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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Prologue.欲
2/58

2.

 欲しい。

 自分だけの特別な何かが。この世でただ一人、自分以外に手にすることの叶わない宝が。

 それを願い、求め、探し、逢魔時に飛びだした。

 そうして、出会った。

 まるでビロウドのような薄闇の中、取り囲む鉄格子はまるで宝箱にも似ていた。

「るい、るい――そう。それが、あなたの名前なのね」

 豪奢な座敷牢の中で、少女は歌うようにその名を繰り返す。

 艶やかな黒髪が流れて、象牙の如く白い肌にかかる様があでやかだった。

 こちらを見つめる眼の色は赤。ほの暗いその瞳を細め、少女はこくりと首をかしげた。

「ねぇ、どんな字を書くの?」

「字って……累乗の累、だけど」

「どんな字なのか忘れてしまったわ。ねぇ、書いてよ」

 格子越しに、しなやかな腕が伸びてきた。どうやら、掌に書けといいたいらしい。

 その掌に指先を伸ばした途端――手首に、少女の細い指先が絡みついた。

「あっ――」

 逃れる間もなかった。

 少女は強引に手首を格子の向こうに引き、まるで口付けるように唇を寄せる。

 直後、鋭い痛みを感じた。

「痛っ……な、なにをするの!」

 渾身の力で少女の手を振り払い、大きく後ろに下がる。

 見れば、手首には小さな噛み傷があり、そこからぽたぽたと血が滴っていた。

 そこから、少女が血を飲んだ。

 その事実に脳が追いついた瞬間、甘ったるい声が耳朶を打った。

「ふふ……素敵。素敵よ、るい」

 少女は小さく笑い、鉄格子に顔を近づけた。

 その唇の端から、赤い血が零れた。それをちろりと舐め取り、少女は恍惚と眼を細める。

「あなたの血はまるで甘露のよう……体の奥まで染み込んで、私を潤してくれる」

「ひ……っ」

 背筋に氷塊が滑り落ちたように寒気が走った。足が勝手に後ずさり、必死で少女のいる牢から距離を取ろうとする。

 少女はますます笑みを深め、鉄格子に細い指先をするりと絡ませた。

「ねぇ、もう少し――もっとちょうだい、るい」

 鉄格子がみしりと音を立て、歪んだ。


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