2.
欲しい。
自分だけの特別な何かが。この世でただ一人、自分以外に手にすることの叶わない宝が。
それを願い、求め、探し、逢魔時に飛びだした。
そうして、出会った。
まるでビロウドのような薄闇の中、取り囲む鉄格子はまるで宝箱にも似ていた。
「るい、るい――そう。それが、あなたの名前なのね」
豪奢な座敷牢の中で、少女は歌うようにその名を繰り返す。
艶やかな黒髪が流れて、象牙の如く白い肌にかかる様があでやかだった。
こちらを見つめる眼の色は赤。ほの暗いその瞳を細め、少女はこくりと首をかしげた。
「ねぇ、どんな字を書くの?」
「字って……累乗の累、だけど」
「どんな字なのか忘れてしまったわ。ねぇ、書いてよ」
格子越しに、しなやかな腕が伸びてきた。どうやら、掌に書けといいたいらしい。
その掌に指先を伸ばした途端――手首に、少女の細い指先が絡みついた。
「あっ――」
逃れる間もなかった。
少女は強引に手首を格子の向こうに引き、まるで口付けるように唇を寄せる。
直後、鋭い痛みを感じた。
「痛っ……な、なにをするの!」
渾身の力で少女の手を振り払い、大きく後ろに下がる。
見れば、手首には小さな噛み傷があり、そこからぽたぽたと血が滴っていた。
そこから、少女が血を飲んだ。
その事実に脳が追いついた瞬間、甘ったるい声が耳朶を打った。
「ふふ……素敵。素敵よ、るい」
少女は小さく笑い、鉄格子に顔を近づけた。
その唇の端から、赤い血が零れた。それをちろりと舐め取り、少女は恍惚と眼を細める。
「あなたの血はまるで甘露のよう……体の奥まで染み込んで、私を潤してくれる」
「ひ……っ」
背筋に氷塊が滑り落ちたように寒気が走った。足が勝手に後ずさり、必死で少女のいる牢から距離を取ろうとする。
少女はますます笑みを深め、鉄格子に細い指先をするりと絡ませた。
「ねぇ、もう少し――もっとちょうだい、るい」
鉄格子がみしりと音を立て、歪んだ。