11.
「……そういえば、先生も言ってたかな。使い手に制約を課すキラがあるって」
「ややこしいのね、キラって」
市子はうんざりしたようにため息をつき、乱れた髪を手ですいた。
累は骸骨武者を見上げ、小さく一礼する。
「……さぞかし無念だったろうね。刀に魂を宿してなおも、動けないまま蹂躙されて。あんたは――あんたの本当の持ち主は、きっとすごい人だったんだろうね」
その時、骸骨武者の体がぴくりと動いた。
白骨化した手が震えながら持ち上がり、累に向かって伸びる。
「るい! 下がりなさい!」
「まって」
肩を掴む市子の動きを制し、累はじっと骸骨武者を見つめる。
髑髏の眼窩から涙のように青白い光が溢れ、足下に零れ落ちる。それを皮切りに武者の体のあちこちから光が生じ、その姿を包み込む。
同時に、空太の元にあった白虎村正ががたがたと音を立てて震え出した。
「な、なんだ――!?」
空太が身をすくめる。
骸骨武者の体が光の中に溶けた。やがて群れ集う蛍を思わせる青白い燐光が、床に突き立てられた白虎村正へと吸い寄せられていく。
「ねぇ、るい……一体何が起きているのかしら」
市子が累の袖を軽く引き、たずねた。
迷子のように不安げなその瞳に、累は明確な答えを与えられない。
「私にも、ちょっとわからな――ッ」
答えようとしたその瞬間、ガツッと小さな音が響いた。
同時に光に包まれた白虎村正が宙を舞う。
それはくるくると回転しながら、累めがけてまっしぐらに飛んだ。
「うわっ、ちょ、刺さっ――!」
とっさに身を庇おうとする累。市子がみずがねの剣を手に累の前に立つ。
しかし、その必要はなかった。
市子の剣が振るわれるよりも早く、白虎村正は累の手前で静止する。
構えていた市子が目を見開いた。
「……止まった? 一体、なんなの?」
「これは――」
累はおそるおそる、空中で浮遊する白虎村正の前に立った。すると、その刀身を覆い隠していた青白い光がふっと消える。
そこにあったのは、一振りの小太刀だった。
丈は累の指先から肘までの長さと同じくらい。眩いばかりの純白の柄に、漆黒の鞘の組み合わせが眼に鮮やかだった。
鍔には、太陽に吼える虎の姿を模した装飾が施されている。
「白虎村正……」
無意識のうちに累は呟く。
その言葉に応え、刀の鍔が微かに煌めいたように見えた。




