たのしいくっきんぐ
最近理解したのですが、無知……とは違うしお馬鹿……ええと、浅はかな主人公とでもいえばいいのでしょうかね。
無自覚鈍感系のバリエーションではありますが、事情に明るくなかったり、戦う能力や問題解決能力もないのに、周りの忠告を聞き流したり無視したり、自分なら大丈夫だしとたかをくくって事件に巻き込まれる系の主人公がちょっと苦手。
特に、一度ならずそれを繰り返すことでストーリーが進んでいくタイプの作品。
「――後に、あのとき彼の忠告をもっと真剣に聞いていたらと、わたしは後悔することになる。(モノローグ)」
いやいや。ほんと、ちゃんと聞いてあげようよ。あと、君がほうれんそうを徹底するだけで、問題の八割は解決するよね!
え、そうしたら作品が成り立たないって?そんな、主人公をひたすらお馬鹿にすることでしかストーリーを進められないようなプロットなんて、最初から作らな……失礼しました。
連れてこられたのは深い森の中だった。少し離れたところに切り立った崖、そこにぽっかりと洞窟が口を開けている。
「さあ着いたよ、気分は悪くない? 酔ったりしてないね」
「あ、はい、大丈夫です……」
きょろきょろと辺りを見渡す。鬱蒼と――というより、育ちすぎと言っていいくらいの大木たち、目に見えるのではないかと思えるほどに空気中に渦巻いている魔力。
「ここが、魔の森――」
魔の森がそのように呼ばれるようになった――危険な魔物が跋扈し、最深層ではその頂点とも言うべきドラゴンたちが縄張り争いをする場所となった――理由は、地面の奥深くを網目のように走り世界を形作っている魔力の集合地点がこの森の中――ちょうどドラゴンたちの棲息している辺りにあるからだと考えられている。
そこから漏れ出す高濃度の魔力が、木々を過剰に成長させ強力な魔物を生み出し――魔の森以外の地域の同種の魔物よりも一段も二段も凶悪にするのだ(マティアスおじいちゃまのたのしいまのもりこうざin交流会――より)。
「さあ、行こうか」
シドニー氏は、サキを抱いたまま洞窟に入っていく。
「おーいトゥッカヴァルト、トゥッカー、遊びにきーたーよー」
そんな気の抜けたかけ声と共に進む洞窟は、壁面や天井に露出した緑がかった魔石が淡く光って、薄暗くはあるが足元が見えないということはない。
やがて広い空間に出ると、シドニー氏は「ちょっとまぶしいよ」と言って魔法で作った明かりを宙に浮かべ、サキは急な明るさの変化に一瞬目が眩む。
「やれやれ、騒々しい……先日の件なら、こちらから仕掛けることはないし、もし向こうからやってきたとしても適当にあしらうゆえ、心配せずともよい」
魔石の結晶が至るところから柱のように伸び、光を浴びてきらめくその空間の中央あたりに鎮座している深い緑色の小山がのそりと動いて、金色の目でサキたちを見た。
猫や蛇を思わせる縦長の瞳孔、輝く鱗に覆われた流線形のからだに鋭い爪のついた前足、長く伸びた尾がくるりとからだに巻き付いて――これ以上ないほどにドラゴンである。
「やあ、トゥッカ。今日はその件じゃなくて、ちょっと相談というかお願いごとがあってね」
「それは、お前が連れているニンゲンに関係があることなのか?」
小山――トゥッカヴァルト氏が改めてサキに目を向けたので、シドニー氏に地面に下ろしてもらって、おっかなびっくり、サキはお辞儀した。
「はじめまして、トゥッカヴァルトさま。サキといいます」
「ふむ、二十そこそこの童にしては、なかなか肝が据わっているではないか」
ふしゅるると鼻から煙があがる。声の調子――ドラゴンの声を聞くのは今日がはじめてなのだが――からすると、どうやらそれなりにご機嫌は麗しいようだ。
ちなみにトゥッカヴァルト氏の声は、低い男の人といった感じの声である。
「トゥッカ? 二十って、姫さんはまだ……」
「わたし、今は十一歳なんです」
「ほう、そうかね。ではそういうことにしておこう」
首をかしげるシドニー氏をよそに、トゥッカヴァルト氏との認識の擦り合わせが滞りなく終了する。
ぱっと見ただけで外見ではなく中身の年齢を当てられるとは、さすがはドラゴンである。きっと、ドラゴンのすごい魔法だか目だかで魂の状態を云々したのではないだろうか――たぶん。
「姫さんはね、陛下……アルスのお嫁さんなんだよ」
まあいっか、と細かいことを気にするのをやめたらしいシドニー氏がそう説明したとたん、轟音が洞窟内に響きわたり、ぱらぱらと砂や小石が落ちてくる。
「なんと……なんとなんと! とうとうあやつも年貢を納めたと! 通りでその厳重な守りよう、おまけに我の鱗まで持たせるときた」
その金色の目が愉快げに細められるのを見て、あの大きな音は彼の笑い声だったのだと気づいた。
「それで、相談とはなんなのだ?」
「うん、それなんだけど――さ、姫さん」
ぽんと背中を押されて、サキは両耳を押さえていた手を下ろして口を開いた。
