24.
「まぁ、こんな場所だし……なにがあっても、おかしくはないけど」
「あら、あら。その様子だと数年では済まない時間、私は眠っていたみたいね」
「……ねぇ、本当に人間なの?」
急に不安に襲われ、累はもう一度たずねる。
すると市子はやや呆れたようにため息を吐き、軽く両手を広げてみせた。
「そういうことにしておけば良いと思うけれど」
「いや、はっきりと――」
「今度はわたしが聞く番よ。――るい、あなたの目的は何? 何故この屋敷に来たの?」
市子の目が累を見つめる。
そのほの暗い瞳をまっすぐに捉えた瞬間、累の脳裏で火花が弾けた。
「あんた……夜真の絵の――」
「質問しているのはわたしよ、るい。答えて」
累の言葉を遮り、市子が再度たずねた。
その瞳、鼻筋、細い顎から首筋までのライン――全て、めぐるに見せられたあの無惨絵に描かれていた少女のものと一致する。
「答えて、るい」
三度、市子が問う。
たった今気づいた事実を口にする勇気はなく、累はぎこちなく答えた。
「私は……蒐集師なんだ。キラを集めている」
「きら?」
「不思議な力を持った物の事だよ。宝石とか、アクセサリーとか、武器とか……ともかく、なにか曰くのある珍しい物全部」
「ふぅん。それで、るいはそのキラを集めているのね」
「そう……だから、この屋敷に来たんだけど」
累の言葉に、市子は足をふらふらと揺らしながら首をひねる。
「キラ、ねぇ。この屋敷にそんな不思議な物なんてないと思うけど」
「……どちらかというとこの空間そのものが不思議だけど」
「ああ、でもざくろ石があったわ」
思い出した、という様子で市子が手を合わせる。
「ざくろいし? ガーネットのこと?」
「そんな綺麗なだけの石ころじゃないわ。ざくろ石はね、特別な石なの。人に不老不死を与えるという、魔物の石」
「ふ、不老不死って……冗談よね?」
さらりと放たれた途方もない言葉に累は息を呑む。
そういえば、夜真は不老不死の研究に没頭していたとめぐるは言っていた。ならばそんなキラを持っていてもおかしくはないが――。
「冗談なんかじゃないわ。本物よ」
「そんな……信じられないわ」
「――わたしが嘘を吐くとでも言うの?」
市子の声が急に低くなる。
暗い瞳がぼうっと輝いた。市子の手がゆらりと動き、その指先が累に向けられる。
「わかった! 信じる! 信じるから!」
嫌な気配を感じ取った累は激しく首を振り、叫ぶ。
「……わかればいいのよ」
市子は手を下ろし、にこりと微笑む。
少女の皮を被った怪物――そんな言葉が脳裏に浮かび、累は肩をさすった。
この怪物の気を損ねたら、一体自分はどんな目に遭うのだろう。
「……ざくろ石。そんなモノが、本当にこの世にあるのね」
「あるわ。父様が作ったのよ」
「と、父様……?」
肩をさすりながら、、累はぎこちなく聞き返した。
すると市子はほの暗い瞳を細めた。
「あなたが夜真と呼ぶ男よ」




