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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
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6.

 めぐるは鉛筆を止め、小さく鼻で笑った。

「彫刻のほとんどは剥落してたし、ひびが入ってたから……市場じゃ、二束三文にしかならないね。お生憎様」

 その言葉がとどめとなった。

 累はがっくりと肩を落とし、力なく椅子に座り込んだ。

「……つまり、なんにも特別じゃなかったってこと?」

「そういうこと。――あ、顔の角度そのままにして。良い感じに影がかかってきれい。あと目にかかってる髪の毛はそのまま」

「はいはい……はぁ、もう、最悪だ」

 前髪をどけようと持ち上げた手を下ろし、累はため息を吐いた。

 宝箱の中に納めた牙の事を思い出すと、いっそう気が重くなる。瞳子のせいで、あの牙がただのガラクタにしか見えなくなってしまった。

「……次はもっとすごいキラが欲しいな」

「累、そういえば貴女って特定の種類のキラにこだわってるわけじゃないのね」

 頭を抱えそうになるのをなんとかこらえる累に、再び瞳子がたずねた。

「特定の種類?」

「私が人形というか、人型の物を蒐集してるのは知ってるでしょ」

「……ああ、うん。知ってる」

 累はわずかに眉を寄せ、めぐるの人形部屋を思い出す。

 めぐるの人形は全てがキラ。硝子の瞳におぼろげな意思のようなモノを宿した人形達が鎮座する薄暗い部屋が、累はあまり好きではなかった。

「そんな感じでさ、貴女もなにか特定の種類のキラにこだわったりはしてないのかなって」

「んー、特にこだわりは……ああいや、強いて言うなら特別なものかな」

「特別な物?」

 ざらざらと響いていた鉛筆の音が止まった。

 スケッチブックから顔を上げるめぐるに対し、累は人差し指を立ててみせる。

「そう。この世で私しか持ってないような――そんな特別なキラが欲しい」

「……まぁた難しいことを」

 めぐるはやれやれといった様子でため息を吐く。

 しかし累は構わず、拳をぐっと握りしめて語調を強めた。

「なんとでも言いなよ。ともかく私だけの特別な何かが欲しい。そういう特別な物だけを集めて、こう……幸せに過ごしていたいんだ」

「ふーん……」

 めぐるは興味なさそうに鼻を鳴らし、またスケッチを始めた。

 そんな彼女に対し、累はわずかに眉を吊り上げる。


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