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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅲ.火宅の剣
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7.

 このままここに留まっているのは危険だと、本能が伝えてくる。しかし逃げ場所を見つけるよりも早く、累の耳に震える男の声が届いた。

「り、梨沙さんを……梨沙さんを、殺すだって……お前、梨沙さんを殺すと言ったのか……?」

「あら?」

 エレノアが目を見開き、初めて存在に気づいたという顔で足下を見下ろした。

 空太がわずかに顔を上げ、エレノアを睨みあげる。

「ふ、ふざけるなっ……梨沙さんを――ボ、ボボ、ボクの梨沙さんを殺させてたまるか――!」

 空太の手が瞬時に動いた。

 太股に着けていたホルダーからサバイバルナイフを抜き放ち、空太は甲高い声で叫ぶ。

「お前の形を想起しろ――白虎村正びゃっこむらまさ!」

「キラを持っていたのか……!」

 エレノアが空太を止めるよりも早く、空太が床にナイフを突き立てた。

 直後――その場所から黒い影が広がった。

 ぎし、ぎしと何かが軋む音が響く。丸い形に広がった巨大な影の中から白い何かがちらつき、やがて白骨化した巨大な腕が伸びてきた。

 白い蜘蛛にも似た手がエレノアの足を掴み、高々と空中へ持ち上げる。

「くっ――!」

 火傷痕を歪め、エレノアが骸骨の腕を掴む。

 しかし抵抗むなしく、その体は壁に叩きつけられた。轟音とともに壁に大穴が穿たれ、土煙がどっと廊下に押し寄せる。

「エレノアさ――!」

 先ほどまで感じていた恐怖も忘れ、累は思わず崩れ落ちた壁に近寄ろうとする。

 しかし、そんな累の腰が抱え上げられた。

「うわっ!」

「周りを見なさい」

 累を軽々と抱え上げ、市子が背後へと飛ぶ。

 直後、それまで累達がいた場所に錆び付いた巨大な刀が振り下ろされた。

 メキメキと音を立てて床板が真っ二つに裂ける。

「なっ……!」

 市子の腕の中で、累は目を見開く。

 離れた場所で累を下ろすと、市子は興味深そうに空太の方を見た。

「……それも、キラというもの?」

「はっ、ははっ、そうさ! こいつは白虎村正! 縛り上げられ身動きもとれないまま佐幕派に嬲り殺されたある長州藩士が持っていた、村正のまがい物だよ!」

 地面に這いつくばったまま、空太が引きつった顔で笑う。

 その手には依然サバイバルナイフが握られていた。しかし先ほどと違って、刀身には禍々しい紫色の光を帯びている。

 そして彼を守るように、巨大な骸骨がそびえたっていた。

 髑髏には額当てを着け、全身にぼろぼろの衣をまとっている。白骨化した腕に錆びた太刀を構え、骸骨は青白い呼気を漏らした。

「村正だって……?」

 累は信じられない思いでその名を呟く。

 一方の市子は何がおかしいのか、嘲笑するように小さく笑った。

「村正……ふふ、千子村正ね。葵の名前を持つあなたが、その刀を使うの」

「いや、違うよ! そんな事あるはずない!」

 弾かれたように累は首を振り、空太の持つナイフを指さした。

「それ、どう見たって現代のナイフじゃん! それがどうしてこんな力を――!」

 ゆらりと刀を構え直す骸骨武者を、累は呆然と見上げる。


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