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苦手な方はご注意ください。

婚約破棄の現場でアクシデント

婚約破棄の現場で~モブからの疑問~

作者: Ash

「デジレ公爵令嬢、そなたは多人数で取り囲んで嫌味を言う、偶然を装ってドレスに飲み物をかける、手の者をけしかける、フラナガン伯爵令嬢ティーナに対して行った数々の嫌がらせ、身に覚えがあるであろう?」


今、流行の婚約破棄が行われている現場です。

天才少年魔術師の婚約破棄から始まったこの流行、ついには王族、それも王太子様にまで至りました。

流行れば流行るものなんですね。

そして、今回も婚約者を引き裂くのは伯爵家の血を引くという庶民の少女。

ここまでの流れでわかるように、社交界に突如現れた伯爵家の令嬢にのぼせ上がった青少年(それも実力者たち)が次から次へと婚約破棄をしているんです。

とうとう、王族ですよ。

すごいですよ、庶民!

で、何故こんなに私が盛り上がっているかというと、彼女のおかげで私の婚約が壊れたからです。

ありがとうございます!

これであの陰険男と縁が切れたかと思うと彼女を崇めたくなるくらいです。

ですが現実的に考えると、彼女のせいで私は嫁き遅れになるわけですよ。婚約破棄された令嬢たちは夫の条件を落としてでも、結婚市場に殴り込みをかけなければいけないのが現状です。

まあ、それを除けば、私にとっては良いことだったんですが。

最悪、売れ残ってしまったら、私には剣の技術もありますし、本格的に冒険者をやっていこうと思います。


それにしても、あんなに崇拝者たちを引き連れて、王太子様の腕にしがみついて婚約破棄させている彼女ですが、本命は一体どなたなんでしょうか?

勿論、王太子様?

それとも宰相の能天気なご令息?

剣術馬鹿?

陰険男?

爽やか脳筋男?


さて、王太子殿下が婚約破棄を言い渡す前に私の貴族として最後の務めを果たすとしますか。


「王太子殿下、お待ち下さい。――まずはお言葉を遮るご無礼をお許し下さい」


私に話を遮られた王太子様は眉を顰めます。


「そなたは?」


私の顔と名前をご存じなのに、あとで言い逃れできないようにしっかりと自己紹介を促されました。


「サンダース伯爵令嬢サーシャと申します」


「サンダース伯爵令嬢サーシャ。エリックと婚約していた娘だな。このようなことをしてどうなるのかわかっていて申しておるのか?」


言質を取られました。

そうでないと、この国の行く末が心配です。


「勿論でございます。その上で発言させて頂きとうございます」


「ふむ。その覚悟があるなら、申せ」


「ありがとうございます。王太子殿下。――フラナガン伯爵令嬢ティーナ様」


「は、はい?」


自分に話が振られるとは予想だにもしていなかったのか、フラナガン伯爵令嬢は目を白黒させています。


「王太子殿下が婚約破棄をなさる前にお訊きしたかったのですが、貴女の本命はどなたなのでしょうか?」


口をはさむことを控えていた聴衆がどよめきました。

ですが、王太子様も、能天気なご令息も、剣術馬鹿も、陰険男も、爽やか脳筋男も平然としています。


「本命? 本命ですか? ――実は婚約者がもういるんですよ~」


「はあ?!」


えへへ~と、フラナガン伯爵令嬢は照れたように笑いますが、貴女は婚約者がいるのに色々な人物に婚約破棄させていたんですか?

驚きのあまり、私は口が塞がらなくなりました。

驚きの声も私のものだけではない筈です。


何故か王太子様も、能天気なご令息も、剣術馬鹿も、陰険男も、爽やか脳筋男も笑顔です。

どういうことですか?


