表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅲ.火宅の剣
46/58

8.

 空太は床を叩き、甲高い声で笑った。

「ひっははは! 馬鹿だなぁ! 改造したのさ!」

「改、造……?」

 思いもよらない言葉だった。

 一瞬思考が停止する累をよそに、空太は笑い声を上げる。

「元々こいつはキラとしちゃ大したことのない、粗悪な数うちの小太刀だった……それをさ、鍛え直してやったんだ! ボクの力でさ!」

「な、なにそれ……」

 空太の言っている意味が理解できない。累の脳――あるいは、累を蒐集師たらしめている根源的な何かが、空太の言葉を理解を拒絶していた。

 違和感ばかりが胸の中に積み上がり、累は思わず口元を押さえる。

「刃を精製し直して、ハンドルの部分に綺羅石を精製した芯材を入れて……我が家の技術でより強靭に、より見栄え良くしてやったんだよ……!」

 空太は恍惚とした顔で、床に突き立てたサバイバルナイフを見つめる。

 その瞬間、違和感が一気に弾けた。

「そ――そんな事が許されるの!?」

「るい?」

 驚いたような顔をする市子の前に歩み出て、累は空太を睨み付ける。

「キラが生じる条件は3つ! 一つは時間経過、もう一つは環境の影響、最後は作者がそうあるべきとして作った場合!」

 かつて、めぐるから聞いた言葉が脳裏に蘇る。

『私達は救いがたい欲の亡者だ』

『だからこそ、その欲望の対象を尊重しなければならない』

「キラを改造するって事は、時間も、環境も――作者さえ否定するって事でしょ!? キラの存在そのものの否定じゃんか! そんな――そんなのって――」

 ウォーターリリーの姿を思い出す。

 あの二百年もの間人間を見てきたという、硝子と鉄によって作られたキラは――空太によって改造されたという村正を見て、一体何を思うだろう。

「……るい、るい。許せないのはわかるけれど、ちょっと――」

 押し殺した声で市子が呼ぶ。

 制止するようなその動きをしかし無視して、累は渾身の声で叫ぶ。

「そんなの冒涜じゃん!」

「だからなんだ!」

 錆びた刃が唸りを上げる。

 空太の怒号とともに骸骨武者の刀が振るわれ、累めがけて迫った。

「うわっ……!」

「るいッ!」

 市子が累の前に飛びだし、鋭く手を払う。

 銀色のみずがねが空中に弧を描いた。直後、錆びた刀が市子の側面めがけて叩き込まれる。

 耳障りな金属音とともに、市子の体がわずかに傾ぐ。

「市子!」

「平気よ。……もう、ひやひやさせないで」

 市子が深々とため息を吐く。

 その右手は指先から肩までがみずがねに覆われ、錆びた刃を防いでいた。

 軋みを上げ、骸骨武者が再び刀を構え直す。

「新米のくせにグズグズうるさいんだ! どうせその言葉も誰かの受け売りだろ!」

 空太が怒鳴り、片手を激しく振る。

 その動きに合わせ、骸骨武者は刀を繰り出した。めちゃくちゃに襲い来る斬撃の波に、両手をみずがねで覆った市子が応戦する。

「駄々っ子ね……!」

 やや苦しげに市子が笑う。

 彼女がやや押されつつあるのを見て取り、累は素早く印を結んだ。

「六道輪ッ!」

 瞬時に六つの光の枷が飛び、骸骨武者の両手を拘束する。

「ぐっ……!」

 指先に痛みが走り、累は眉をしかめた。

 まるで無数の糸で、きりきりと指を縛り上げられているかのような痛み。それに呼応するように、拘束された骸骨武者の体がぎしぎしと音を立てる。

「ボクはキラをより魅力的にしてやったんだ! その何が悪いと言うんだよ!」

「つぁあ……!」

 指先にさらに激痛が走った。

 累はなんとか精神を集中し、拘束をより堅いものにしようとする。

 しかし、その手を市子が掴んだ。

「拘束を解きなさい、るい」

「だけど――痛っ!」

 ぷつりと指先が裂け、血が滴り落ちた。

 手首を伝う赤い雫を見て、市子が切羽詰まった様相で叫ぶ。

「解きなさい! 早く!」

「くぅ……!」

 悔しさに累は歯を噛みしめ、六道輪を解除する。

 直後、錆びた刀が振り下ろされた。市子は累の腰に手を回し、高く跳躍する。

 唸りをあげて刃が側面を通り過ぎた。

 宙を跳ぶ二人の髪を風で掻き乱し、刀は床に深々と亀裂を刻み込む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