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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
5/58

3.

「――わりとあっけないな」

 累はふっと息を吐くと、それまでオオカミが立っていた場所に近づいた。

「……あった」

 赤く輝く小さな箱が地面に落ちている。

 累が軽くつつくと箱は溶けるように消え去り、その中身だけが残った。

 それは乳白色の牙だった。緩やかに湾曲したそれは累の手とちょうど丈は同じくらい。古い物なのか、ところどころ細かな亀裂が走っている。

「元はニホンオオカミの牙かな。それにしても大きすぎるけど」

 呟きながら、累は牙を掴み取る。

 掌の上に載せてよく観察すると、牙の表面にはところどころ複雑な模様が刻み込まれている。

 そしてそれは燐で描いたかのように、青白く光っていた。

累はうっとりと眼を細め、模様を指先でなぞる。

「……これが、私の最初のキラ」

 キラ――それは、古今東西の珍品の中でも、さらに特異なもの。

 人の想念や時の流れの影響によって、奇妙な力を宿した宝物のことを示す。かつて日本では、それらをまとめて『物怪』と呼んでいた。

 そして累はそのキラを集める蒐集家――の、見習いだった。

「どこかの御神体として扱われてたのが、流れに流れてこの有様――ってところか」

 言いながら、累は青白く光る渦巻き模様を指先でたどる。

 その時、鼻先を微かな腐臭がかすめた。

「っ――!」

 累はとっさに横っ飛びに転がる。

 直後、累が立っていた場所の地面にどす黒い何かが頭を突っ込んだ。

 砂埃が舞い上がり、地面が小さく振動する。

 累は手早く牙をウエストバッグのポケットにしまい、短刀を抜き払った。


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