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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
25/58

23.

 累はわずかに唇を噛み、質問を変えることにした。

「なんで、私を襲ったの?」

「渇いていたから」

「……まさか喉が乾いたから私の血を飲んだとか、そんなふざけた事言わないよね?」

「違うわ」

 市子は首を振り、つかつかと累の元に歩み寄ってきた。

 先ほどの記憶が蘇り、累は思わず寝台の上から逃げ出そうとする。しかしそれよりも早く、市子が累の上にのしかかってきた。

「ちょっ……や、やだ!」

「渇くのは、この辺り」

 累の胸元――みぞおちの辺りに指を置き、市子は言った。

 どうやら危害を加えるつもりがない事を察し、累は暴れるのをやめる。

「……ここが渇くって、どういうこと?」

「さぁ、ね。ただわたしは人の血を呑まないと、ここが渇いてほとんど動けなくなってしまう」

「……だから、私の血を?」

「そうよ。美味しかったわ……とっても」

 市子は眼を細めると、累に向かって手を伸ばした。

 その手を反射的に払いのけ、累は逃げるようにして寝台から離れる。

 しかし軽い目眩を感じ、床に膝をついた。

「うっ……」

「あまり激しく動かない方が良いと思うわよ。……もうずいぶん長い間渇いていたから、少しもらいすぎてしまったの」

「長い間って……どれくらい?」

「さぁ……渇きすぎてしばらく眠ってたから、正直どれくらい時間が経ったのやら」

 市子はベッドに腰かけると、指を軽く折りながら考え出した。

「最後に起きていたときは寒かったから……十二月くらいだったかしら。ああでも、友禅流しがどうとか言ってたから……」

「十二月って……今、七月なんだけど」

「待って。もしかしたら新年を迎えていたかも。えっと……明治二十四年だったかしら」

「……冗談はやめてよ」

 累は引きつった笑みを浮かべ、ゆるゆると首を振った。

 しかし市子は気にする様子もなく、顎に軽く触れながら「ああ、二十四年だったかしら……あまり覚えていないのよね」などとぼやいている。

 その様子に累をからかうそぶりはない。累は笑みを消し、ぎこちなくたずねた。

「今は何年だと思う?」

「そうねぇ。今までで一番長く眠ったから……もしかして明治二十五年か、六年くらい?」

「……『平成』って言われて意味わかる?」

「へいせい? 気持ちが静かと言うこと?」

 きょとんとした顔で、市子が首をかしげる。

 まるで嘘を吐いている様子がない。累は言葉を失い、天井を仰いだ。

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