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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅲ.火宅の剣
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9.

「どうにかあの骸骨を壊さないと」

 先ほどよりもさらに後方に着地し、市子が呟く。

 顔をしかめ、累は自分の手を見下ろした。五指の腹が避け、血が手首まで細く流れている。

「だけど近づけないじゃん……少なくとも六道輪じゃ押さえられない」

「他のまじないはないの? もっと強力な奴」

「いくつか使えるけど、六道輪や鉄鎖とかと違って少し手間がかかるんだ……あいつが、仕掛ける時間を与えてくれるとは思えない」

「ふぅん……剣の早さ以外は、遅いみたいだけど」

 がしゃがしゃと音を立て、骸骨武者が近づいてくる。装備の重さ故か、その体は左右に危なっかしく揺れていた。

 迫り来る相手を前に市子は眉を寄せ、唇に触れた。

「……何か、もっと楽な手はないかしら」

「あるわけない。たいてい物事は苦しいものだよ」

「ばかね。苦痛から逃れようという考えが発展と成功の鍵でしょう」

 市子は鼻を鳴らし、両手を軽く広げた。

 床に向けた掌からみずがねがしたたり落ち、二つの剣を形成する。それを構え、市子は累をかばうように立った。

「ともかく考えなさい、るい。あの骸骨を沈める楽な手を」

「む、無茶言わないでよ! 私はそんな、慣れてないし――!」

「でも、あなたはわたしよりもキラに詳しい」

 市子は言って、音も無く歩き出す。まるで散歩でもするような、無防備な歩き方だった、

 骸骨武者の手がぴくりと動いた。

 銀の閃光が閃く。一瞬で錆びた刀が振り抜かれ、市子めがけて叩き込まれる。

 市子はわずかに顔を歪め、その刃を受け止めていた。

「っ――足止めならいくらか出来るわ」

「市子……!」

「お願いよ、るい」

 市子は押し殺した声で言って、刃を跳ね上げた。

 飛び散る火花、鳴り響く剣戟。

 目の前で戦う市子の動きに奮い立たされ、累は両手で自分の頬を打つ。

「どうすれば……何か、何か――!」

 親指の爪を噛み、必死で骸骨武者の動きを見る。

 前後左右にぐらぐらと揺れているが、その動きはみじんの隙もない。代わる代わるに繰り出される市子の剣を、錆びた刀一つでさばいている。

「っはは! 何をしたって無駄さ! 白虎村正はな、剣術に長けていたかつての主の怨念が染みついた妖刀だ! 刀の使い手以外は全て敵と見なして八つ裂きにするんだ!」

 床を叩き、狂ったように空太が笑う。

 骸骨武者を破壊するか、その動きを止めなければ空太の元までいけない。

 しかし空太の言うとおり、骸骨武者の剣は達人の域に達している。先ほどは猛攻を仕掛けていた市子は徐々に押されつつあり、防戦一方だ。

「るい、どうなの!」

「待って、待って! 今考えてるから! ここはやっぱり逃げ――!」

「逃がすわけないだろ……!」

 カツッと音を立て、天井に何かが刺さった。

 目の前の戦いから視線をそらし、累は頭上を見上げる。そこには、細い銀色の注射器のような何かが突き刺さっていた。

 その側面に、緑のランプが灯る。

 途端、累は一気に周囲の空気の流れが遮られたのを感じた。

「なに……!」

 得体の知れない感覚に累は思わず後退する。しかしその背中に、堅く冷たい感触を感じた。

 仰天した累は後ろを向き、手を伸ばす。

「壁……壁がある! これ――結界か!」

「この廊下はボクの――ボクの作った結界装置で完全に封鎖した! お前達は絶対に逃げられない……ここで、ボクの力で殺されるんだよ!」

「くっそぉ!」

 累は悪態をつき、見えない壁を渾身の力で殴りつけた。

 他人の張った、ましてや機械の力で張られた結界の解除方法など知らない。


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