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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅲ.火宅の剣
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10.

 累はもう一発壁を殴り、振り返る。

 市子はみずがねを駆使し、なんとか骸骨武者を押し止めようとしている。累が振り返ったちょうどその時、市子の放ったみずがねの波によって髑髏が吹き飛んだ。

 だがすぐに首の骨の上にもやが漂い、新たな髑髏が現われる。

「キリがない……!」

 市子が舌打ちして、腰めがけて振るわれた刀を剣で払いのけた。

 親指の爪を噛み、累は必死で思考をめぐらせる。

「くそ……! あんな、あんな倒れたままの奴に――!」

 そこで、気づいた。

 累は目を見開き、血の味がにじむほど噛みしめていた親指をゆっくりと下ろす。

「お前らを殺せば、どれだけ理沙が褒めてくれるんだろうな! 邪魔者も消えるし、一石二鳥だ! ハハハハハ!」

 空太がけたたましい声で笑う。

 床に伏したまま、相変わらず白虎村正を握りしめていた。

「……なんで、起き上がらないんだろう」

 最初はエレノアに蹴られたダメージがあったから、動けないのだと思っていた。

 だが彼は先ほど結界装置を天井に投擲し、それを突き刺した。それだけの力が残されているのなら、もう少し体勢を変えることくらい出来るのではないか。

 本当は、動けない別の理由があるのではないか――累はこめかみを押さえた。


 ――キラを欲するのならばキラの本質を知らなければならない……。

 月下の温室で、物憂げにウォーターリリーが囁く。


 ――縛り上げられ身動きもとれないまま佐幕派に殺されたある長州藩士が持っていた……。

 空太のヒステリックな笑い声が脳裏にこだまする。


 ――キラが生じる条件は三つ……。

 紫煙をくゆらせながら、めぐるが語った言葉が蘇る。


 累の手が、弾かれたように動いた。

「――六道輪ッッッ!」

 放ったのは、もっとも慣れた術。

 叫び声とともに、六つの光の枷が宙を飛ぶ。

 それは刀を振り下ろそうとしている骸骨武者をすり抜け――空太の体を拘束した。

「がっ……く、ぐぅ……!」

 ぎりぎりと体を締め上げられ、空太が苦悶の声を上げる。

 その手が、サバイバルナイフから離れた。

 途端、骸骨武者の体からがくんと力が抜けた。市子めがけて振り下ろされようとしていた刀が手からこぼれ落ち、床に転がる。

 白骨化した両手が力なく垂れ下がるのを見て、市子が目を見開いた。

「止まっ……た?」

「――やっぱり、そうなんだ」

 累は掌を前に突き出したまま、ほうっと息を吐く。

 サバイバルナイフを握りしめている空太の腕には、枷が二つ。その拘束をいっそう硬くしつつも、累は骸骨武者に視線を移す。

「……白虎村正。動けないまま殺された志士の魂が宿った妖刀」

 骸骨武者は動かない。

 一瞬ためらった後、累は市子の側まで近づいた。いまいち事態を飲み込めていない市子の視線を感じつつ、物言わぬ骸を見上げる。

「――だから恐らくこのキラは、使い手にも同じ条件を課す」

「条件を、課す……?」

「正しくは制約、かな。つまりこのキラが想起――能力を発動させるためには、使い手は刀の柄から絶対に手を離してはいけない。そうだよね?」

「ぐ、うぅう……!」

 空太は悔しげに呻き声を上げた。

 その声を耳にして、累は自分の考えが正しかったことを理解する。


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