side千鶴――辿り着いた玉座
本日三話連続更新 1/3
えー、これからしばらく勇者さまのお話が続くことをお詫び申し上げます。
別にね、ざまぁが悪いというわけではないのですよ、勧善懲悪って大事よね。
でも、水戸のご隠居が8時45分に印籠を出すのを楽しみにするのじゃなくて、どんな風に悪代官がこてんぱんにされるのかな、今週はお仕置き具合が甘いぜ、ツマンネ。って見方するのって、前者と比べると不健全な感じがしません?
つまりね、物語の流れとしてざまぁがあるのではなく、より強烈なざまぁを書くために物語を作る風潮って、すごく健全ではないよなぁと、こむるは心配になってしまうと、そういうことなんです。
これ、何回か言ったことあると思うけど。
2018/05/12 落書き倉庫に落書きを1枚追加
屋久島の縄文杉が御神木になって、鬱蒼と繁る深い森が燦々と木漏れ日の射す森に――。
この頃には、かろうじて人(魔族……?)の通った痕跡が分かる程度だった獣道も随分と立派な”道“となり、道の要所々々に現れる砦も、手入れの行き届いた、備蓄などの管理もきっちりされていることが見受けられるものへと変わった。
――わたし達は、魔王軍の裏をかいて最小限の戦闘だけで玉座の間に到達するにはどう動けばいいか、毎晩のように話し合った。
話し合いは、いざとなったら自分が盾にでも囮にでもなるから、わたしだけでも先に進めと言うエドガー達と、そんなこと絶対に出来ないと主張するわたしとで平行線を辿った。
確かにわたしの言うことは単なる理想論で、現実はきっとそんな上手くいく筈ないと分かってるし、本当にどうしようもない時は、仲間を犠牲にしてでも進まないといけないのだと、それが勇者としての責務だと――
でも、それでも。
最初から生きて帰ることを諦めて欲しくない、そんな気持ちで臨むのは絶対に駄目だと、最後には泣きながら訴えてしまっていた。
そんなわたしに皆大慌てで、エドガーは必死で頭を撫でるわ、キースさんはおろおろとハンカチを取り出して涙を拭くわ、レオン君は後ろから抱き着いて自分も泣きそうになるわと、なんだかカオスな状況に……。
ひとり冷静だったアルスさんがいなかったら、混乱の場が収まるのに倍ぐらい時間が掛かったかもしれない。
アルスさん、子供みたいとかって呆れてなかったらいいんだけど……ああでも、欲を言うならアルスさんにちょっとだけでも慰めて欲しかった、かな。……いや無理か。
と、まあそんな感じで、三人共前言を撤回はしてくれた――こう、泣き落としみたいな形になってしまったけど――それでも、皆が命を大事にするって言ってくれたのは、素直に嬉しかった。
そして今日――――
いよいよ開けて来た視界の先に、唐突に灰色がかったクリーム色の城壁が現れる。森の道の終わりは、堀を隔てて跳ね橋を上げ、固く閉じられた城門。
「これが、魔王城……」
エドガーの呟きがぽつりと落ちる。
キースさんやレオン君も、緊張を滲ませながらもどこか安堵というか気の抜けたような表情をしていて。
わたし達、辿り着いたんだ……。
歴代の勇者達が揃って目指しながらも到達することの叶わなかった、魔王城に……。
城壁の向こうに木々が頭を覗かせ、その更に奥に象牙色の尖塔が建ち並ぶ。
「どうやら、ここは庭園へと繋がる裏門のようですね……」
キースさんの推測にそれぞれ頷いた、確かに、ここは城の正面という雰囲気ではない。
「どうする、正面に回り込むか?」
というレオン君の問いに、しかし、エドガーは首を横に振った。
「いや。魔王軍が正面で待ち構えている可能性を考えると、このまま裏門から潜入した方が、奴等との接触を避けられるかも知れない――レオン、アルス。わたし達を抱えてあの堀と城壁を越えられるか?」
「もちろん! それぐらい楽勝さ」
その提案は成る程と納得出来るものだったから、わたし達に否やはなかった。アルスさんも問題ないと頷く。
簡単な相談の結果、魔力の高いレオン君が私とキースさんの二人を同時に、アルスさんがエドガーを担当することに決まった。
「ごめんね、レオン君。わたしがちゃんと自分で飛べたら良かったんだけど……」
レオン君を挟むように三人で手を繋ぐ。わたしも宙に浮かぶくらいは出来るようになってるのだけど、レオン君やアルスさんみたいに自由自在、とまではいっていないのだ。
「気にすんなって、チズル。寧ろ俺は、チズルと手を繋ぐ口実が出来て嬉しいし」
ニッと笑ってレオン君は魔法を発動させた。
そうやって、こっちが負担に思わないように然り気無く気遣ってくれるのはありがたいんだけど、やり方がイケメン過ぎて今度は照れてしまうというか――おっと、宙に浮いたまま姿勢を保つって、慣れるまでちょっとコツがいる。
