22.
施設に入れられたのは本当に突然の事だった。
だから累はまったく自分の境遇に全く納得がいかなかった。その消化不良な思いはずっと燻り続け、やがて耐えられなくなった累はある日施設を抜け出した。
母に説明して欲しかった。
自分のなにが気に入らなかったのか、なにが母を怒らせたのか聞きたかった。
なのに自宅についた時、全てがどうでもよくなった。
ぼんやりと累は天井を見上げていた。
天井にはザクロの木をモチーフにした細かな模様が入っていて、見ていて飽きることがない。それを見ているうちに、徐々に意識がはっきりしてきた。
寝台の上で寝返りをうち、累は窓の方に体を向けた。
「……それで、あんたは何?」
「何って? 質問の意味がよくわからないわ」
窓の外を見つめたまま、座敷牢の少女が答えた。
累は首筋を押さえる。先ほど少女に噛みつかれた箇所には傷こそ残っていないものの、まだ微かに刺すような痛みが残っていた。
「人間、なの?」
「あなたからはどんな風に見える?」
「……見た目だけは、人間みたいに見えるけど」
「ならそれでいいんじゃない」
「なんにも良くないよ」
重い体に鞭をうち、累は起き上がった。
窓際に立つ少女の背中を睨み、累はより鋭い声で問いかける。
「何者なの? なんでこの屋敷にいるの?」
「質問の多い子ねぇ。……でもいいわ。私は今、とてもいい気持ちだから」
座敷牢の少女が小さく笑い、振り返った。
艶やかな黒髪がさらりと流れる。顔にかかったそれを細い指先で絡め取りつつ、座敷牢の少女は歌うような口調で名乗った。
「わたしは市子。この屋敷の住人よ」
「……それ、本名?」
「それは本当に聞きたいこと?」
市子は静かに微笑んで首をかしげた。