「そう言えば、平民の自称婚約者がいたね。いつまでたっても、発言を翻さなかったのを覚えているよ」


と、陰険男が言いました。

過去形。

過去形で言いましたよ、この男。

婚約破棄してくれて正解でした。


「え?!」


呆然となるフラナガン伯爵令嬢。


「そうだったのか?」


王太子様は陰険男に尋ねます。


「あの、ユージーンとか言う商人だよ、殿下」


「ユージーン? ああ。あの最近、頭角を表してきたと言う商人が自称婚約者か。言われてみれば、そういうのもいたな」


思い出して、頷く王太子様に能天気なご令息がニコニコとした表情で言いました。


「そのような些末な事、殿下がお気になさる必要もございません」


たかが、平民一人のこととはいえ、ひどい言い草です。

この人は天然だと思っていましたが、腹黒だったんでしょうか?

私の彼を見る目は変わりました。

私は貴族を辞める気でいますが、それとこれは別です。

平民のことをここまで軽んじる人物が腹黒かと思うと、この国にいるのが不安になってきます。

フラナガン伯爵令嬢は王太子様の腕を放し、陰険男につかみかかります。


「エリック?! ユージーンのことをどうしたの?!」


「あれ? あの平民、ティーナと本当に婚約していたの?」


陰険男が無邪気さを装って言いました。

この男は相手を甚振る時にわざとこういうことをするんです。

だから、私は天才少年魔術師を陰険男と呼ぶんです。


「・・・」


愕然となるフラナガン伯爵令嬢を彼女の崇拝者たちを除く私たちは冷めた目で見ています。

王侯貴族の令息を誑かさなければ、彼女の本命は今も本命の座にいられたかもしれません。

しかし、死んでしまっては本命の座にいつまでもいることはできません。

無理矢理にでもその座を奪い取ろうとしている人物たちがいるんですから、仕方がないですよね。

そして、それを許したのはフラナガン伯爵令嬢本人です。

誰にも婚約破棄させなければ、元々の婚約者である令嬢たちに彼らを押し付けることができたのに。

それをしなかったのはフラナガン伯爵令嬢本人です。

自業自得としか言えません。

フラナガン伯爵令嬢は笑顔の崇拝者たちからこちらに目を泳がせて、私のやや後ろでその視線を止めました。


「サーシャ?!」

「?!」


フラナガン伯爵令嬢は必死に私の名前を呼びますが、私には何のことやらさっぱりです。

そのまま、私のほうに駆けてきました。


「サーシャ!! サーシャ!! サーシャ!! 助けて!!」


確かに陰険男との婚約から逃がしてもらいましたが、話したこともないのに、何故、私に助けを求めるんでしょうか?

疑問と助けるべきか、恩返しすべきか、思考がグルグルします。


「私は嫌だったのに、この人たちに逆らえなくて・・・っ!!」


フラナガン伯爵令嬢は私ではなく、私の後ろに控えていた私の従者の服にしがみつきました。


はあ?!

どういうことですか?!

本当にどうなっているんですか?!

私の従者と親しい素振りもそうですが、今更、崇拝者たちが身分をかさに着て、言いなりにさせていたと言われても、もう、五人目の婚約破棄ですからね?

王太子様は未遂でも、四人の令嬢から婚約者を奪っておいてそれはないと思います。


「・・・」


私の従者はずっと無言です。

私の従者を務めているのは、冒険者ギルドで一緒にパーティを組んでいるアレクサンドルです。

私が令嬢生活をおくっている為にパーティを組んでいる冒険者たちに迷惑がかかってはいけないからと、冒険に出ていない時は彼らを我が家の使用人として雇っているんです。落ち着いた生活が送れるからと夫婦になった人たちもいますから、パーティの仲間に迷惑ばかりかけているわけでは・・・ないはずです。


