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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
20/58

18.

 そして――現在。

「――【鉄鎖】ァアア!」

 悲鳴に近い声で叫びつつ、累は扉の上部にまじないの鎖を飛ばした。鉤爪がしっかり引っかかったかどうかを確認する余裕もなく、そのまま鎖に飛びつく。

「どこにいくの?」

 笑いを含んだ少女の囁き。

 直後、累の背後で金属がひしゃげる甲高い音が響いた。

 体のあちこちをぶつけつつ、累は半狂乱で扉の大穴を潜り抜けた。細い階段を駆け上がり、暗い廊下へと飛び込む。

 そこで気付いた。

「ど、どこに……」

 この廊下を先まで渡っても、道はどこにもない。

 思わず足を止めた累の耳に、ぎしりと嫌な音が聞こえた。

「ッ――!」

 累はバッと振り返る。ひしゃげた金属扉の向こうから、階段を登ってくる音がする。

 考える間もなく、累は金属扉に体を押しつけた。

「ぐ、うッ……このっ……!」

 全体重を乗せて、歪んだ扉を可能な限り閉める。

 ある程度扉が閉じたところで累は体を離し、片手で鋭く何度も空を切った。

「【鉄鎖】、【鉄鎖】、【鉄鎖】――!」

 扉に幾重にも鎖が張り巡らされていく。両端に形作られた鉤爪が壁にめり込み、歪んだ扉の封印をより硬いものにした。

 だが明らかに人間ではない何かに対し、この封印はどこまで通じるか。

 扉を封じた累はすぐにきびすを翻し、廊下を駆ける。

「出口……! どこかに出口はないの……!?」

 明かりの付いた廊下を累は走りながら、血眼で出口の類いがないか調べた。しかし廊下は入ったときと同様、なにもない壁が延々と続いていた。

 がんっと金属を叩く大音声が辺りに響き渡る。

「ひっ――!」

 肝を潰した累は足をもつれさせ、派手に床に倒れ込んだ。

 まるで狂ったシンバルのように扉を叩く音がこだまする。さらにその合間合間にきぃきぃと金属を引っ掻くような音が混じった。

 震えながら親指の爪を噛み、累は必死で思考をめぐらせる。

「どうしよう……どうすればいいの! 出口、出口は――!」

 左右を見る。前後を見る。

 しかし、ただただ廊下が延々と続くばかり。

 噛みしめた爪に血の味がにじむ。

 その時、轟音が響いた。僅かな振動とともに、重いモノが吹き飛ばされた音がする。

 そして――廊下から、足音が聞こえ始めた。

「あぁあ……!」

 赤く染まった爪から口を離し、絶望した累は天井を仰ぐ。

 そして、気づく。

「あれ、は……」

 まるであやとりの糸のように渡された太い梁のはざま。それまで天井だと思っていた部分に、格子状の何かが横たわっているのが見えた。

 それが何かを完全に理解するよりも早く、累はばっと格子に向かって手を伸ばした。

「【鉄鎖】ッ!」

 蛇の如く鎖が伸び上がる。

 尖端の鉤爪が格子の一部に引っかかった瞬間、累は渾身の力で鎖を引いた。

「らぁああ――ッ!」

 がらがらと歯車が回転する音が響く。格子が――折りたたまれていた階段が、埃を立てながら累の目の前へと降りていた。

 しかし長い階段の先は、木の板で塞がっている。

「【六道輪】!」

 階段を駆けあがりつつ、累は【鉄鎖】と並んで得意とするまじないを放った。

 掌から現れた一つの枷が階段を塞ぐ板にぶつかり、それを弾きあげる。

 累の目の前に光が差し込んだ。


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