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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
3/58

1.

 おんおんと遠吠えが響いている。

 昼間から降り続いていた雨は先ほど止み、野原には月光が降り注いでいた。風はなく、辺りには湿った草のにおいがむっと立ちこめていた。

「……零時」

 ごつごつとした木の幹にもたれかかり、支倉累はせくらるいはため息を吐いた。

 肩に触れるほどの長さのダークブラウンの髪。人形のように整った顔立ちで、大きな瞳がやや幼い印象だった。白いブラウスに黒いコルセット風のベストという装いをしている。

「そろそろかな……仕掛けるか」

 累は頭を振って眠気を覚ますと、コルセットベストのポケットに手を伸ばした。

 黒いペンと無地のカードを一枚取りだす。カードの表面にさらさらとペン先を走らせ、蝶に似た紋様を描いた紋様を描いた。

「花ゾ昔ノ香ニ匂ヒケル――【蠱引こいん】」

 累の言葉に反応し、紋様がぼうっと輝いた。累は揃えた指先にカードを挟むと、それを目の前の草原に向かって投げつけた。

 光るカードは回転しながら闇を飛び、地面に落ちる。

「……よし、設置完了」

 累はほうと息を吐き、ペンをしまった。

 寂しげな咆哮が間近で響いた。

 そして、ずんっと前方から重い音が響き、累は顔をあげた。

 木の幹越しに様子をうかがうと、小山のような影が揺れているのが見える。

 そこにいたのは、巨大なオオカミだった。

 輝く銀の毛皮。ナイフのように鋭い牙――そして目を引くのは、胸元の青く光る紋様だ。まるで心臓の鼓動に合わせるように、ちかちかと闇の中で瞬いている。

 オオカミは、しきりに地面の臭いをかいでいた。

 そこには先ほど累が投げた、赤い紋様の描かれたカードが突き刺さっている。


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