「チズル様、大丈夫ですか?」
「あ、うん。ありがとうキースさん」
ぐらついたわたしの手を、キースさんが空いてる方の手で取って支えてくれた。
「よし、それじゃあ敵に見つからない内に、ひとっ飛び行くか!」
エドガーの手をぞんざいに掴み、引っ張るようにして城壁を越えて行くアルスさんに続いて――もっと丁重に扱え、とエドガーの文句が聞こえていた――わたし達も堀を渡る。
そして高い石造りの壁の向こう、魔王城の一角に、遂にわたし達は降り立ったのだった――。
城は、静寂に包まれていた。
エドガーの予想が当たって、魔王軍の主力は正面に集中してるということなのだろうか、裏門から続く並木道を歩く――勿論、それでも警戒は怠らない。
やがて林を抜けて庭園に出る。菜園の区画を通り過ぎ、アーチやオベリスクに仕立てられたつるバラにクレマチスが絡み。
いくつもの庭を抜けて――段々と、素朴なナチュラルガーデンから重厚なイングリッシュガーデンへと変化していき、バラの生け垣で造られた迷路を彷徨う。
――ちなみにここまでの間、魔族の一人、魔物の一匹すら見掛けなかった。
建物が少しずつ大きく、目の前に迫って来る。白亜の、と言うには少し灰色がかった象牙色の城。おどろおどろしいというよりは寧ろ、某夢の国のシン○レラ城とかそんな感じで……。
「なぁ……ここって、本当に魔族の――魔王のいる城なのか?」
「ええ……この庭園も、とてもその様な雰囲気には……」
皆からも、戸惑いの声が上がる。
「ああ。――だが、この城の佇まいこそが逆に、賢者ソーマ・ユートの書き遺したことが、チズルの推測が正しかったという証明ではないのか?」
そうエドガーに言われてはっとする。
「そっ…か……。このお城を築いた魔族達は――」
もしかしたら、わたし達人間と何ら変わらない、平和を愛する普通の魔族達だったのかもしれない。
そんな魔族達の為にも、魔王との和平は成功させなきゃいけないんだ――。
……因みに、アルスさんはずっと油断のない眼差しで先頭に立って道を探ってくれていた。
敵地でのんびり会話したりしてて、その、申し訳ないデス……。
何とか余り迷うことなく迷路を攻略し、あずま屋や石畳、芝生の広場などのある庭の向こう。漸く建物本体に辿り着く。
その回廊から、城の中心部を目指して探索を――始めた訳だけど。
城の構造なんてそれなりに似通ったもの(エドガー達曰く)だから、あとついでに魔王軍の妨害とか待ち伏せも一切無しで、至極あっさりと大広間とか玉座の間に続いているんだろうな~っていう感じの、赤い絨毯が敷かれた大階段(って言えばいいのかな?)が見つかった。
わたし達は、困惑頻りで顔を見合せる。
「これは、一体どういうことなのでしょう……」
「ここまで、監視の気配も感じられないというのは、流石に想定外だ……」
「玉座の間で待ち構えてるって、そういうことでいい、んだよね……?」
「まあ、そうとしか考えられないよなあ……」
光に溢れ、爽やかささえ感じられる城内部。調度品や掛かっている絵も、華美ではないけど品があって凄く高価そうな感じの。
――ええっと、ここって、ほんとに魔王城……なんだよね?
魔王軍四天王とかが待ち受けていて、困難な戦いを乗り越えて魔王の元に辿り着いて、「魔王、覚悟しろ!」とか「余に忠誠を誓うなら世界を半分やろう」「断る!」みたいなやり取りがあるやつ、なんだよね……?
「こんなところで考えていてもしょうがない。とにかく先に進むしかないだろう?」
とアルスさんに促されて、わたし達は気持ちを切り替える。
うん、そうなんだ。兎に角行ってみないと何が待ち受けているかもわからないんだ……。
そして。
「っ!?」
階段を上りきって控え室らしき扉の並ぶホールに立ったわたし達の目の前で、正面にある扉が音もなく左右に開かれて――。
幸い?玉座の間には魔物が犇めいている――などということはなかった。わたし達はひとつ頷き合って、一気に突入する。まずは魔王の元まで辿り着かないことには……!
「ようこそおいでくださいました、勇者さま並びにエスター王国の方々」
だから。
「……え?」
玉座の間の奥に居並ぶ人々の中にその姿を見つけて。
「我が国ベルーカは、みなさまを歓迎いたします」
その鈴の鳴るような声を聞いて。
わたしは呆然と立ち尽くさずにはいられなかった――。
「サキ……ちゃん…………?」
「ターゲット、城内に入りました!」
「そろそろ庭園区画を抜けます!」
「玉座の間スタンバイお願いします、三、二、一……扉開けます!」
みたいなやり取りがあったんだろうなと思う。