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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅲ.火宅の剣
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15.

「なんて声……!」

「くっ、う――!」

 耳を塞ぐ市子をよそに、累はぐっと掌を前に押し出す。すると防壁の上にさらに無数の波紋が散り、ひびを修復していく。

 爆音により壁は震え、さらに悲鳴のような音を立てる。

 新たに無数のひびが走った。しかしどれも微細なモノで、壁そのものが壊れる気配はない。

「いける、耐えられる……!」

 ひびを片端から修復しながら累は何度もうなずいた。

 次いで咆哮の第二波が放たれる。

 咆哮が暴風を巻き起こし、床板がメリメリと音を立てて剥がれた。なにもかも根刮ぎ吹き飛ばしそうな衝撃波を、累の防壁は細かな亀裂だけで凌ぎきる。

「るい、ひびが……!」

「大丈夫!」

 どこか不安げに瞳を揺らす市子の手を、累はぎゅっと握る。

 最初は彼女のひんやりとした肌や、絡みついてくる指先に恐れを抱いた。だが今は、この手をとても心強いモノに感じた。

「とりあえず、この防壁があればどうにか――う、ん?」

 突きだした指先にかすかな熱を感じ、累は目を見開いた。

 防壁を中心に、無数の火花が飛び散っている。辺りは相当な高温になっているのか、周囲の風景は陽炎のようにぐらぐらと揺れていた。

「これ、あなたのまじない?」

「いや、これは……」

「もう十分よ、十分。お腹いっぱいよ」

 うんざりしたようなエレノアの声が響く。

 はっと累がその方向を見ると、エレノアは唇を歪めて空太と六郎を見ていた。その周りには無数の札が空中を舞い、赤く輝いている。

「結界だ……それもすごく強い。辺りの温度を変えちゃうくらい強力な結界……それを一瞬で、しかも詠唱もなしに展開したわけ……?」

 無傷のエレノアを見て、累は息を呑んだ。

 畏怖の目を向ける累をよそに、エレノアは大げさに肩をすくめる。

「その程度のキラしか持っていないの? がっかりだわ、とてもがっかり――リリー、ねぇ、そうでしょう?」

「まぁ、百年なら普通このようなものでしょう。そこそこ響きましたよ」

 ウォーターリリーはブラウスの袖を軽くめくった。

 少女らしい、白く滑らかな肌が晒される。だがそこにはまるで一筋の黒い亀裂が深々と走り、ウォーターリリーが指を動かすたび、きしきしと小さな音を立てた。

 異形の傷に空太が目を剥く。

「な、なんだそのヒビ……!」

「硝子は割れるものですよ、坊ちゃん。なにもおかしい事はありません、それが自然の摂理なのですから――まぁ」

 ウォーターリリーはひびをなで上げた。

 するとカチリと音を立てて亀裂が塞がり、消え去った。

「摂理から外れたわたくしが語ることではありませんね……」


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