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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅱ.月光硝子
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3.

 それをよそに、市子は食い入るように写真を眺めていた。

「ちゅうがく……知らないけれどその服、いいわ」

「セーラー服? まぁ、あの学校も制服はわりとよかったんだけどね」

「気に入った――それ、着ようかしら」

「は? ――って、え、ちょっと」

 累が顔を上げると、市子の装いが変っていた。

 黒いセーラー、赤いタイ、肩口やスカートに入った白い三本のライン――全て、写真の中の累の着ている制服と同じものだった。

 市子の体躯のせいか、より艶めかしい印象になっていたが。

「ど、どうやって……」

「いろいろ、自由に変えられるのよ」

 さらりと髪を掻き上げ、市子はどこか得意げに笑う。

 累はなおも問いかけようと口を開いたが、途中でゆるゆると首を振った。

「……聞くだけ無駄だよね」

「そうね。聞いたって、あなたなんかには理屈がわからないと思うわ」

「もうわけわかんない……」

 にたりと笑う市子に累は頭を押さえつつ、ノートをぱらぱらとめくる。

 夜真のノートには様々な研究の痕跡が残されていた。人魚の肉、人間の朽ちる過程の分析、水銀の可能性、得体の知れない薬草の効果、始皇帝の城の話……。

「本気で不老不死を追求してたんだ……」

「そうみたいね」

 息を呑む累に対して、市子は淡々と返す。

 父親のことだというのに、どこか他人事じみた反応だった。それがやや気になったものの、累は鞄からメモ帳を取り出して開いた。

「……それだけ死ぬ事が恐ろしかったのかな」

 現世夜真は、本名を遠村真之介という。

 大地主である遠村家の次男。嘉永二年(1849年)に生まれ、明治二十四年(1891年)に行方不明となる。川に転落し死んだという話もある。

 それ以外の夜真の経歴は謎に満ちている。晩年は重度の阿片中毒だったと言われているが、それさえも知人からの口伝えの話で確証はない。

 ただ確実に彼の人格に多大な影響を与えたと言われる事件を、累はめぐるから聞いた。


「夜真の父は遊郭通いが趣味だった」

 出かける前の昼飯時、めぐるは煙草をふかしながら累に語った。

 買ってきた総菜を並べたテーブルを二人で囲い、めぐるは昼間からウイスキーを開けている。累は彼女の向かいに座り、その言葉を手帳に書き留めていた。

「それで梅毒をうつされて、夜真が十歳の頃に死んだ。母親はそれが原因で発狂し、真冬の川に身を投げた。遺体が引きあげられたのは一週間後だったそうだ」

「それが原因で、死ぬことが怖くなった……?」

 めぐるの言葉を手帳に書きまとめながら、累は首をひねる。

「どうだろう。もしかすると少しだけ違うかもしれない」

 めぐるはふっと煙の輪を吐いた。そして天井へと昇り、消えていくそれを見上げながら、独り言のように言った。

「例えば無惨に死んだ両親のように――醜い姿になる事が恐ろしかったとか」

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