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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
16/58

14.

 梨沙が扇子を開け閉じする音を聞きつつ、夕闇にペン先を走らせた。

「へぇ……その年で大したものねぇ」

 背後で梨沙が感嘆の声を漏らした。

 淡い光の線が幾重にも絡み合い、円形の複雑な陣を描き出す。累は片手の人差し指と中指を揃えて立て、完成した陣の中央に置いた。

「白キヲ見レバ夜ゾ更ケニケル――【かささぎはし】、開け!」

 累は二本の指を鋭く横に払った。

 直後、おぼろげだった陣の輪郭がくっきりと浮かび上がった。光の線は硬質な金属の質感をもち、黒い金属の円環として実体化する。

 円環の部品がひとりでに動き、ガチリと音を立てた。

 同時に空間にすうっと黒い線が走り、夏草の揺れる夜の風景を縦に切り裂いた。

「は、はざまだ……」

 背後で空太がゴクリと喉を鳴らした。

 はざまの中央で、円環がゆっくりと分かれていく。すると空間を裂いていた黒い線もまた円環に合わせ、徐々にその幅を広げていった。

 さながら、扉が開いていく様子に似ていた。

「はざまが開いてく……」

 目の前の光景を食い入るように見つめつつ、累は呟いた。

 やがて円環は完全に分かたれ、はざまの幅は人が一人通れる程度になった。

 焦れた様子で、梨沙がぱちぱちと扇子を鳴らす。

「まだ通れないの?」

「まだ……風景がハッキリ見えてないときはチャンネルが定まっていないから、どこに入り込むのかわからな――あれは?」

 暗いはざまの向こうに何かが見えた気がして、累は身を屈めた。

 暗闇の向こうで赤い色がちらりと瞬く。同時に鼻先を、微かな白檀のにおいが掠めた。

 累は眉をひそめ、よりはざまに近づく。

「なに――っが!」

 後頭部に強い衝撃を感じた。

 視界に火花が散り、手足の感覚が一気に消える。崩れ落ちる累の耳に、けたけたとやかましい梨沙の笑い声が聞こえた。

「ありがと、嬢ちゃん。助かったわ」

「こ――」

 この野郎。その悪態を言い切る間もなく、累ははざまへと倒れ込んだ。

 内臓が浮かぶような嫌な感覚。

 直後、累の体は重力に従って真っ逆さまに転落する。

 徐々に白濁していく意識の中で、累は香のにおいがいっそう強まるのを感じた。


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