「アルスからもらったトゥッカヴァルトさ――」
「トゥッカでよい。親しい者はみなそう呼んでいる」
「トゥッカさま――」
「”さま“も必要ない」
「……トゥッカさんの鱗の指輪のお返しに、何か贈り物をしたくて」
「殊勝な心がけだな、それで?」
「ええ、それで――トゥッカさん、わたしと勝負してください」
サキから勝負を申し込まれるとは思ってもいなかったのか、トゥッカヴァルト氏は目をまんまるに見開き、
「あ、とは言ってもわたし、戦うのはできないので他の方法でお願いしたいのですけど――わたしが勝ったらトゥッカさんの鱗をいただけませんか? 正式な勝負でいただけるような立派なのでなくて、自然に落ちたとか生え変わった鱗なんかで十分なので、えっと、その――」
さっきよりも凄まじい笑い声に襲われた。
声と共に吐き出された息に吹き飛ばされそうになったところをシドニー氏が支えてくれる。
「おもしろい! 気に入ったぞ娘。その辺に転がっている鱗などいくらでも持って行けばよい」
そう簡単にはうなずいてもらえないだろうと思っていたところに、思いの外あっさり鱗をもらえると言われて、サキは目をぱちくりさせた。隣のシドニー氏からも、驚いているような気配がする――あとで教えてもらったところによると、トゥッカヴァルト氏がこんなに上機嫌なのも、大盤振る舞いをするのも、とても珍しいことなのだそうだ。
「だが、その勝負とやらはぜひとも受けてみたいものだな。いったいどんな内容で勝負するのだ」
と、シドニー氏の言うところの暇人であるトゥッカヴァルト氏が興味津々に尋ねるので、サキは大真面目に答えた。
「ではお料理で」
「りょう、り……?」
「はい」
きょとんとした顔で聞き返すトゥッカヴァルト氏――ちょっとかわいいと思ってしまった――に、こっくりうなずく。
「お料理で勝負をしましょう」
涙を浮かべて大笑いしているシドニー氏を横に、サキはタマネギをふたつ取り出し皮をむいた。
「これを」
宙に浮かべてすぱすぱっと風の魔法で上下を切り落とし、片方をトゥッカヴァルト氏に差し出す。
「魔法を使って、上手にみじん切りにできた方が勝ちです」
なぜって、自分の一番得意な魔法はといえば、タマネギのみじん切りとお洗濯なので。
お城に戻るとナタン、タニア、ジェラード氏の三人が待ち構えていて、シドニー氏は問答無用でどこかへ連れて行かれてしまった――シドニー氏の顔が余裕そうだった普段とは違い盛大に引きつっていた。彼がタニアのいるときに姿を見せないのは、なんとなくそんな気はしていたがタニアのことが苦手だからなのだろうか。
一方サキは、メイシーをはじめとする侍女さんたちに無事でよかったと言われながら、あれよあれよとお風呂に放り込まれ、土埃を被った服も着替させられて、交流会の子たちが集まっている温室へと向かった。今日は、きっとシドニー氏はあらわれないだろう……。
勝負の景品としてトゥッカヴァルト氏からもらった最高級の鱗は、当初の予定通りアルスへの贈り物に使うとして、ついでだからと持って帰った大量の鱗(生え変わり品)は、工房の職人さんたちにお裾分けしてもいいかもしれない。
さてこの鱗で何を作ろうか、夜ナタンとメイシーに相談するかそれとも明日エリーヌお母さんに聞くか――。
お仕事が忙しいオリヴィエお父さんのところに行く口実にするのはどうだろう、などとサキは考えたりするのだった。
「わたしが作ったお料理が気に入ったら鱗をください!」
「ふははは、この我が並大抵の料理で満足すると思うなよ!」
↓
「な、なんだこの料理は!?奇妙な色合いをしているが様々なスパイスが複雑に組合わさった香りが食欲をそそるぞっ!これは麦の粒……ではないな、ふっくら炊かれた穀物は噛めば噛むほど甘味が増して、さらにこのソースと絡み合うことで絶妙な味わいを……うっ、この辛さがやみつきに……うーまーいーぞー!」
「Japanese food is No.1.」
とはならないのが、お弁当くおりてぃ。
えのきのつくだ煮
なめたけとかって売ってるあれ。おいしいけどすぐなくなる。一人でひと瓶独占したい。なら作ればいいじゃない。
材料:
・えのき 1パック
・しょうゆ 大さじ1~2くらい
・みりん しょうゆと同量
作り方:
・1~2センチくらいに切って房を分けたえのきを調味料と一緒に鍋に入れて火にかける。
・えのきから水分が出てきたら、焦げ付かないように煮詰める。
メモ:
・お好みで酒、砂糖を加えたりする。味は適宜調整。
・顆粒の出汁や他の料理用の出汁を少し取り分ける、めんつゆ白だしなどを少々加えるとよりよいでしょう。
・出汁を作るのが面倒なときは、きざんだ豚のこま切れ、鶏肉などを一緒に入れるとごまかせる&ちょっと豪華。
・テフロン加工のフライパンや鍋を使うと焦げ付きにくくて楽。
・TKGのお供にもgood。
・卵とまぜて卵焼き、卵とじにしてもおいしい。