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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
19/58

17.

 穴から飛び降り、累はふっと息を吐く。

「――だれ?」

「ひっ――!」

 心臓が跳び上がった。

 まるで弾かれたように累は後ろに飛び、扉に背中をつける。

 薄い明かりに照らされた広間だった。壁には棚や和箪笥が並んでいるが、どれも閉ざされていて中身を知ることはできない。

 そして累の正面には、鉄格子があった。

 格子のすぐ側には行灯が置かれ、明かりはそこから差し込んでいた。格子の向こう側は畳敷きになっている。

「ざ、座敷牢……?」

 おおよそ現代では目にすることのない代物と――そこの住民に、累は目を見開いた。

 格子の向こう側に、一人の少女が正座していた。

 寒気が走るほど美しい少女だった。長く艶やかな黒髪、雪のように白い肌。あでやかな曲線を描くその体は、黒地に極彩色の模様を散らした友禅の振袖に包まれていた。

 切れ長の瞳は紅く、薄闇の中から累の姿をひたりと見据えている。

「あなた、は……」

 累はふっと既視感を覚えた。

 どこかで、この少女の姿を見た気がする。だが、どこで見たのかを思い出せない。

「あなたはだれ?」

 座敷牢の少女が再び問いかける。

 扉に背中をつけたまま、累はふるふると首を振った。

「い、いや、あなたこそ誰? どうしてこんなところにいるの?」

「先に質問をしたのは私。人の部屋にずかずかと入ってきたのは貴女」

「わ、悪かったよ……」

 独特な歌うような口調で非難され、累は思わず状況も忘れて謝る。

 すると座敷牢の少女は紅い瞳を細め、手招きをした。

「……こっちに来て」

「え、その」

「来て」

「……わかったよ」

 有無を言わさぬ調子に圧倒され、累は仕方なく座敷牢に近づいた。

 見たところ、特に武器を持っている様子はない。なにより累と少女との間は物々しい鉄格子によって隔てられているため、危害を加えられることはなさそうだった。

 格子の側に累が立つと、少女はほうとため息を漏らした。

「――やっぱり、綺麗な顔ね」

「ま、まぁ、顔だけはいいって褒められるけど……それで貴女は――」

 言いながら、累は牢の中をざっとうかがう。

 牢とは思えないほど豪勢な空間だった。明かりの届く範囲だけでも十畳はあるように見える。奥には朱塗りの箪笥や、畳まれた布団などが見えた。

「名前はなんというの?」

 累の言葉を無視して、座敷牢の少女がまた問いかけた。

 どうやら、ともかく先に累に名乗らせたいらしい。

 少女の素性が知りたくてたまらなかったが、仕方なく累は名乗った。

「……私は支倉累。蒐集師――の、見習いだよ」

「はせくらるい……るい……」

 歌うように、座敷牢の少女は累の名前を繰り返した。

 そしてまるで獲物を見定めた猛獣のように目を細め、うっすらと微笑んだ。


「ねぇ、どんな字を書くの?」

 行灯の火がじり、と小さな音を立てた。

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