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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅲ.火宅の剣
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14.

 ウォーターリリーが目を細めた。

「血のにおいがする……そのキラは――」

「こいつはかつて東北の寒村を襲った化物熊の爪さ! 犠牲者は把握されているだけでも数十人にのぼるって話だ……その全ての怨念が、こいつには染み込んでるんだよ!」

 ヒグマが地の底から響くような咆哮をあげた。

 地の底から響くような野太い咆哮にびりびりと空気が震える。それは人間の根源的な恐怖を煽り立て、累の体に激しい震えを走らせた。

「あっ、ペンが……!」

 指先が震え、マギペンが零れ落ちる。

 床へと落ちていく黒と銀のペンに、累はとっさに手を伸ばす。しかしそれよりも早く、わずかに身を屈めた市子が空中でマギペンを受け止めた。

 市子は累の手にマギペンを握らせると、その肩に手を回した。

「落ち着いて。わたしがあなたを守るから」

「あ、う……ありがと……」

 市子の手にしっかりと体を抱き寄せられ、一瞬累は硬直する。

 しかし、震えは収まった。マギペンを握り直し、累は再び陣を描き出す。先ほどよりもしっかりとした筆致で、空中に光の線が紡がれる。

「今度は……今度はしっかりやれるわ――!」

「もう準備はいいだろ! さっさと動け、六郎!」

 類の言葉を掻き消し、空太の怒鳴り声が響く。

 どこかうっとうしそうに巨体を揺すりつつ、熊が床に前足を叩きつけた。がばりとその大顎が開き、短刀のような牙がむき出しになる。

 まさにその瞬間、累は最後の線を描ききった。

「やれっていってるんだ! 早くしろ、六郎!」

「末ノ松山波超サジトハ――【波瀾封陣】ッッッ!」

 陣が光を放った。

 まるで水面に雫が散ったかの如く、空中に無数の青い光の波紋が現れる。丸い波紋は幾重にも折り重なり、やがて透き通った壁を形成した。

 壁が完成した瞬間、熊の口から野太い咆哮が迸った。

 それはまさに、音による砲撃。

 生物の喉が発しているとは思えないほどの爆音は天井や壁に亀裂を刻み、まっすぐに累達の方向に向かって放たれる。

 その衝撃波は累の張った防壁に真っ向からぶつかり、それを激しく震わせた。

 防壁に蜘蛛の巣状に亀裂が走る。


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