20.
「ねぇ、貴女たち。私ね、貴女たちに聞きたいことがあったの」
「な、なにさ」
目の前に広がるウォーターリリーの破片をちらちらと見つつ、累は身構える。
ゆらりとエレノアが立ち上がった。
「オカザキリサ」
「っ……」
その名前に累は眉を寄せる。
エレノアはつかつかと累の元に歩み寄りながら、畳みかけるようにして問いかけた。
「ねぇ、貴女たちとどういう関係? 仲間なの? 敵なの?」
「敵! 敵だよ! 仲間なんかじゃない!」
「わたしの友達でもないわね。そもそも顔さえ合わせていないもの」
激しく首を振る累を庇うように立ち、市子は淡々と答えた。
かつんと高く足音を立て、エレノアが立ち止まる。
「ふふ、うふふ……良かった、それは実に良かったわ。関係ないなら良いの……見逃してあげる、可愛い子達」
「見逃すって……」
「うふふ、私ね、本当は私の姿を見たものにも容赦しないの。ふふ、うふ……だけど……」
エレノアの笑い声がぴたりと止まった。
その瞬間、累にはエレノアの表情が変わったように見えた。笑みを浮かべた口元も、細められた緑の瞳もなんら変わっていない。
「――十六歳なんだものねぇ。私の妹も生きてたら同じ歳だった」
どこか懐かしむような呟き。
累達が何かを言うよりも早く、エレノアはついっと視線をそらした。
「だから見逃してあげるわ。好きなところで好きにすれば良い。――お行きなさい」
「あ、あなたは、これからどうするの?」
面食らいながら累はたずねる。
すると、それまで髪をいじっていたエレノアの動きがぴたりと止まった。
「それは決まっているわ……さっき、一人あの女の仲間を捕まえたからね。うふ、これからお話ししなくちゃいけないの」
「空太を捕まえたって事だよね。どこにいるの?」
可能ならば梨沙の居場所を聞き出し、文句の一つでもつけてやりたい。
勢い込んでたずねる累に対し、エレノアは肩を震わせて笑う。
「知りたい? ふふ、知りたいわよね! あの男ならリリーの力で――」
「エレノア」
今までよりもやや鋭い声音で、ウォーターリリーがエレノアの名を呼ぶ。
エレノアは口を噤み、どこか面白そうに彼女を見下ろした。
「……あら、嫌そうね? どうして? 貴女の力じゃない」
「……それは、わたくしに与えられた本来の用途ではないので」
「ふぅん、頭の固いこと」
エレノアは鼻を鳴らすと、くるりときびすを返した。
そしてまた、くるりとその場で一回りする。
「えっ、ちょっと……?」
「うふ、うふふ、ふふふふ、っふふふふ……楽しみだわ……!」
戸惑う累の耳に、引きつったようなエレノアの笑い声が届いた。
道士服の裾をひるがえし、靴音をリズミカルに鳴らしながら、エレノアはまるでバレリーナの人形のようにくるくると回った。
「体温が上がってきたわ……どんな風に話そう……私、お話大好きなの……!」
「――二人とも、早くお行きなさい」
「ウォーターリリー……」
累はエレノアから視線をそらし、ウォーターリリーの頭がある方向を見る。
相変わらず、こちらからは彼女の表情は見えない。だが押し殺したウォーターリリーの声には、色濃い疲れの色が感じ取れた。
「エレノアは今、貴女たちの事を意識していない……彼女の気が変わる前に、早く」




