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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
9/58

7.

「なにさ、私何か変なこと言った?」

「別に。いいんじゃないの。中世には『驚異の部屋ヴンダーカンマー』とか言う古今東西の珍品を集めた蒐集部屋とかも流行ったみたいだし」

「あ、いいなそれ。そういうの作ろうかな、キラだけを集めた蒐集部屋」

「相当時間と手間がかかりそうね……ま、いいけど」

 めぐるは小さくため息を吐くと、スケッチブックを閉じた。

 累は目を輝かせ、椅子から腰を浮かせた。

「あ、今日はもうおしまい?」

「そうね。お腹もすいたから。――ねぇ、次は縛らせてよ。もう少し過激なの描きたい」

「ありえないね」

 縄を引くような仕草をするめぐるに顔をしかめつつ、累は部屋を横切った。

 アトリエの隅には小さな机が置かれ、そこに累の服が畳んでおいてある。累は薄いベビードールをすぐさま脱ぎ捨て、着慣れた服に着替えた。

 シャツのボタンを留めていると、画材を片付けていためぐるが声を上げた。

「あぁ、そういえば――」

「なに? 縛るのはやめて欲しいんだけど」

「それはまた今度ね。――昨日の夜、茉莉花まつりかから面白そうな話を聞いたんだ」

「茉莉花さんから……?」

 茉莉花とはめぐるの友人だ。昔は探検家めいた事をやっていたらしいが今はこの街に腰を落ち着け、小さなバーを切り盛りしている。

「また何かキラに関する情報が入ったの?」

 茉莉花のバーには様々な情報が集まる事を聞いていた累は、めぐるを振り返った。

 めぐるは本棚の前に立ち、一冊の本を開いていた。

「そう。特別に教えてあげる。赤匣屋敷の話だ」

「アカバコ……?」

「赤匣屋敷。赤い匣の屋敷と書く。幕末から明治初期の芸術家、現世夜真うつしよよるざねの邸宅だよ。茉莉花の話だと、それがうちの近くにあるらしい」

「……聞いた事のない画家だね」

「まぁ、絵がほとんど残っていないからねぇ」

 めぐるは累の前に歩みより、先ほどまで読んでいた本を無造作に差し出した。

 大きさも厚みも、ちょうど累が高校で使っている教科書とほぼ同じくらい。表紙は黒一色で題字などはなく、一見すると何の本なのかさっぱりわからない。

 累は眉をひそめつつ、本を受け取った。

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