「サーシャ?! どうして、冒険者を辞めて、貴族に仕えているの?! 私よ、神殿の孤児院にいたティーナよ。ほら、知っているでしょう? 神殿でよく会ったじゃない」


泣きそうなのを無理矢理笑ったような顔でフラナガン伯爵令嬢はアレクサンドルに言います。

神殿は冒険者たちが治療を受けによく出入りする場所です。ただの怪我から毒、呪いに至るまで、色々な状態異常をすぐに直してくれるところです。

お金は普通に治すよりかかりますが、身体が資本な冒険者たちにとって神殿を利用するかしないかは別の意味で死活問題なんです。

ですから、神殿の孤児院にいたと言っているフラナガン伯爵令嬢と顔見知りであってもおかしくはないんです。


「アレク、どういうことなの?」


「お嬢様。このご令嬢は人違いをなさっておられるのでしょう」


アレクサンドルは感情のない目で私にそう言いました。

どうやら、関わりたくないようです。

私はアレクサンドルの意志を尊重することにしました。

大事な冒険者仲間と婚約者を奪っていった令嬢のどちらの味方をするかと言えば・・・今後のことがなくても、命を助け合った冒険者仲間を選ぶのは考えるまでもない話です。

フラナガン伯爵令嬢は絶望に染まった顔をしました。


「そう」


ごめんなさい。

陰険男から助けてくれた恩人かもしれませんが、私には仲間のほうが大事です。


「ティーナ」


爽やかな笑顔がトレードマークの人気者――フラナガン伯爵令嬢の崇拝者たちの一人が、彼女をアレクサンドルから引き離します。

彼女がこれからどうなるのか、それは崇拝者たち次第です。彼らならフラナガン伯爵令嬢の言動に惑わされず、うまくこの国を導いていくことができるでしょう。

安心したところで、私も引き際をうまくしなくては。


「さて、サンダース伯爵令嬢。疑問は解消したか?」


王太子様は後顧の憂いを断てたことにご満足のようです。

フラナガン伯爵令嬢はもう、彼らから逃げる方法はありません。

本命が誰であろうが、彼らは逃す気はないのですから。


「はい。王太子殿下とこの国のことを思ったとはいえ、殿下のお言葉を遮りましたことをお詫びして貴族籍を返上する所存でございます。それ故、実家にまではお咎めを及ぼさないで頂きとうございます」

「あい、わかった。サンダース伯爵令嬢。その旨の書類を後日、提出するように。――エリック。彼女と婚約し直したらどうだ?」

「「嫌です」」


私と陰険男の声が重なりました。


「惜しいことだ」


王太子様はフラナガン伯爵令嬢の崇拝者たちを平和裏に減らそうとして失敗しました。

失敗してくれて良かったです。

陰険男なんかご免こうむります。

こうして、私は何の後悔もなく、冒険者としてこの国の外に出たのでした。


フラナガン伯爵令嬢がどうなったか、気になりますか?

陰険男が見事、勝利を手にしたそうです。

王太子様は別の方と結婚されました。どうやら、他国との同盟が持ちかけられていて、そこの王女様とだそうです。

他の方々も、元の婚約者よりも家の利益に繋がりそうな相手が出てくるまで機を待ったそうです。

彼らがフラナガン伯爵令嬢を諦めたかどうかなんて、私には関係ない話です。フラナガン伯爵令嬢があの国の有力者になったと言う話も聞きませんし、あの国も安定しているそうですし。

サーシャ:アレク。サーシャって、アレクサンドルの愛称の一つじゃなかった?

アレクサンドル:・・・忘れてくれ。

サーシャ:まあ、いいけど。あ~、なんでみんな、一緒に来てくれなかったんだろう? 引退する頃合いだとか言い始めて、アレクしかいないから、またパーティメンバーを集めいないといけないわ。

アレクサンドル:それはお前が活動場所を別の国にしようとするからだろう?

サーシャ:だって、あのまま残っていて、またあの陰険男と婚約し直さないか、なんか言われたくないもの。

アレクサンドル:こっちとしては好都合だったがな。

サーシャ:何か言った?

アレクサンドル:いや、何も。



※アレクサンドルは乙女ゲームの隠しキャラです。その上、ベストエンドにならないとただの冒険者としか描かれませんが、別の国の放浪王子です。


この話では陰険男エリックがティーナの傍にいたアレクサンドルを冒険者仲間としてサーシャに押し付けて排除した結果、サーシャの仲間兼従者になっています。

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[一言] 殺されたロージーンさん、いい迷惑。 女性を見る目が無かった故の不幸とも。
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