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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅲ.火宅の剣
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11.

「……そういえば、先生も言ってたかな。使い手に制約を課すキラがあるって」

「ややこしいのね、キラって」

 市子はうんざりしたようにため息をつき、乱れた髪を手ですいた。

 累は骸骨武者を見上げ、小さく一礼する。

「……さぞかし無念だったろうね。刀に魂を宿してなおも、動けないまま蹂躙されて。あんたは――あんたの本当の持ち主は、きっとすごい人だったんだろうね」

 その時、骸骨武者の体がぴくりと動いた。

 白骨化した手が震えながら持ち上がり、累に向かって伸びる。

「るい! 下がりなさい!」

「まって」

 肩を掴む市子の動きを制し、累はじっと骸骨武者を見つめる。

 髑髏の眼窩から涙のように青白い光が溢れ、足下に零れ落ちる。それを皮切りに武者の体のあちこちから光が生じ、その姿を包み込む。

 同時に、空太の元にあった白虎村正ががたがたと音を立てて震え出した。

「な、なんだ――!?」

 空太が身をすくめる。

 骸骨武者の体が光の中に溶けた。やがて群れ集う蛍を思わせる青白い燐光が、床に突き立てられた白虎村正へと吸い寄せられていく。

「ねぇ、るい……一体何が起きているのかしら」

 市子が累の袖を軽く引き、たずねた。

 迷子のように不安げなその瞳に、累は明確な答えを与えられない。

「私にも、ちょっとわからな――ッ」

 答えようとしたその瞬間、ガツッと小さな音が響いた。

 同時に光に包まれた白虎村正が宙を舞う。

 それはくるくると回転しながら、累めがけてまっしぐらに飛んだ。

「うわっ、ちょ、刺さっ――!」

 とっさに身を庇おうとする累。市子がみずがねの剣を手に累の前に立つ。

 しかし、その必要はなかった。

 市子の剣が振るわれるよりも早く、白虎村正は累の手前で静止する。

 構えていた市子が目を見開いた。

「……止まった? 一体、なんなの?」

「これは――」

 累はおそるおそる、空中で浮遊する白虎村正の前に立った。すると、その刀身を覆い隠していた青白い光がふっと消える。

 そこにあったのは、一振りの小太刀だった。

 丈は累の指先から肘までの長さと同じくらい。眩いばかりの純白の柄に、漆黒の鞘の組み合わせが眼に鮮やかだった。

 鍔には、太陽に吼える虎の姿を模した装飾が施されている。

「白虎村正……」

 無意識のうちに累は呟く。

 その言葉に応え、刀の鍔が微かに煌めいたように見えた。


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