意に至ったのです。
ご令嬢のみなさまには、ぜひともこの調子でスローライフ道(貴族令嬢)を邁進していただきたいものです。
アルスさん達と壇上に控えていた二人が去った後、灰色の髪の文官さんが係の者に客間へ案内させるから今日のところはゆっくりしてくれと言って、この場は解散になった、らしい……。
ちなみに、彼はこの国の宰相のナタニエル・セニエさん、後ろにいた二人は、黒髪……というより烏羽色?の人はジェラード・ソーマさん、煉瓦色の髪の人はシドニー・アトリさんといって、それぞれ騎士団と魔法使いの率いているのだそう。
この国の上層部の人達って、皆アルスさんとそう変わらない位で若いんだね……。あ、でも魔力が高いと寿命も伸びるらしいから、一概にそうとは言えない、のかも?
「――ああっ!? “ソーマ”!」
わたしがその苗字の意味に気付いたのは、侍従の人に先導されて王城の廊下を歩いていた時のことだった。
「いかがなさったのですか?チズル様」
相馬さんという日本人の苗字としてのイメージ、ソーマ・ユートという姓と名が逆転した賢者としてのイメージが強くてスルーしちゃってたけど、ソーマさんの“ソーマ”って、もしかして相馬さんに関係あったりする!?
ていうか、そう、そうだよ! どこかで聞いた気がするって思ってたけど、ベルーカって――!
「ソーマ将軍が、どうかなさいましたか?」
侍従さんが振り返り、柔らかく微笑む。
「あ、いえ……その、ソーマさんって相馬さんの――賢者ソーマ・ユートの……それに、この国の、ベルーカという名前はもしかして」
「ああ、よくご存知で。仰る通り、“ベルーカ”は初代国王ユート・ソーマ陛下の愛した王妃の名でございます――“外”ではソーマ・ユートと呼び習わされているそうですね」
「やっぱり!」
そっか――相馬さんは、ちゃんと恋人のベルーカさんに再会出来たんだ、良かった……。
「あれ? でも、それならどうしてアルスさん……はソーマ姓じゃないんですか?」
相馬さんがこの国を作って、それが今まで続いているってことは、家系が途絶えたとかでもない限りは相馬さんの子孫が王様をしてなきゃ変じゃない?
でもアルスさんの苗字はソーマじゃないし――何ヵ月も一緒にいたのにフルネームを知ったのはついさっきだということに、ちょっと落ち込んでしまう――他にいるソーマの名前を持つ人は将軍だし。……うむむ?
「我が国では、初代王と建国に携わった家の中から、魔力の優れた者を王として選出するのです。勿論、過去にソーマ家の方が王となられたこともございましたし、これから選ばれることもございますでしょう」
「へえ……そうなんだ」
「ふむ……そのような選び方があるのか、面白いな」
あ、エドガーが興味を持ってる。
確か、地球でもなんかそういうのあったよね、選帝候がとか神聖ローマ帝国が――違うかな?
「それにしてもさ、びっくりしたよな、チズル」
隣にレオン君が並んで溜め息をつく。
「アルスさんのこと?」
「ああ、うん。それも勿論だけど、あのチビのこと――」
「っ……サキ、ちゃん……」
そう、訳が分からないと言えばアルスさんよりサキちゃんの方かもしれない。
結局、拐われたとか操られたとかではなくて、本当にサキちゃんはこのベルーカの人……ってことだったみたいだけど、だったらなんでヨランダで一人暮らしをしてたんだろう? あの時聞いた事情に嘘はなさそうだったのに……。
「勇者様方は姫様をご存知なのでしたか。姫様は、精霊の愛し子でいらっしゃるのですよ」
侍従さんに訊いてみた所、そんな答えが返って来た。
何でも、“外”――つまり魔の森の向こう側で生まれた、この国ベルーカの人達並に魔力の高い者を“精霊の子”と呼ぶらしく、その魔力の所為で迫害を受けているとかで本人が希望する場合は、この国で保護、亡命を受け入れたりしているそう。
今回は、サキちゃんが精霊の子であることに気付いたアルスさんが、サキちゃんを後見してくれる家を探して、今はサキちゃんはエスターとベルーカを行き来しているのだそう。
――――ん? 行き来?
