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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
6/58

4.

「これは……っ」

 砂煙の向こうで、ゆらりと長細い影が揺れる。

 ぬらぬらと光る黒い鱗に覆われた、手足のないしなやかな胴体。顔には鱗がなく、人間の顔を歪めたような醜い頭部をしている。

 口は二つ。上下に存在するそれががばりと開き、乱杭状に生えた牙が露わになった。

「……喰虫くいむし。キラのにおいに引かれてきたのか」

 むせ返るような腐臭に、累は鼻と口を覆う。

 シューシューと威嚇音を漏らしつつ、喰虫はとぐろを解いた。

 その全長は累を軽く見下ろすほどあった。二重の口からは絶えずだらだらとよだれが零れ、地面に落ちてジュウジュウと煙を立てた。

 しかし累は怯まず、狼の牙を納めたウエストバッグを守るように手で庇った。

「……だけどお生憎様。例えお前に手足を喰われたとしても、このキラは譲らない!」

 累が叫んだ途端、喰虫の頭が激しく揺れた。

 上下の顎をいっぱいに開き、腐臭とともに喰虫の顔面が迫ってくる。

 累は迷わず、地を蹴った。


 格子越しに、淡い陽光が部屋に差し込んでいる。

 そこは町屋の一角を改造して作った、ひどく散らかったアトリエだった。無数の絵画集が机に雑然と並べられ、棚には無数の画材が納められている。

「――それで、その怪我」

 アトリエの中央で、女は鉛筆を走らせつつため息を吐いた。

 年齢は二十代半ばほど。ゆるくウェーブのかかった栗色の髪を肩まで伸ばし、一つに束ねている。メリハリの付いた魅力的な体躯をしているが、服装は白いシャツにジーンズと質素そのものだった。

「……うるさいな。放っておいてよ」

 束ね髪の女の正面で、椅子に座る累はそっぽを向いた。薄いレースのベビードールしかまとっていないため、その瑞々しい肌が露わになっている。

 薄い肩のひどい打撲も、細い太股に巻いた包帯も、全てが陽光に晒されていた。

 束ね髪の女は深くため息を吐く。

「……喰虫は死骸の成れの果て。朽ちた死骸が執念から、キラと化したもの。その体は汚染されてるからちょっとの傷でも命取りになるって、いったよね?」


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