5.
「何度も聞いてる。――ねぇ、服を着ちゃだめ? 寒いんだけど」
累は鼻を鳴らし、軽くベビードールの裾をつまんでみせた。
束ね髪の女は首を振った。
「ダメ。もう少しでデッサンが終わるから。――そんな怪我して、まったくこの子は……」
「心配してくれてるの?」
「心配してるよ。モデルが傷ついたら困るじゃない」
「ああ、そう」
ベビードールの刺繍を軽く弄りつつ、累は唇をへの字にする。
「累、何故貴女を弟子にしたかわかる?」
「顔がいいから」
累が即答すると、めぐるはスケッチブックから顔もあげずにうなずいた。
「そう。あの施設で一番の美少女で、絵のモデルとして最適だったから貴女を引き取った。だからあまり派手に怪我をされちゃ困る」
「人格最悪だよね、めぐる先生」
「知ってる」
表情も変えず、束ね髪の女は肩をすくめた。
女の名前は暮井めぐる。一応、累の保護者ということになっている。
「でも蒐集師なんて人格歪んでなきゃできないよ。なにせキラなんて滅茶苦茶なモノを追いかける蒐集家。皆どこかしらおかしいよ」
「私はおかしくない」
「大丈夫、どうせすぐにおかしくなるから。あるいは気づいてないだけでもう――」
「やめてよ」
累は唇を歪め、椅子をぎしぎしと傾ける。
めぐるは鉛筆を止め、冷え切ったまなざしを累に向けた。
「それでどうしたの、今回のキラは」
「ん、牙の事? もちろん私の宝箱の中に入れておいたけど。だって記念すべき私の蒐集品第一号だし。初めてにしてはなかなか良い物手に入れたでしょ?」
「うーん、まぁまぁだね。私の持ってるヤツに比べたら」
「持ってる……?」
ぴたりと累は動きを止めた。
どこもかしこも薄く細い累の体を描きつつ、めぐるはうなずいた。
「うん。私も似たようなの二十本ほど持ってる」
「そ、そんなバカな! そんなたくさんあるはずない!」
「ある。あの牙飾り、昔流行ったことがあったからね。わりとよく見かけるわ、あれ」
「そんな……」
「それに貴女の持ってきたの、あまり状態が良くなかった。大方、最後の封印処理が良くなかったんだろうね」
「うっ……」
累は思わずうめく。
綺羅縛匣はキラの怪異を封じ、蒐集するためにかける最後の術だ。ある程度キラの力を弱らせてから行使する物だが、累はこの術がいまいち苦手だった。