「え、でもなんかおかしくないか、それ。あのチビっ子、魔力とか特別物凄いって感じじゃないだろ? あれ、でもそれを言うならアルスも、だし……?」
ふと浮かんだ疑問に内心首を傾げているところに、レオン君から新たな疑問が投下される。
「ほんとだ、そう言えば――」
わたしはレオン君程詳細に分かる訳じゃないんだけど、確かにアルスさんの魔力量はレオン君よりも低いし、サキちゃんだって、一般的な魔法使いかそれよりちょっと上かな?位。
対してこの国に来てから出会った人達は、流石“魔族”と呼ばれていただけあって、召喚チート付きのわたしですら軽く上回っているような人だっている――特に、セニエさん等側近の人達とか。
この国では、魔力量で王様を決めるって言ってたのに、どうして――?
「それは、陛下は“外”に赴かれる際は、魔力を低く見せる魔道具を身に付けておられるからでございますね。そして、姫様につきましても、“外”で安全にお過ごしになるために、陛下と宰相閣下が同様の道具をご用意なさったと聞いております」
「そっか……そんな理由だったんですね……」
「ふうん……そういうことか」
二人それぞれ納得したところで、レオン君が続ける。
「“魔族”が実は普通――まあ、魔力は普通じゃないかもだけどさ――普通の人間だって言われてびっくりしたけど、でも、アルスだってチビだって、ほんとに“普通”だったもんな。それを思うとこう、信じるっつーか、納得するしかないっつーか、さ」
「うん――」
「ああでも、ひとつだけあの話の中で分からなかった所があるんだよな」
「え、そうなの?」
きょとんとレオン君を見上げると、ほら、チビが言ってただろ?とレオン君は人差し指を立てた。
「ええと――ら…どる?がどうとかごーる…?れとりば?だっけか? なんか不思議な名前の“何か”」
「ああ、それはわたくしも気になりましたね。何か……この国固有のものなのでしょうか」
「何だ、キースとレオンも分からなかったのか? 後で知っているか訊いてみようと考えていたのだが……」
三人揃って首を捻ってる様子がなんだか可笑しくて、思わずくすりと笑いながらわたしはレトリバーについて説明した――モフモフのゴールデンもいいけど、わたしはやっぱり黒ラブかな!
「レトリバーってのはね、日本とかでも人気がある犬の品種の名前なんだよ。ゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーはよく似てるけど、毛の長さとか色とかが違って、て……――」
「「「チズル(様)?」」」
え? 待って、――ちょっと待って。
何故、この世界出身のサキちゃんが地球の犬のことを知っていたの――?
「えっ――でも……」
(ううん、待って。そういえば――)
思い出すのはさっきの玉座の間でのこと。そして、初めてサキちゃんと出会ったあの秋の森でのこと。
あの時、ショックが大き過ぎて頭があんまり働いてなかったけど、確かにアルスさんとサキちゃんは「世界を半分やろう」的な、勇者と対峙した魔王の定番の台詞――そう、現代日本の創作でお馴染みの台詞について会話してた。
それから、ヨランダの森でサキちゃん達と会って、皆で帰っていた時。
今の仕事が春くらいに終わるから、そうしたら一緒に森に行こうって――今考えてみるとサキちゃんはこの旅の予定について詳しく知っていたってことで。つまりサキちゃんはやっぱりベルーカの……うん、そっかぁ――ともあれ、森に行こうって確かアルスさんと指切りをしてた。
そう、指切りなんて風習のあろう筈もないこの異世界で。
魔法屋敷で訊ねた時は“違う”って否定されたけど、でも。
(やっぱりサキちゃんは日本人だった……?)
あれ、でもそうすると、ちょっと待って?
そんなやり取りをごく自然にサキちゃんと交わしてたアルスさんも、何気に日本人――髪の色とかからすると転生者だったり、する……の……?
