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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
18/58

16.

 ぎしぎしと床を軋ませながら、累はしばらく歩く。

 やがてランプの明かりは消え、目の前に暗闇が広がった。

 累は近くの鞄から蝋燭を取り出し、火を灯した。渦巻き模様の描かれたこの蜜蝋燭は蒐集師の道具の一つで、通常の蝋燭よりも消えにくい。

 鞄から取り出した燭台にそれを刺すと、累は再び廊下を進み出した。

 左右の壁を蝋燭で照らしてみても、扉の類いは見あたらない。窓などもなく、ただ赤い土壁の廊下が延々と続いているだけだった。

 もしや、ここから自分は出られないのではないか。

 一抹の不安を抱きつつも、累は慎重な足取りを崩さなかった。

 そして、廊下は唐突に終わった。

「ッ――!」

 累は蝋燭を掲げ、前方の様子をうかがう。

 数歩先に、ひしゃげた金属の扉があった。歪み、押し曲げられたそれは、今にも外れそうな蝶番によってかろうじて扉としての体裁を保っている。

 その向こう、薄赤い明かりが漏れている。

 累は足音を忍ばせて扉に近づき、向こう側の様子をうかがった。

「階段……地下に向かってる?」

 扉の向こうには細い階段があり、下へと伸びていた。左右の壁には赤い硝子で作られたランプが掛けられ、古い木の板をぼうっと照らしている。

 累は先に進むか迷い、扉から近づいたり遠ざかったりした。

 しかし、やがて意を決した。

「……仕方がない」

 累は腰のホルダーから短刀を引き抜き、それと蝋燭とを手にして階段を降り始めた。

 階段はそれほど長くは続かなかった。

 しばらくして、累の前に再び扉が現れた。

 黒く分厚い、金庫のそれを思わせる扉だ。取っ手の下には四つのダイヤル錠がついている。どれも数字ではなく、イ・ロ・ハと古い書体のカタカナの錠だった。

 しかし、それらはもはや役立たずとなっていた。

「……壊れてる」

 累は蝋燭を掲げ、扉の上部を観察した。

 天井すれすれの位置に大穴が穿たれ、そこから微かな明かりが漏れている。穴の周囲は、まるで飴細工のように溶け崩れているのが見て取れた。

 このような痕跡を残すものを、累は一つだけ知っている。

「喰虫……」

 死体がキラと化した存在である喰虫の毒液はあらゆるモノを蝕み、崩してしまう。最初の扉も、喰虫がその頑丈な体をぶつけて壊したのだろうか。

 この扉の向こうに喰虫がいるかもしれない。

 累は思わず扉から離れかけたが、すぐに踏みとどまった。

 どのみち、あのなにもない廊下に戻ったところでどうしようもない。状況を打開するためには先に進むほかないように思えた。

 扉をより細かに観察する。累の力でこの扉をこじ開けるのは難しそうだが――。

「……通れるかな」

 扉の上部にあいた大穴を見て、累は呟いた。小柄な累なら潜り抜けられそうな大きさだ。

 累はいったん短刀をホルダーにしまい、ぐっと拳を握った。

「――【鉄鎖てっさ】!」

 累はなにかを投げ打つように手を扉の大穴へと突き出す。

 その掌に光の陣がまたたいた。直後、鉤爪の付いた鎖がジャラジャラと音を立てて飛びだす。

 鉤爪が扉の上部に引っかかる。

 累は鎖を引き、鉤爪がしっかりとかかっているか確認した。

「よし……んっ!」

 蝋燭を扉の前に置き、累は鎖をよじ登る。

 大穴の周りはいびつな形に溶けていて、気をつけないとどこかで引っかかってしまいそうだった。累は華奢な体をなんとかくねらせ、大穴から抜け出た。


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