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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
24/58

22.

 施設に入れられたのは本当に突然の事だった。

 だから累はまったく自分の境遇に全く納得がいかなかった。その消化不良な思いはずっと燻り続け、やがて耐えられなくなった累はある日施設を抜け出した。

 母に説明して欲しかった。

 自分のなにが気に入らなかったのか、なにが母を怒らせたのか聞きたかった。

 なのに自宅についた時、全てがどうでもよくなった。


 ぼんやりと累は天井を見上げていた。

 天井にはザクロの木をモチーフにした細かな模様が入っていて、見ていて飽きることがない。それを見ているうちに、徐々に意識がはっきりしてきた。

 寝台の上で寝返りをうち、累は窓の方に体を向けた。

「……それで、あんたは何?」

「何って? 質問の意味がよくわからないわ」

 窓の外を見つめたまま、座敷牢の少女が答えた。

 累は首筋を押さえる。先ほど少女に噛みつかれた箇所には傷こそ残っていないものの、まだ微かに刺すような痛みが残っていた。

「人間、なの?」

「あなたからはどんな風に見える?」

「……見た目だけは、人間みたいに見えるけど」

「ならそれでいいんじゃない」

「なんにも良くないよ」

 重い体に鞭をうち、累は起き上がった。

 窓際に立つ少女の背中を睨み、累はより鋭い声で問いかける。

「何者なの? なんでこの屋敷にいるの?」

「質問の多い子ねぇ。……でもいいわ。私は今、とてもいい気持ちだから」

 座敷牢の少女が小さく笑い、振り返った。

 艶やかな黒髪がさらりと流れる。顔にかかったそれを細い指先で絡め取りつつ、座敷牢の少女は歌うような口調で名乗った。

「わたしは市子いちこ。この屋敷の住人よ」

「……それ、本名?」

「それは本当に聞きたいこと?」

 市子は静かに微笑んで首をかしげた。



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