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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
17/58

15.

 物心ついた時にはもう父親はいなかった。

 母はいつも仕事で疲れていて、累の相手をすることさえ面倒そうだった。

 父のことについて母に聞くのは危険だと、累は早い内から学んでいた。一言でも父のことに触れればたちまち母は機嫌を崩し、ひたすら泣きわめく。

 しかし九歳になるとこの状況も変り、母は累の事をほとんど無視するようになった。一日中出かける日が増え、そんなとき累はいつも自分で適当なものを食べていた。

 やがて、母はずっと出かけるようになった。

 ガスが止まっても電気が止まっても水道が止まっても、母は帰ってこなかった。

 そのうち、食べる物がなくなった。

 やがて厳しい冬が来た。餓死寸前のところで、累はなんとか保護された。

 そうして、わけもわからないまま施設に入れられた。


 頭に鈍い痛みを感じた。

「……う」

 累は呻きつつ、ゆっくりと身を起こした。

 軽いめまいは感じるが、吐き気はない。梨沙に殴られた後頭部に触れると、こぶになっているようだが大怪我と言うほどではない。

「あいつら……ッ、よくも……!」

 毒づき、累は体を起こす。

 そして痛む頭を押さえつつ、辺りをざっと見回した。

「ここは……」

 そこはどうやら、廊下のようだった。赤黒い土壁には一定間隔でランプが設えられ、磨き上げられた木の床を照らしていた。

 累の後には壁が、前方には廊下が先へと続いている。

「赤匣屋敷……?」

 累の声に答える者はいない。

 耳を澄ませてみても、なんの物音もしない。人の気配も感じられなかった。

「……どうしようかな」

 呟きつつ、累はゆっくりと立ち上がった。

 コルセットベストのポケットを一つ一つ確認し、鞄の中身も確認する。幸い、仕事道具は一つも失われていないようだった。

 そして累は軽く手足をほぐしつつ、前方を睨む。

 廊下の奥はランプが壊れているのか、暗い。こちら側のオレンジ色の明かりもあまり届いておらず、その様子がほとんどわからなかった。

「――行ってみよう」

 累はごくりと唾を飲み込むと、慎重に一歩踏み出した。


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