(それなら、わたしの名前を初めて呼んでくれた時に“千鶴”って呼んだのも――……)
「あれ……? 嘘、え、でもほんと、なの……?」
それからのわたしは、心配して声をかけてくれるエドガー達に上の空で返事をしながら、明日あるという話し合いの席では真っ先にこのことを訊かなければ、と考えている内に客間に到着していたらしく。
部屋に入ってからも、室内の確認をするでなく、「御用があればお申し付け下さい」と礼をする部屋付きの侍女さんにも生返事で、明日アルスさん達にどんな風に切り出そうかと頭を悩ませていて。
だから。
その女性がそっと部屋に忍び入って来ても、扉の閉まる音がするまで、わたしはそのことに気付かなかったのだった。
パタン、と控え目な音がして、わたしは振り向いた。
「っ、誰……ですか?」
そこにいたのは、見事なストロベリーブロンドをショールで覆い、抑えた色彩のドレスを身に纏いながらも、全く隠し切れていない美貌の。
ちょっと気の強そうな感じの女の人だった。
その人は、わたしの前までやって来ると突然膝をつき、すがるような目で両手を胸の前で組み合わせた。
「突然このような不躾な真似をして、申し訳もございません……ですがあの子を……サキ様をお助けするには、もうこれしか方法が……!」
「え――サキちゃんを……って、どういう、こと……?」
「どうか、どうかお願いします、勇者様……サキ様を……」
彼女は、カティーナと名乗った。
そしてわたしは、この国の歪みとでも言うべきものを知ることになる――――
混ぜるな危険、ヒロインちゃんと悪役令嬢。
こういう答え合わせ回になったとたんに、主人公って記憶力ばつぐんになるよね。
こむるなら絶対にそんなこと覚えてらんない。
こむると友人氏の華麗なるティーパーティー
お弁当の前書きに何度か登場しているハンティング仲間でありなろう仲間でもある友人氏。
だいたいの場合、狩り場とお茶をこむるが、お菓子を友人氏が提供するスタイル。
やってくるお菓子はその日の気分で様々ですが、どこかに行ったお土産とか地元のお菓子屋さんでちょっといいシフォンケーキを買ってきたなんてとき、我が家の冷蔵庫から秘密兵器が登場するのであります。
・クリームをホイップする
シチューやポタージュ、バターチキンカレー、いつ必要になるかわからないので常備しておきたい生クリーム。でも日持ちしない。あと高い。よって、こむるの家の冷蔵庫に入っているのはたいてい植物性ホイップ。あっさりしててこれも好きです。
ホットケーキパーティーをしたときの余りとかで、泡立て済みのホイップクリームを使うこともあるけど、自分で泡立てたほうが好みの泡立て具合や味加減にできるよね。
こむるの好みは、標準的なホイップ1パック200mlに対して、砂糖は大さじ1(15グラム)くらい。パッケージの説明もそんな感じだと思うけど、これけっこう甘さ控えめに感じるかもしれない。甘いのが好きな人は大さじ2杯くらい入れるとよいかも?
あと、風味付けにラム酒を小さじ1程度入れるのもいいよね。バニラエッセンスより好きかも。今は切らしててうちにないけど、キルシュワッサーとかコアントローなんかのリキュールも素敵。
泡立て加減は7分立てくらい。角が立つ手前くらいの、でももったり流れない程度。それを大きめのスプーンなんかでもりもりっとすくってケーキに添える贅沢さよ。
クリームのおかわり? もちろんありですとも。
・果物のコンポートを添える
別の友人がやってきたとき、シフォンケーキとホイップクリーム、あとリンゴのコンポートがあったので全部のせを敢行した。暴力的な味だった。
ケーキを食べ終わったあとに余ったクリームは、同じく余ったコンポートでさらって食べた。うまかった。
今度友人氏ともやろうと思っている。
半分に割った桃やいちじくのコンポート、まるごとみかんのコンポート、いろいろあるけど、こむるは食べやすい大きさに切った梨やリンゴで作ることが多いですね。みかんのコンポートも、食べやすいように房に分けるとか。
・水の量は果物がつかるくらい、砂糖はわりと適当、甘さ控えめに水100CCに砂糖大さじ1~2くらい?
・レモンは味が変わるのがあんまり好きじゃないので小さじ1~2くらい。市販のレモン果汁の場合は小さじ2分の1くらい。
・アクが出るようならすくって弱火で(あんまりぶくぶくしない程度に)15分ほど煮る。リンゴや梨はくたっと透明感が出てきたら火を止める。
・あら熱をとったら冷蔵庫へ。
ヨーグルトに入れるときはサイコロに切って混ぜるのが好き。
汁ごとゼラチンや寒天で固めてゼリーにするのもよい。ただし、この場合はしっかり甘みをつけたほうがよいと思われる。
ここ数年のお茶会では、紅茶はアッサムやキャンディなどミルクティー向きの銘柄ばっかり使っている気がするぞ。そろそろ夏だし爽やかなフレーバーのアイスティーを復活させるのもいいかもしれない。